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新ワード紹介(16)抗第Ⅷ因子インヒビター【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は抗第Ⅷ因子インヒビターについてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅶ 血液・造血器疾患>4 出血性疾患と血栓傾向 に追加されました.

抗第Ⅷ因子インヒビターとは?

抗第Ⅷ因子インヒビター(通称:後天性血友病; AHA)は凝固第Ⅷ因子(FⅧ)に対する自己抗体が産生されることにより発症する自己免疫性後天性凝固因子欠乏症です.FⅧ活性が著減することにより,突発的で広範な皮下出血や筋肉内出血などの重篤な出血症状を呈します.

本疾患の発症率は人口100万人あたり年間1.48人であり,日本における年間予測症例数は約200人です.

AHA発症の背景に自己免疫性疾患,悪性腫瘍や皮膚疾患などの基礎疾患を有することがあり,その治療がAHAの病勢改善に寄与することもあります.そのため,本症の診療に際しては基礎疾患の存在を念頭に置き,検索することが重要です.

AHAの典型的な臨床症状は,既往歴や家族歴のない高齢者に生じる突然の広範な皮下出血・筋肉内出血であり,その他に消化管出血や口腔内出血,血尿,手術創部出血などあらゆる部位での出血症状を呈することもあります.進行例においては,筋肉内出血によるコンパートメント症候群を呈する症例や出血性ショックを呈する症例,中枢神経など生命を脅かす重篤な部位への出血を生じる症例のように後遺障害や死亡の転帰をたどることもあります.そのため,本症の診療に際しては迅速な診断と治療介入が肝要です.

本症を疑った際には,まず止血能のスクリーニング検査(血小板数と出血時間,凝固系検査としてAPTTとPT)を行い,APTT延長のみを認める場合,次に確定診断検査として,FⅧ活性とFⅧインヒビター力価(Bethesda法)を測定します.この検査でFⅧ活性の著明な低下を認め,FⅧインヒビターが検出されれば,AHAと診断できます.また,診断の補助として院内でAPTTを測定できる病院ではAPTT交差混合(クロスミキシング)試験を実施することが推奨されています.

AHAの治療は,古くから①出血時の止血治療と②根治を目指す免疫抑制療法の2本立てで行われてきました.治療をすべき出血症状がある場合には適切に止血治療を実施することが推奨されます. また, FⅧインヒビターが除去されない限り致命的な出血症状をきたすリスクは持続するため, 診断後ただちに免疫抑制療法を開始することが推奨されています.

AHAの止血治療には,内因系凝固活性機序を迂回して止血効果を発揮する薬剤(バイパス止血製剤)が用いられます.日本で使用可能なバイパス製剤は,遺伝子組換え型活性型第Ⅶ因子製剤(rFⅦa:ノボセブン®),活性型プロトロンビン複合体製剤(APCC:ファイバ®)と第X因子加活性化第Ⅶ因子製剤(FⅩ/FⅦa:バイクロット®)の3種類です.

初回免疫抑制療法としては,ステロイドホルモン単独もしくはシクロホスファミドを併用することが推奨されています.他の薬剤ではリツキシマブなどが主に二次治療として用いられます.これら免疫抑制療法により70~90%は完全寛解(CR)となり,CR達成までの期間中央値は約2~3ヵ月と報告されています.また,CR達成後も発症後2年以内に約20%が再燃しますが,再燃例の大部分は免疫抑制療法により再びCRを得ることができます.

本症の死亡率は約25%と比較的予後不良であり,主な死因は出血と感染症です.患者の多くは高齢者であり,重篤な臓器出血や運動器出血により長期のベッド上安静を強いられることもあるため,病状安定後に日常生活動作の低下に対するリハビリが必要となる場合も多いです.

これら2つの治療に加えて,近年新たな治療戦略として出血予防を可能とする抗体薬(エミシズマブ:ヘムライブラ®)が保険適用となり,臨床現場に登場しました.今後は,①止血治療,②免疫抑制療法とならび,③出血抑制治療を含めた“3本の矢”がAHAの標準治療となっていくのでしょう.

出題基準に追加された背景は?

近年,人口の高齢化に伴い日本でもAHAの報告数が増加しているため,疾患啓発の重要性と相まって注目されています.それを受け,2016年には自己免疫性凝固因子欠乏症の一分症として厚労省の指定難病288番に認定されました.

AHA患者の受診動機の大半は出血症状のため,多くの患者は初めに出血部位に応じた専門診療科を受診することになります.さらに専門医療機関での急性期治療後には,慢性期病院でリハビリを必要とすることも多いです.そのため,血液専門医だけでなく,救急医,プライマリーケア医など,どの領域を専門とする臨床医も本疾患に遭遇する可能性があります.

これらのことから,全ての臨床医に満遍なく疾患啓発をする必要があると考えられ,今回出題基準に追加されたのではないでしょうか.

過去問での出題状況は?

第118回までの医師国家試験では,「抗第Ⅷ因子インヒビター」が問題中に登場したことは一度もありません.しかし,後天性血友病は直近の国試でも出題されているため(117E8116D25),今回紹介したワードが第119回以降の国試に登場する可能性は大いに考えられます.

確認問題を解いてみよう!

Q.後天性血友病Aについての記述で間違っているものはどれか? 1つ選べ.
a 悪性腫瘍や自己免疫疾患などの基礎疾患を有することがある.
b 広範な皮下出血や筋肉内出血で発症する高齢者が多い.
c APTT交差混合(クロスミキシング)試験が診断の参考になることがある.
d インヒビターを消失させるために免疫抑制療法を実施する.
e 診断確定後直ちに全例に対してバイパス止血製剤を投与する.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※執筆:小川 孔幸(群馬大学医学部附属病院 血液内科)

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