国試

新ワード紹介(17)双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は《双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害》についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論Ⅱ-2「気分障害、統合失調症と類縁疾患」のA「気分〈感情〉障害」②双極性障害(躁うつ病)の備考に追加されました.

双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害》とは?

双極性障害は,うつ病と並んで重要な気分の障害を主徴とする代表的な精神疾患です.

気分の障害は,大きく抑うつ状態と躁状態に分けられます.大まかにいうと,抑うつ状態だけがみられるものがうつ病,抑うつ状態と躁状態の両方がみられるものが双極性障害です.診断基準(DSM-5)では,抑うつ状態でみられる各種症状(抑うつ気分,興味・喜びの喪失など)が一定以上に重症な場合を抑うつエピソードとします.また,躁状態でみられる各種症状(高揚気分,活動性の増加など)が一定以上に重症な場合を躁病エピソードとし,躁病エピソードを満たすほど重症ではないものを軽躁病エピソードとします.

双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害は,双極性障害をさらに分類した病型です.躁病エピソードを認める場合は双極Ⅰ型障害軽躁病エピソードと抑うつエピソードを認める場合は双極Ⅱ型障害と診断されます.

注意点として,双極Ⅰ型障害の診断に抑うつエピソードの有無は問いませんが,実際には双極Ⅰ型障害の患者さんの大半が抑うつエピソードを経験します.また,躁病エピソードと軽躁病エピソードを比べると,確かに軽躁病エピソードの方が躁症状自体は軽症ですが(社会的な著しい障害を起こしたり,入院を要したりするほどではない),これは,双極Ⅱ型障害は双極Ⅰ型障害の軽症型であるということではありません.双極Ⅱ型障害の患者は,双極I型障害の患者に比べて,抑うつ状態がより長期間続くことや,気分変動性や自殺既遂がより多く社会的機能面で大きな障害となります.

治療にはⅠ型,Ⅱ型ともに,気分安定薬(炭酸リチウム,カルバマゼピン,バルプロ酸,ラモトリギン),一部の非定型抗精神病薬(オランザピン,クエチアピンなど)を用います.なお,双極性障害では抑うつ状態もみられますが,抗うつ薬は原則それ単体で使用することはありません.抗うつ薬は,むしろ躁転と急速交代化(躁病エピソード、抑うつエピソードなどの気分エピソードを年4回以上繰り返す)の危険があります.再発率が高く,心理教育・薬物療法・支持的精神療法をもとに,薬物療法を長期間継続する必要があります.また,急性期,特に自殺企図がある場合や躁状態などでは入院を要することもあります.

出題基準に追加された背景は?

主要な診断基準としてDSM-5(2013年発行),ICD-11(2019年にWHO承認)とがありますが,双極性障害におけるⅠ型とⅡ型の分類は,細部の差異はあるもののDSM-5およびICD-11のいずれでも採用されています.このように,疾患概念が確立,浸透してきたことを受けて,双極性障害の病型分類である双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害が新ワードとして医師国家試験出題基準に登場したのでしょう.

過去問での出題状況は?

新出題基準が反映された初回となる118回国試(118E43,118E44)では,うつ病として抗うつ薬が投与されていた患者が,躁転により双極Ⅰ型障害に診断が変更となったことを把握し,その際見られうる症状や対応について適切なものを選べるかが問われています.

▲118E43(正解はe),118E43(正解はb)

また,117回国試(117A5)では誤答選択肢として「双極Ⅰ型障害」が登場しています.

▲117A5,正解はd

双極性障害でいうと,第100回以降の国家試験だけでも, 104D58108I30109D23111A14113D73113E9114C57116F56117F32に出題されており,頻出疾患といえるでしょう.これまでは,症状と治療薬に関する出題が中心でしたが,今後は双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の違いを理解していることが求められるかもしれません.もちろん,まずは躁症状や抑うつ症状をしっかり頭にいれましょう.

確認問題を解いてみよう!

Q.双極性障害について正しいものを選べ.

a 双極Ⅰ型障害の診断には抑うつエピソードが必須である.
b 抑うつエピソードを認めない双極Ⅱ型障害も存在する.
c 双極II型障害の軽躁病エピソードでは、入院を要するほどの症状は来さない.
d 双極II型障害では,抑うつ状態は長く続かない.
e 抑うつエピソードに対して抗うつ薬を使用する.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※監修:三木 祐介(谷町みきこころの診療所)

連載バックナンバー

令和6年版医師国家試験出題基準 変更のポイントは?
新ワード紹介(1)喘息COPDオーバーラップ〈ACO〉
新ワード紹介(2)遺伝性乳癌卵巣癌症候群
新ワード紹介(3)アミロイド苔癬
新ワード紹介(4)可逆性後頭葉白質脳症〈PRES〉
新ワード紹介(5)周産期心筋症
新ワード紹介(6)脳脊髄液減少症
新ワード紹介(7)微小血管減圧術
新ワード紹介(8)血清シスタチンC
新ワード紹介(9)体軸性脊椎関節炎,強直性脊椎炎
新ワード紹介(10)先天性補体欠損
新ワード紹介(11)抗合成酵素症候群
新ワード紹介(12)免疫介在性壊死性筋症
新ワード紹介(13)発熱性好中球減少症
新ワード紹介(14)マクロファージ活性化症候群〈MAS〉
新ワード紹介(15)ヘパリン起因性血小板減少症〈HIT〉
新ワード紹介(16)抗第Ⅷ因子インヒビター
新ワード紹介(17)双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害
新ワード紹介(18)広場恐怖症
新ワード紹介(19)身体醜形症
新ワード紹介(20)睡眠時遊行症
新ワード紹介(21)場面緘黙
新ワード紹介(22)毛細血管拡張症〈angioectasia〉
新ワード紹介(23)アデレード宣言
新ワード紹介(24)ヒルの基準(関連強固性,時間性,一貫性,整合性,量反応関係,生物学的妥当性など)
新ワード紹介(25)mRNAワクチン
新ワード紹介(26)患者・市民参画
新ワード紹介(27)心臓震盪

確認問題の答え:c

 関連コンテンツ

新着記事カテゴリー


 すべて

 国試

 CBT・OSCE

 動画・アプリ

 実習・マッチング

 研修医・医師

 コラム

 その他