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新ワード紹介(18)広場恐怖症【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は《広場恐怖症》についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論Ⅱ-3「不安症,ストレス関連症,身体的苦痛症,または身体的体験症」のA不安障害〈不安症〉の中に追加されました.

広場恐怖症》とは?

広場恐怖症とは,公共交通機関や広い場所などのすぐに逃げ出せない,あるいは助けを求めることができない状況に対して過剰な恐怖や不安をもち,これらの状況を回避する病態をいいます.

すぐに逃げ出せない,あるいは助けを求めることができない状況とは,例えば電車やバスの使用,駐車場などの広い場所や店内などの囲まれた場所にいること,列に並んだり人だかりの中にいたりすること,あるいは屋外に一人でいることなどをいいます.

広場恐怖症は,青年後期から成人早期に最も有病率が高く,特に女性に多く認められます.

ここで注意したいのが,単に特定の場所に対して恐怖を抱いているわけではなく,パニック発作のような症状やその他の制御困難な身体症状など,何かがあったときに逃げ出せない・助けてもらえないことに対して恐怖や不安を感じているのが,本疾患の本質的な特徴であることです.

このため,例に挙げたような場所に行くときは助けてくれる人(親や友人など)と一緒であることを望む(一緒であれば行ける)患者もいます.

回避の程度は患者によって様々で,どうしても必要な場所には苦痛を感じながらも一人で行ける人もいれば,前述のように助けてくれる人と一緒であれば行動できる人,また,完全に家から出られなくなってしまう人もいて,それぞれ日常生活に支障をきたします.

なお,治療はSSRIなどによる薬物療法や,精神療法,段階的曝露などの行動療法が行われます.

ちなみに…

広場恐怖症(agoraphobia)の“agora”は,古代ギリシャ語のアゴラ(公共の広場)に由来しています.古代ギリシャにおいて“広場”というと“集会の場”や“市場”をいい,多くの人が集まる場所であったため身動きが取りにくかったと考えられます. 現代の私達が広場と聞くと,“単なる広い空間(場所)”を思い浮かべてしまいますが,広場恐怖症における不安や恐怖の対象が上記のような“逃げ出せない・助けを求められない状況”を指すのはこのような背景があるのです.

出題基準に追加された背景は?

広場恐怖症をパニック症の症状の一つとして考える(DSM-IVなど)か,独立した疾患概念として捉えるのか(ICD)については従来議論がありました.DSM-Ⅳにおいては,独立した概念としてではなく,パニック症の結果生じる随伴症状としてのみ位置づけられていました.対してICD-10,ICD-11においては,広場恐怖症は独立した疾患として一貫して提示されていました. このたび,DSM-5でも足並みを揃えて一つの疾患として独立したこともあって,出題基準にも追加されたと考えられます.

過去問での出題状況は?

新出題基準が適用となった118回を含めて,広場恐怖症が主体の出題はありませんが,こんな問題がありました。

【113E19】

社交不安障害の患者の訴えとして特徴的なのはどれか.

a 「怖いので飛行機には乗れない」

b 「世間の人々から嫌われている」

c 「明日にも何か大変なことが起こる」

d 「人ごみや公共の場所に行くと不安になる」

e 「人前では緊張して思うように話ができない」

社交不安障害の患者の訴えなので答えはeですが,dの選択肢は広場恐怖を想起させる訴えとなっています.

精神疾患を鑑別・診断するうえでは,患者の訴えが非常に重要になります.各疾患で,患者がどのようなことを訴えるのか確認しましょう.

また,100回以降の国試だと103G65〜67では広場恐怖を伴うパニック障害について問われています.今後は広場恐怖症自体について問われる可能性があるので,パニック症と広場恐怖症それぞれについて,しっかり勉強しましょう!

確認問題を解いてみよう!

Q.広場恐怖症について正しいのはどれか.

a 中年〜高齢者に多い.
b 女性に多い.
c 人前では緊張して話せなくなる.
d パニック症と併存することはない.
e 薬物療法は無効である.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※監修:三木 祐介(谷町みきこころの診療所)

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確認問題の答え:b

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