[分析]データでみる107回国試(その5)出題数の多い分野,難しい分野はどれ?
前回までは,問題形式ごとに分けたレビューでしたが,
今回は,分野(≒診療科目)別に国試を振り返ってみようと思います.
◆出題数の多い分野は?◆
まずは,分野別の問題数をみてみましょう.
106回と比較したグラフです.
こうしてみると,やはり公衆衛生の出題がダントツで多いですね.
法律や統計など,あまり勉強にヤル気が起きない,という人も多いかもしれませんが,
絶対おろそかにはできない分野です.
メジャー科では呼吸器,循環器からの出題が特に多く,
マイナー科では精神科がダントツです.
マイナー科では,放射線科の問題が去年に引き続いて増加したことも話題になりました.
また,小児科,産科も例年問題数が多いです.
また,注意すべきは昨年に引き続き増加した「医学総論」です.
特に必修問題においてよく出題される,
分野をまたいだ常識問題や,医療面接などが含まれるのですが,
かなりの割合を占めるようになってきています.
こちらについては,次回のメルマガでクローズアップしようと思います.
◆どの分野が難しい?◆
次に,分野別の正答率です.
問題数の多少も考慮しながら見て下さいね.
問題数が多い分野は,概ね昨年と同じくらいの正答率を保っています.
感染症,小児科,整形外科は例年通りやや難しい問題が多かったようです.
婦人科,代謝・内分泌,泌尿器科,医学総論,腎は,
昨年に比べ5%以上平均正答率が下がり,難しい問題が出たようです.
◆分野別の難問・新出事項をチェック!◆
107回国試では,どのような問題が受験生を悩ませたのでしょうか.
分野ごとに,いくつかご紹介します.
1.メジャー科
107I7
拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別に最も有用な検査はどれか.
a 冠動脈造影
b 心エコー検査
c Holter心電図
d 安静時心筋血流SPECT
e 血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉測定
【解説】
答えは『a 冠動脈造影』で,正答率は24.8%でした.
拡張型心筋症と虚血性心筋症は,ともに左室のびまん性の収縮力低下をきたす疾患です.
拡張型心筋症は心筋そのものの変化,虚血性心筋症は虚血による変化であるため,
冠動脈造影で虚血の有無を確かめることにより鑑別を行うことができます.
実臨床で,病歴や心エコー所見から拡張型心筋症を疑った場合,
診断のためには虚血性心筋症などの特定心筋症を除外する必要がありますが,
今までの国試においては,拡張型心筋症の問題といえば
「若年者の心不全症状→心エコーで左室のびまん性収縮力低下→拡張型心筋症」
という臨床問題が定番だったため,
心エコーを選んでしまった人が多かったようです(56.1%).
今回正答率は低くなってしまいましたが,
これは実臨床に即した良い問題だと思います.
他にメジャー科目で新しい問題には以下のようなものがありました.
チェックしてくださいね☆↓
●結核性リンパ節炎(A53,正答率59.8%)
※他,107回では結核の問題がなんと6問も出題されました!
●サルコイドーシスの気管支鏡所見(A16,正答率52.3%)
●ESDの適応(B2,正答率86.5%)
●抗甲状腺薬の副作用の詳細・・・ANCA関連血管炎など(D8,正答率48.2%)
●腸腰筋膿瘍の診断と治療(D56,正答率50.0%)
2.小児,産婦人科
107D50
D50 2ヵ月の乳児.咳を主訴に来院した.2週前から咳が出現し,次第に咳が増悪するため受診した.咳は発作性に出現し,いったん咳が出現すると10回程度連続するという.患児は顔面を紅潮させ反復して激しくせき込んでいる.入院が必要と判断された.体温37.2℃.SpO2 98%(room air).咽頭と胸部とに異常を認めない.血液所見:赤血球394万,Hb 12.6g/dl,Ht 38%,白血球32,000(桿状核好中球1%,分葉核好中球20%,好酸球1%,リンパ球78%),血小板21万.CRP 0.3mg/dl.胸部X線写真に異常を認めない.
保護者への説明として適切なのはどれか.
a 「隔離が必要です」
b 「咳は数日で止まります」
c 「病原体の迅速診断が可能です」
d 「ペニシリン系抗菌薬が有効です」
e 「気管支拡張薬の吸入が有効です」
【解説】
答えは『a 隔離が必要です』で,正答率は19.4%でした.
百日咳は感染力が強く(飛沫感染),
学校保健安全法では第二種感染症に指定されており,
「特有の咳が消失するまでまたは5日間の適正な抗生物質製剤による治療が終了するまで」
出席停止(隔離)となります.
同様に,入院する場合には,他の患児への感染を防ぐため隔離が必要と考えられます.
特に乳児では無呼吸発作や合併症により重篤となりやすく,命に関わる場合もあるため,
十分な注意が必要です.
近年,百日咳の成人例が増加していますが,小児例に比べ症状が軽いことが多いため,
未診断の大人が子供の感染源や流行拡大の原因になってしまう懸念がある,
ということも,合わせて覚えておきましょう.
107E18
35歳の女性から21trisomyの児が出生する確率に最も近いのはどれか.
a 1/10
b 1/300
c 1/1,000
d 1/3,000
e 1/10,000
【解答】
答えは『b 1/300』で,正答率は53.3%でした.
高齢出産,出生前診断が世の中で話題になっており,
最近では著名人がクアトロテストの結果を公表したことで賛否両論が巻き起こりました.
これから医療者になるものとして,
このようなトピックスについても意識して確認しておく必要がある,
という意図で出された問題だと考えられます.
3.マイナー科
107E22
画像検査で患者の放射線被ばく線量が最も多いのはどれか.
a 胸部単純X線撮影
b 腹部ダイナミックCT
c 骨シンチグラフィ
d マンモグラフィ
e MRCP
【解説】
答えは『b 腹部ダイナミックCT』で,正答率は48.0%でした.
骨シンチと迷った人が多かったようです(37.2%).
どれも国試受験生の皆さんにはおなじみな検査ですが,
具体的にどのくらいの線量か,ということを把握していた人は少ないと思います.
このご時世,放射線という言葉に敏感になっている患者さんもおり,
検査に不安を抱く方も多いと思います.
放射線科は,多くの医学生にとってはなかなか勉強する機会のない科目ですが,
何か聞かれた時に答えられるように,
このあたりは,常識として知っておいても良いかもしれませんね.
さて,ここまで難問をご紹介してきましたが,
「難問はみんな解けないから,わからなくていいんじゃない?」
と思っている方もいると思います.
それは確かに,自分が実際に受験する回の国試に関してはそうなのですが,
既に出題された難問は,次に出された時には難問ではなくなる,
ということに注意して下さい.
どういうことかというと,
国試は多くが過去問をベースに出題され,
受験生は過去問を中心に対策を行なっているため,
初回は「難問」と言われた問題も,
二回目の出題では正答率が大幅に上がり,落としてはいけない問題になります.
また,107回の難問の傾向として,
「細かすぎる問題」というよりは,
「臨床的に重要な内容なんだけど,初めて問われたため正答率が低くなった問題」
が多いので,
そういう意味でも,チェックしておいて損はないと思います.
さて,また今回も長くなってしまいましたが,
このへんで終わりにします.
次回は,「データでみる107回国試」最終回で,
「実習重視」,「医療総論」などの最近の国試のトピックスについて,
クローズアップする予定です.
どうぞお楽しみに☆
(編集部 S)