[5・6年生]医療ニュースから予想する国試第4回:ダニと感染症
こんにちは!編集部S藤です.
「医療ニュースから予想する国試」第4回のテーマは,“ダニと感染症”.
今年1月に国内で患者が初めて確認され話題になっている新興感染症の,
『重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)』に関連した内容をお送りします.
SFTS自体が国試に出題されることはまだないでしょうが,
関連して色々なダニ媒介感染症や,
ダニ刺咬症の対応についての問題が出題される可能性は十分考えられます.
また,ちょうど今の時期(春~初夏)は北陸・東北地方でのツツガムシ病のピークなのですが,
秋田県では昨年を上回る数の患者が発生し,死亡者も出るなどのニュースが報じられています.
そこで今回は,
(1)最近話題の『SFTS』のニュースの概要
(2)ダニ媒介感染症について,国家試験での過去問研究
(3)今後の出題予想
を,ご紹介していこうと思います.
◆最近話題の『SFTS』ってどんな病気?◆
ここは国家試験には出ないので,気になる人だけ読んでくださいね.
『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』は,
2009年に中国で患者が報告され,2011年にウイルスが特定されたばかりの疾患で,
日本では平成25年3月4日に,4類感染症に追加されました.
4類感染症は,診断したら直ちに全例を届出でしたね(重要!).
ブニヤウイルス科のSFTSウイルスによる感染症で,
主にマダニ刺傷による感染の後6日間~2週間の潜伏期間を経て発症します.
(ちなみにほかのブニヤウイルス科のウイルスには,クリミア・コンゴ出血熱や腎症候性出血熱の原因ウイルスなどがあります.)
マダニ刺傷が主な感染経路であり,
予防のためにはマダニに刺されないようにすることが最も重要です.
また,体液を介したヒト-ヒト感染も報告されているため,
患者さんの血液等の検体の取り扱いには十分な注意が必要です.
(スタンダードプリコーションの遵守)
症状は発熱と消化器症状が中心で,
頭痛,筋肉痛,神経症状,リンパ節腫脹,呼吸器症状,出血症状等もみられます.
特異的な治療法はなく,致死率は10%を超えるといわれています.
マダニは春~秋にかけて活動が活発になるため,
今後も患者数が増加することが危惧されています.
◆ダニ媒介感染症の過去問研究◆
国試で出題されたことのあるダニ媒介感染症はライム病とツツガムシ病の2つです.
国試では100回台に入ってから出題数が増え,毎年のように出題されています.
104回(2009年度),105回,106回での出題を見てみましょう.
[104I20]
スピロヘータが引き起こすのはどれか.
a 野兎病 b ライム病 c Hansen病
d つつが虫病 e Celsus禿瘡
【正答】b
疾患と病原体の組み合わせを問う問題です.
dのつつが虫病はライム病と同じくダニ媒介感染症ですが,病原体はリケッチアです.
[105D47]
40歳の男性.小学校教諭.5日間続く発熱と全身倦怠感とを主訴に来院した.2週前に林間学校から帰ってきた.林間学校では野外活動を引率した.帰宅して9日後から発熱と倦怠感とを訴え,自宅近くの診療所でセフェム系抗菌薬の投与を受けていたが,症状が改善しないため紹介されて受診した.意識は清明.体温38.5℃.脈拍92/分,整.呼吸数24/分.血圧122/76mmHg.右前腕に皮疹を認める.心音と呼吸音とに異常を認めない.腹部は平坦,軟で,右肋骨弓下に肝を4cm触知する.脾を触知しない.血液所見:赤血球396万,Hb 12.0g/dl,Ht 38%,網赤血球1.2%,白血球7,800(桿状核好中球12%,分葉核好中球51%,好酸球2%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球28%),血小板8.1万.血液生化学所見:尿素窒素18mg/dl,クレアチニン0.6mg/dl,総ビリルビン0.9mg/dl,AST 364IU/l,ALT 451IU/l,LD 736IU/l(基準176~353).CRP 8.3mg/dl.皮疹の写真を示す.
病原体として考えられるのはどれか.
a 真菌 b 原虫 c ウイルス
d リケッチア e マイコプラズマ
【正答】d
同じような症例問題で,治療薬(テトラサイクリン系抗菌薬)を選択する問題が第100回国試にも出題されています.今後は同様の症例問題で診断法(血清診断)なども問われる可能性があります.
[106G16]
主としてマダニが媒介する疾患はどれか.
a マラリア b ライム病 c リーシュマニア感染症
d ペスト e 野兎病
【正答】b
疾患と媒体の組み合わせを問う問題です.
ツツガムシ病の媒体もダニ(ツツガムシ)であることを覚えておきましょう.
☆これだけは覚えておく!まとめ☆
1.ダニが媒介する主な疾患:(媒体)/(病原体)
・ライム病:マダニ/スピロヘータ(ボレリア)
・ツツガムシ病:ツツガムシ(ダニの一種)/リケッチア
2.治療
・ライム病,ツツガムシ病にはテトラサイクリン系抗菌薬が有効
3.ツツガムシ病は発症数が特に多いので重要.特徴的な病歴や症状,診断,治療について,一通り押さえておく.
どちらかというとマニアックな気もする疾患ですが,
近頃よく出題されているし,覚えることも少ないのでやっておくとお得ですね.
イヤーノート2014 H-63,65,病気がみえるvol.6 p.212~も,
ポイントがまとまっているので参考にしてみてください.
◆今後の出題予想◆
今までには出題されていませんが,
今後出題されるかもしれない?!内容を予想してみました.
1.日本紅斑熱
日本国内でマダニが媒介する代表的な疾患として,
ライム病のほかに日本紅斑熱(国試未出)があります.
ライム病の年間発生数が10例程度であるのに対し,
日本紅斑熱は,1995年頃から増加し続け,2011年の発症数は190例に達しました.
(ちなみにツツガムシ病は年間約400例)
媒体はマダニ,病原体はリケッチアで,治療はテトラサイクリン系抗菌薬です.
ツツガムシ病にそっくりですね.
これらの確定診断は,血清学的診断またはPCR法で行うようです.
記憶の片隅に,置いておいてくださいね.
2.ダニ刺咬症の処置
いきなりですが問題です!
【問題】
6歳の男児.「遠足からの帰宅後,子供のうなじに豆粒のような虫のようなものがついている.受診したほうが良いか」と母親からの電話があった.正しい対応はどれか.
a 「虫を引っ張って取り除き,よく洗って様子をみてください.」と言う.
b 「血を吸い終わると自然に離れるので,つぶさないように様子を見てください.」と言
う.
c 「虫はつぶし,発熱や発疹などがあれば受診してください.」と言う.
d 受診を指示し,液体窒素で殺虫,ピンセットで腹部をつかんで除去する.
e 受診を指示し,局所麻酔下に虫の刺入部の表皮ごと切除する.
【解説】
正答は『e』.特徴的なエピソード(野外活動後の豆のような虫の付着)から,マダニ刺咬症の可能性が考えられます.ダニ媒介感染症のリスクを下げるために,早期の除去が適切ですが,マダニは口器を皮膚に差し込むと,セメント状の物質で固めて口器が抜けないようにするので,ダニの体を引っ張るだけでは口器が皮内に残ってしまい,異物肉芽腫の原因になります.また,ダニ咬症後には,少ないながらもダニ媒介感染症の可能性があるため,初期症状を患者さんに説明し,発疹や発熱があれば再度受診するように説明する必要があります.
選択肢を一つずつ見ていきましょう.
a 無理に引っ張ると,口器が皮内に残ることがあるため不適.
b 感染症のリスクや,QOLの面でも,早期に除去したほうが良い.
c マダニ体内の病原体の拡散を防ぐため,つぶさないようにする.後半部は正しい.
d 口器は皮内に固着しているため,マダニが死んでも口器は自然には外れない.
e 正しい.
どうですか,わかりましたか?
最近の国試では,鼻出血時の患者さん自身による対応などの,実際的なプライマリケアの問題が出されることも多いため,
こんな問題も出るかもしれないな,と思って作成しました.
将来外来で遭遇した時,アウトドアで自分が刺された時にもきっと役立つので(笑)
ぜひ,覚えておいてくださいね!
それでは今回はこのへんで.
次回のテーマは「不妊・不妊治療」を予定しています!
(編集部S)