[読み物]医学界の偉人伝(その1)利根川 進
みなさんこんにちは!編集部のS藤です。
毎日暑いですが、いかがお過ごしですか?
猛暑に加えて、夕方のゲリラ雷雨もなかなか手強いですが、
先週、会社帰りに乗っていた電車に雷が直撃するという珍しい経験をしました。
電車の中は、停電してしばらく停車しただけでなんともありませんでしたが、
こんなに身近に落雷を感じたのは初めてで、改めて自然の脅威を感じました。
皆さんも、雷雨時には安全な場所に避難するなど、気をつけて下さいね。
さて、今回は、
弊社の無料情報誌『INFORMA』のバックナンバーから、
「医学界の偉人伝」をお送りします。
今回は、免疫グロブリンの遺伝子再構成で有名な、利根川 進 博士です。
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日本人で唯一のノーベル生理学・医学賞受賞者
利根川 進
◆分子生物学との出会い◆
利根川進は、1939年9月5日に生まれた。
幼少期を富山・愛知ですごした後、上京して都立日比谷高校に入学。
高校で科学に熱中した利根川は、その興味のままに京都大学理学部化学科に入学する。
そこで出会ったのが“分子生物学”という新しい学問分野。
この分子生物学との出会いが、のちの利根川の人生を大きく決定づけるものになる。
◆海外への留学◆
分子生物学の研究を志し、同大学院のウイルス研究所に進んだ利根川だったが、
3ヵ月で中退してしまう。
その理由は、カリフォルニア大学サンディエゴ校に新設された生物学部に留学するためであった。
カリフォルニア大学でバクテリオファージの研究で博士号を取得した利根川は、
1975年にノーベル生理学・医学賞を受賞しているダルベッコ博士のもとで、
発癌ウイルス(SV40)を用いて遺伝子がどのように調節され、使われているのかという研究に励んだ。
滞在ビザの期限も切れるという時、利根川にとって大きな転機が訪れる。
スイスのバーゼル免疫学研究所の研究員に着任したのだ。
これは、他でもない、ダルベッコ博士の薦めからだった。
◆ノーベル生理学・医学賞受賞◆
当時取り組んだのが、GOD (Generation of Diversity)ミステリーと呼ばれていた、
100億種以上の病原体に対し、たった3万個の遺伝子からいかにして100億種もの抗体が作られているのかという謎の解明。
利根川は、マウスを用いて抗体の免疫グロブリン遺伝子を研究し、
リンパ球B細胞の分化の過程でいくつかの断片が組み合わされることによって新たな遺伝子が形成され、その結果、抗体の多様性が生まれることを世界で初めて明らかにした。
このことで、突然変異によって生じると考えられていた多様性が、
免疫系においては遺伝子の組み換えによってもたらされることが判明したのである。
その時、利根川は、若冠36歳であった。
この功績が認められ、1987年に「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」でノーベル生理学・医学賞を受賞することとなる。
利根川の科学への探究心は、尽きることを知らない。
現在は、その関心を脳科学・神経科学の分野にまで広げ、研究を行っている。
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いかがでしたか?
利根川先生は現在、理化学研究所脳科学総合センターのセンター長を務めており、
最近では、マウスに誤った記憶を人為的に形成させることに成功し、
今年7月、米科学誌サイエンスに発表しました。
「記憶違い」というのは身近なところでもよく体験されることですが、
誤った記憶に基づいた目撃証言による冤罪も珍しくはありません。
(つい最近も、スカートめくり誤認逮捕、というニュースがありましたね)
誤認記憶の形成の仕組みが科学的に証明されることが、
こうした冤罪事件の減少につながるといいですね。
次回の医学界の偉人伝は、
“SARSと闘った男”カルロ・ウルバニ医師
をお送りします。
どうぞお楽しみに!
(編集部S)