[4~6年生向け]医師国家試験出題基準に加わった新ワード(その21〔最終回〕)
こんにちは,編集Fです.
編集Aに代わって,平成25年医師国家試験出題基準に新たに追加された用語を
もう一つ紹介したいと思います.
『医学総論』「保健医療論」の
「保健・医療・福祉・介護関係法規」に追加された
「民法」です.
また,備考欄には「説明義務,注意義務,過失(予見性,回避義務)」が記載されています.
107回国試でも早速出題されていますので,
これらのキーワードとあわせて確認しておきましょう.
◆民法
医療訴訟の新受件数は平成16年に1,110件とピークを迎え,
以降は減少傾向にありますが,ここ数年も年間800件前後で推移しています.
医師として自分の身を守るためにも,
これを機会に必要な民法の知識を押さえておきましょう.
1.診療契約と医師に課せられる義務
委任者(患者)が受任者(医師)に診療を依頼し,
医師が引き受けることで診療契約が成立します.
この契約によって,医師は患者に対し民法上,
「説明義務」と「注意義務」を負うことになります.
医療訴訟では,医師がこれらの義務を果たしていたかどうかが争点となり,
過失(義務違反)があったと認められると,賠償責任が生じます.
2.説明義務とは
『民法』第645条「受任者による報告」
「受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,
委任が終了した後は,遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」
診療契約では,医師には病名・診療の内容などの必要な情報を
患者に提供する「説明義務」があります.
検査や治療などの医療行為に問題が認められなくても,
説明が不十分であったために,説明義務違反とされた判例もあります.
(2006年最高裁判決:未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術による脳梗塞で死亡した患者の家族が,
説明が不十分だったと医師を訴えた.
医師は術前にコイル塞栓術の致死的な合併症のリスクを説明していたが,
最高裁は開頭術との違いやコイル塞栓術を勧める理由なども説明し,患者に考える時間を与えるべきだったとし,
説明義務違反を認めた)
患者の自己決定権を尊重する近年の傾向もあり,
医師には十分な説明により,患者の同意を得ることが求められます.
3.注意義務とは
『民法』第644条「受任者の注意義務」
「受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う」
診療契約が成立すると,医師には上記の「善管注意義務」が課せられ,
医師として最善の注意をもって診療をする義務を負います.
この注意義務には「結果予見義務」と「結果回避義務」の2つがあります.
これらを医師と患者の診療契約について当てはめると,以下の通りになります.
・診療行為により,死亡や後遺症などの結果が生じうることを予見する義務→結果予見義務
・診療行為により,死亡や後遺症などの結果が起きないようにする義務→結果回避義務
現在ではこの2つの注意義務を合わせて考えており,
「危険な結果の発生を予見し,回避することを怠った場合」に,
過失(注意義務違反)があったと認定されます.
逆に言えば,予見が不可能または困難であった場合や,
予見した結果を回避するために最善を尽くしても患者が死亡してしまった場合などは,
過失にはなりません.
【補足】
医師の注意義務の程度は,過去の判例により,
診療時点での一般的な医療の水準とされています.
最先端の医療が求められているわけではなく,
その時点でその患者に行われるべき,適切な医療が提供されていたかどうかが
問題になるということです.
この医療水準は全国一律に定められるものではないため,
病院の規模や地域なども考慮されます.
最後に,107回での民法の出題を見てみましょう.
107G2 民法で規定されているのはどれか.
a 注意義務
b 療養指導義務
c 処方箋交付義務
d 診断書作成義務
e 診療録保存義務
正解:a(正答率 93.8%)
『民法』第644条の「善管注意義務」を知らなくても,
b~eがすべて『医師法』で規定されていることがわかれば,
消去法で解くことができる問題です.
107回では一般問題での出題でしたが,
今後は臨床問題で出題されることも予想されます.
『サブノート』をお持ちの方は21ページに
民法のポイントを1ページにまとめていますので,
今回の記事とあわせて,確認してみてください.
(編集部F)