[5年生向け]国試からみる,臨床実習のポイント!(その5)教科書だけでは学べない,リアルな症例!Part.2
こんにちは,編集部のA.Mです.
臨床実習のポイントシリーズも今回で5回目となりました.
今回は,「症例に応じた対応」をテーマにお話しします.
■患者の状態にあわせてすべきことを選べるか?■
それではまず,問題をみてみましょう.
【108D44】
63歳の女性.筋層浸潤性膀胱癌の精査加療目的で入院中である.入院前に施行した血液検査では異常を認めなかった.膀胱内視鏡検査では,膀胱三角部から膀胱頸部に広がる広基性非乳頭状腫瘍を認め,両側の尿管口は同定できなかった.胸腹部造影CTでは明らかな転移は認めなかった.入院後,全身倦怠感を訴えている.1日尿量は急に低下してきている.緊急に行った血液生化学検査では尿素窒素63mg/dL,クレアチニン5.6mg/dL,K 4.8mEq/Lであった.腹部超音波像を次に示す.残尿量は40mLであった.
対応として適切なのはどれか.
a 血液透析
b 腎瘻造設術
c 膀胱全摘術
d 尿管ステント留置
e 経尿道的膀胱腫瘍切除術
膀胱癌の影響で両側の尿管閉塞を起こし,腎後性の急性腎障害をきたした症例です.
画像からは水腎症であることも読み取れますね.
尿路変更により尿流を確保できれば,腎機能の回復が見込めます.
こちらの症例では「両側の尿管口は同定できなかった」とあるので,
尿路変更による腎機能の保持のためには腎瘻の造設が最も適しています.
ということで,答えは「b 腎瘻造設術」です.
では続けて問題です.
【108D44】との違いを意識しながら読んでみてくださいね.
【108A46】
67歳の女性.右背部痛と発熱とを主訴に来院した.今朝,右背部に一過性の強い痛みを自覚した.夕方から発熱が出現し,ふらつきも自覚したため受診した.右の側腹部から背部にかけて自発痛がある.30歳ころから数年に一度の尿管結石の発作の既往がある.55歳から糖尿病を指摘されていたがそのままにしていた.意識は清明.身長157cm,体重68kg.体温39.8℃.脈拍112/分,整.血圧94/52mmHg.呼吸数18/分.右肋骨脊柱角に叩打痛を認める.尿所見:蛋白1+,糖3+,潜血3+,沈渣に赤血球15~30/1視野,白血球 多数/1視野,細菌2+.血液所見:赤血球343万,Hb 12.6g/dL,Ht 35%,白血球17,800(桿状核好中球10%,分葉核好中球75%,好酸球1%,単球2%,リンパ球12%),血小板8.0万.血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL,アルブミン3.3g/dL,AST 124IU/L,ALT 118IU/L,LD 466IU/L(基準176~353),尿素窒素34mg/dL,クレアチニン1.8mg/dL,尿酸6.8mg/dL,血糖188mg/dL,HbA1c(NGSP)7.2%(基準4.6~6.2),Na 132mEq/L,K 4.8mEq/L,Cl 101mEq/L.CRP 24mg/dL.来院時の腹部単純CTを次に示す.
セットの血液培養を行い抗菌薬の点滴静注を開始した.
次に行うべき治療として適切なのはどれか.
a 血液透析
b 腎瘻造設術
c 尿管ステント留置
d 経尿道的尿管砕石術
e 体外衝撃波結石破砕術
この症例では,尿管結石による尿路閉塞から腎盂腎炎を起こしています.
さらに敗血症への移行も考えられ,抗菌薬の投与とともに,尿流の確保が重要な治療法となります.
ここで先ほどの問題と選択肢を見比べてみてください.
血液透析,腎瘻造設術,尿管ステント留置の3つは,【108D44】と同じですね.
検査値などから血液透析の適応がないことはわかります.
では,腎瘻造設と尿管ステント留置,この症例ではどちらが正しいでしょうか.
【108D44】では,尿管口の確認ができないため,腎瘻造設術が正解となりました.
本症例ではそのような記載がないため,尿管ステント留置が正解になるのでしょうか.
実は,尿管口の確認の記載の有無が,この問題のポイントではありません.
患者さんの全身状態をもう一度よく考えて,検査所見などを確認してみましょう.
血小板数が低下していますね.
つまり,出血傾向にあるわけです.
そのため,出血リスクを伴う腎瘻造設術を第一選択とすべきでないことがわかります.
答えは「c 尿管ステント留置」となりました.
【108A46】と【108D44】は両者とも尿流の確保が必要ですが,
症例によってその確保の仕方も異なります.
「この疾患だから,この対応をすればいい」と,丸暗記で答えられない問題があることに注意してください.
臨床実習を通して症例をたくさん経験し,引き出しをたくさん作ることが望ましいですね.
他にも,【108I59】ではDICに対する輸血製剤の種類を,
【108I67】では腎機能が低下している患者に対して投与可能な薬物を,
それぞれの病態に応じて選択するという問題も出題されています.
時間があるときに解いてみてくださいね.
今日はここまで.
次回も症例問題をみていきましょう.
お楽しみに!
(編集部A.M)