時事問題から振り返る108回国試(前編):風疹/結核/ダニ媒介感染症
こんにちは,編集Aです.
今日は,直近に行われた108回医師国家試験を
時事的な面から,軽く振り返ってみたいと思います.
昨年6月から7月にかけて,WEB INFORMAで
『医療ニュースから予想する108回国試』という連載をお送りしました
(この連載の最後にリンクを貼ります).
実際に108回で,これら時事的なテーマはどう出題されたのでしょうか.
注目テーマごとにみていきたいと思います.
◆風疹・先天性風疹症候群◆
2013年度,社会的に最も注目された疾患といえる「風疹」.
2013年末の時点で,患者数が1万3000人を越えただけでなく,
先天性風疹症候群も40名以上に発症する事態となりました.
この社会問題を受けてか,108回国試で「風疹」は予想以上の出題数となりました.
主なものはこちらです.
【108A1】先天性風疹症候群の症状
【108G7】学校保健安全法における風疹の出席停止期間の基準
【108G50】風疹感染者の取扱い
【108I40】妊娠とその夫への風疹ワクチン接種時期
このうち,108A1と108I40をみてみましょう.
【108A1】先天性風疹症候群でみられないのはどれか.
a 大頭症
b 白内障
c 感音難聴
d 胎児発育不全
e 動脈管開存症
108回の冒頭,いきなりの出題でした.
先天性風疹症候群の基本的事項が問われています.
白内障,心奇形(動脈管開存症など),難聴のほか,
小頭症や発達障害,低出生体重児などの基本症状をおさえておけば,
「a 大頭症」を選択できますね.正答率は98.1%でした.
ちなみに107回国試では,
「胎児期の感染が感音難聴の原因となるのはどれか?」という出題があり,
風疹ウイルス,サイトメガロウイルスを選ばせる問題が出たばかりでした.
今後も風疹・先天性風疹症候群のほか,
CMV感染などに関する出題が,より発展した形で問われる可能性があり,
十分な対策が必要です.
【108I40】妊娠初期の妻の風疹HI抗体が陰性と判明した.
この夫婦への適切なワクチン接種時期の組合せはどれか.
妊 婦 夫
a ただちに ただちに
b ただちに 妊娠全期間
c 妊娠全期間 ただちに
d 妊娠全期間 妊娠全期間
e 産褥期 ただちに
f 産褥期 妊娠全期間
『医療ニュースから予想する国試』第2回でもお伝えしたように,
妊娠初期の妊婦に風疹ワクチンを接種することは
禁忌(胎児が感染する恐れがあるため)! ですね.
妊婦には産褥期に接種します.
夫や同居家族には,抗体陰性確認後,直ちに接種が推奨されます.
したがって答えは「e」となります.正答率は93.3%でした.
昨年,特に20~30代男性が,風疹の予防接種を受けていない
“空白の世代”とされ,社会的に大きな話題となりました.
こうした世代の予防接種を福利厚生の一環とする企業も相次ぎましたね.
風疹の撲滅は,日本が早急に取り組むべき課題とされています.
“パートナーや同居家族への予防接種”,今後も重要なテーマとなりそうですね.
このほか,時事的におさえておくべきポイントは
『医療ニュースから予想する国試』第2回:風疹・先天性風疹症候群 をご覧ください!
http://web-informa.com/kokushi/20130618-3/
◆結核関連◆
結核は時事問題的な観点という以前に,
国試の超頻出疾患としておさえておくべき重要疾患ですが,
諸外国と比べると日本はまだ罹患率が高く,
最近も,医療従事者が結核に罹患していた,などのゆゆしきニュースが
たびたび報じられ,トピックとなっています.
『医療ニュースから予想する国試』第5回で重要事項の一つとしてとりあげたのは,
結核の補助診断法「インターフェロンγ遊離測定法(IGRA)」.
これを選択肢に含む問題が,107回に続いて108回でも登場しました.
【108A37】78歳の男性.微熱と血痰とを主訴に来院した.2か月前から咳嗽と喀痰とを自覚していた.1か月前から微熱と全身倦怠感とを自覚するようになり,1週前から血痰が出現するようになったため自宅近くの医療機関を受診し,胸部X線写真と胸部単純CTにて異常を指摘された.カルバペネム系抗菌薬で治療されたが改善がないため紹介されて受診した.既往歴に特記すべきことはない.身長162cm,体重60kg.体温37.6℃.脈拍72/分,整.血圧112/68mmHg.呼吸数16/分.SpO2 97%(room air).心音と呼吸音とに異常を認めない.血液所見:赤血球418万,Hb 14.5g/dl,Ht 41%,白血球9,300(桿状核好中球10%,分葉核好中球45%,好酸球1%,単球10%,リンパ球34%),血小板34万.CRP 5.0mg/dl.自宅近くの医療機関での胸部X線写真(No.A)と肺野条件の胸部単純CT(No.B)とを以下に示す.
(画像クリックで拡大)
確定診断に有用な検査はどれか.
a 結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉
b 喀痰抗酸菌PCR法
c 喀痰塗抹検査
d 喀痰嫌気培養
e PET/CT
注目ワード「IGRA」に飛びついてしまった人もいたのでしょうか,
正解「b」の正答率は86.9%とやや低くなりました(aを選んだ人は7.3%).
結核の確定診断は,喀痰等から菌を検出すること.
IGRAは確定診断としては用いないのでしたね.
詳細は『医療ニュースから予想する国試』第3回:結核 をご覧ください!
http://web-informa.com/kokushi/20130621-3/
◆ダニ媒介感染症◆
100回代に入ってから出題数が増え,
最近は国試で毎年のように出題されているテーマ.
マニアックな気もしますが,昨年からSFTSなどが話題になっていることもあり
今年もやはり出題されました.
【108A51】60歳の男性.発熱と全身の皮疹を主訴に来院した.15日前に山へ山菜採りに行った.5日前から発熱があり,3日前から全身に皮疹が出現していた.体温39.5℃.全身に痒みのない紅色丘疹が多発し,右下腿には黒褐色の痂皮が付着した紅斑を認める.血液所見:赤血球436万,Hb 13.6g/dl,Ht 42%,白血球6,800,血小板32万.血液生化学所見:AST 120IU/l,ALT 110IU/l.CRP 3.5mg/dl.胸腹部(No.A)と右下腿(No.B)の写真を以下に示す.
(画像クリックで拡大)
治療薬として適切なのはどれか.
a 抗真菌薬
b 抗ウイルス薬
c 副腎皮質ステロイド
d ペニシリン系抗菌薬
e テトラサイクリン系抗菌薬
「これだけは覚えておく!」でまとめていた
『ライム病,ツツガムシ病にはテトラサイクリン系抗菌薬が有効』
の知識が,まさに答えとなりました.
それ以外のポイントもこちらで確認しておいてくださいね.
第4回:ダニと感染症
http://web-informa.com/kokushi/20130626-3/
さて,軽く振り返るつもりが,長くなってしまったので
続きは次回とさせていただきます.
そのほかの気になるテーマをご紹介していきます.
(編集部A)
※上記正答率は,メック&メディックメディアの国試採点サービス
「TAKEOFF」によるデータです.