時事問題から振り返る108回国試(後編):麻疹/手足口病/HIV感染/PM2.5
編集Aです.昨日に続いて,
108回医師国家試験を時事面から軽く振り返っていきます.
いずれも時事を反映しての出題かどうかは定かではありませんが,
気になったテーマをいくつかピックアップしたいと思います.
◆麻疹◆
風疹の次は麻疹…とも言われ始めた,麻疹の流行の兆し.
風疹同様,麻疹風疹混合ワクチンの接種率が低い世代を中心とする影響が,
再び懸念され始めています.
今年もっとも注意が必要な疾患となりそうです.
国立感染症研究所によると,
フィリピンなどからの輸入例(帰国した後に麻疹を発症)が2013年末から増加していましたが,
2014年2月頃からは国内感染例が増加し,
5月現在,2014年の累積数はすでに2013年の年間報告数を上回っているそうです.
そんな麻疹に関する出題,今年は以下の様な問題でした.
典型的な症状の経過が問われています.
【108G40】全身倦怠感,発熱および咳嗽を主訴に来院した成人男性の胸部の写真(No.A)と口腔内の写真(No.B)とを以下に示す.
(画像クリックで拡大)
この疾患での症状の出現順で正しいのはどれか.
a カタル症状→全身の発疹→口腔粘膜疹
b カタル症状→口腔粘膜疹→全身の発疹
c 全身の発疹→カタル症状→口腔粘膜疹
d 全身の発疹→口腔粘膜疹→カタル症状
e 口腔粘膜疹→全身の発疹→カタル症状
f 口腔粘膜疹→カタル症状→全身の発疹
正解は「b カタル症状→口腔粘膜疹→全身の発疹」,正答率は84.6%でした.
国試対策はもちろんですが,
社会的にも,麻疹流行の今後の動向が心配されます.
ちなみに輸入感染症の概念および各疾患についても最近注目が集まっています.
108回でもその知識が問われています(108A9).
◆手足口病◆
108回国試では,手足口病の出題もありました.
定かではありませんが,2013年夏に手足口病が大流行したことが
少なからず背景にあるのではないかと思います.
【108D34】2歳の男児.早朝から発熱を認め,四肢に皮疹が出現したため母親に連れられて来院した.口腔内に疼痛はあるが,全身状態は良好である.来院時の手の写真を以下に示す.
(画像クリックで拡大)
原因ウイルスはどれか.
a ライノウイルス
b アデノウイルス
c コクサッキーウイルス
d ヒトパピローマウイルス
e パラインフルエンザウイルス
文中の症状と画像から手足口病と診断し,
原因ウイルスとして「c コクサッキーウイルス」を知っていれば解答できます.
もう一つ,選択肢にはありませんがエンテロウイルスも原因となりますね.
今年も夏の感染症の話題が後をたちません.
今のところ,今年の医療ニュースでたびたびあがっているのは
咽頭結膜熱(プール熱). アデノウイルス3,7型の感染症です.
東京や大阪で増加の一途をたどっているほか,
東京都中野区など,一部の地域では警報基準値超えとなっています.
◆HIV感染◆
2013年,HIV感染血液が輸血に使用され,
60代の男性がHIVに感染し,社会に大きなショックを与えました.
「血清学的抗体検査」と「核酸増幅検査(NAT)」の二重の検査をすり抜けてしまったのは,
抗体を検出できない期間(ウインドウ・ピリオド)が原因でした.
おそらく関係ないとは思いますが,108回ではこんな問題が出題されています.
【108A36】24歳の男性.臨床研修医.HIV感染者の採血で用いた針を誤って自分の指に刺した.同部位に出血はない.既往歴に特記すべきことはない.
投与が推奨されるのはどれか.
a 抗HIV薬
b HIVワクチン
c 免疫グロブリン
d インターフェロン
e 副腎皮質ステロイド
実用可能なHIVワクチンは存在しません.答えは「a 抗HIV薬」です.
HBV・HCVに関する知識とあわせて消去法でも解ける問題でしたが,
正答率は80.3%にとどまりました.
ちなみに日本赤十字社は先の事件を受けて,
今年の8月より,献血血液を1人分ごとに調べる
「個別NAT(核酸増幅検査)」を始めるのだそうです.
◆PM2.5(微小粒子状物質)◆
中国の急激な経済発展に伴い産出されているPM2.5.
日本でも九州や中国地方を中心に,環境基準値を超える日が続いています.
107回でもPM2.5についての問題が出されましたが(107B11,107G10),
108回ではこのような形で出題されました.
【108E38】我が国において大気汚染の環境基準をほぼ達成しているのはどれか.3つ選べ.
a 一酸化炭素
b 二酸化硫黄
c 二酸化窒素
d 光化学オキシダント
e 微小粒子状物質(PM2.5)
答えは「a~c」でしたが,「e」を選んだ人が9.9%いました.
光化学オキシダントの環境基準達成率が極めて低いことがまず重要ですが,
PM2.5の環境基準達成率も決して高くない
(一般局で27.6%,自排局で29.4%(平23年))
ということをおさえておく必要があります.
他にも公衆衛生系の問題は,時事を反映しやすいため
日頃からさまざまなテーマに目を通しておきましょう.
◆無理をしない,地道な積み重ねが大切◆
さて,こうした時事的な知識をおさえておくことは,
国試だけでなく,臨床医になってからも重要です.
とはいえ忙しい医療従事者の皆さんが新聞やTVを継続してチェックすることは
なかなか難しいと思うのです.
そこで活用していただきたいのが,メディックメディアが毎週配信している
『今週の医療ニュース』という企画.
報道番組でとりあげられた主な医療関連ニュースを
週に1回,まとめて紹介しています.
ざっと目を通すだけでも,話題を把握するには十分なはず.
例)[時事]混合診療の対象拡大/子供への投与禁止麻酔薬を投与…
今週の医療ニュース◆6月第1週(5/31~6/6)
https://www.facebook.com/medicmedia.igaku/posts/321299991360223
メディックメディアFacebookページで,毎週土曜の12時に配信していますので,
気軽にチェックしにきてください!
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◆バックナンバー:『医療ニュースから予想する国試』◆
昨年連載した『医療ニュースから予想する国試』,
108回国試で出題されなかったものも,今年も引き続きトピック的テーマです.
見たことのない方,内容を忘れてしまった方は
ぜひ読んでみてくださいね.
第1回:今年注目の医療ニュースは?
http://web-informa.com/kokushi/20130607-2/
第2回:風疹・先天性風疹症候群
http://web-informa.com/kokushi/20130618-3/
第3回:結核
http://web-informa.com/kokushi/20130621-3/
第4回:ダニと感染症
http://web-informa.com/kokushi/20130626-3/
第5回:不妊・不妊治療
http://web-informa.com/kokushi/20130704-2/
第6回:遺伝性乳癌・卵巣がん
http://web-informa.com/uncategorized/20130712-3/
第7回:熱中症
http://web-informa.com/kokushi/20130726-2/
時間が無い人はコチラだけでも要チェック!
★第8回:総集編★
http://web-informa.com/kokushi/20130802-2/
(編集部A)
※上記正答率は,メック&メディックメディアの国試採点サービス
「TAKEOFF」によるデータです.