[4, 5年生]『レビューブック内科・外科』最新版 好評発売中!第3回:今役立つ!研修医になっても役立つ!「鑑別!1st impression」(その1)
10月14日に発売した『レビューブック内科・外科』第9版.
編集Aから引き継いで,今回は私,編集部Mが,
この第9版に新しく加わった新付録「鑑別!1st impression」をご紹介します.
ちょっと長くなりますが,CBT・医師国試だけでなく
将来,研修医になったときにも重要になる話なので
お付き合いいただければ幸いです!
さて,この「鑑別!1st impression」,どういうものかを一言で説明すると
「CBT対策と国試対策に役立つだけでなく
研修医になって必要になる“ヨコ切りの思考回路”をつくるのに役立つまとめ集」
という感じになります.
見本はコチラ↓
“ヨコ切り”っていきなり言われても分かりにくいかもしれませんね.
各疾患の各論,すなわち疾患ごとに
疫学・病態・症状・検査・診断・治療といった情報を整理したものを,
僕たちは“タテ切り”といっています.
つまり,『イヤーノート』や『レビューブック』で
疾患ごとにまとまっている情報です.
イレウスなら,イレウスの特徴(症状や画像所見)や治療法などですね.
これに対し,
「この患者さんは腹痛で来院してきているけど,そもそも腹痛をきたす疾患は何? 君の診断は何?」
というように,アタマの中で,臓器別・系統別ではなく,
症候別に疾患名を思い浮かべ診断名を出す視点を,
私たちは“ヨコ切り”といっています.
実は,日本の場合,医学生のアタマは“タテ切り”のシナプスがあるだけで
“ヨコ切り”のシナプスは形成されていないことが多いのです.
理由は二つ.
1)
“ヨコ切り”のシナプスは,全分野の疾患の特徴や病態が
アタマにはいっていないとできない.
(つまり,各科の“タテ切り”の理解がしっかりできてからでないと,
“ヨコ切り”の思考はできない)
2)
日本の医大や国試が学生に要求するのは,“タテ切り”中心の理解で,
“ヨコ切り”の思考を磨く機会がほとんどない.
(機会があっても低学年時のPBLチュートリアルなど
“タテ切り”の理解が不十分なうちににやるだけであれば効果が少ない)
欧米の医学部は,症状から診断を考える臨床推論の教育が進んでいるので,
学生のうちからトレーニングしていますが,
クリニカル・クラークシップが欧米並みではないことが多い日本の医大の場合,
学生のうちに臨床的な思考回路を養う機会は少ないのです.
医学部の最後をかざる医師国試も,実際の過去問をみれば分かりますが,
診断名を考える臨床問題でも所見がでそろっていて,
各論的な“タテ切り”の思考で答えが出せてしまい,
“ヨコ切り”の思考はほぼ必要ないのです.
しかし!
国試を合格して研修医になると,病院によっては
いきなりこうした“ヨコ切り”の思考が要求されてくるんです.
そう,当直や救急外来(ER)ですね.
特に人気の研修病院は,プライマリケア的な教育に力をいれていることが多いから,なおさら臨床推論の思考が要求されます.
「腹痛」ときたら?
当然,胃十二指腸潰瘍や消化管穿孔,イレウス,虫垂炎,急性膵炎など
消化器系の疾患を思い浮かべますよね.
でもそれだけではない.
腹部大動脈瘤破裂もありえるし,
心筋梗塞も腹痛が主訴となる場合があります.
若い女性であれば妊娠や子宮外妊娠,卵巣の捻転などもありえます.
器質的な異常がなくても,DKAも考えられます.
ほかにもたくさんありますね
(「鑑別!1st impression」には30疾患くらい列挙してあります).
すべてとは言いませんが,重要な疾患は
とっさにアタマに思い浮かべられるようになっていなくてなりません.
疾患名を思い浮かべられなければ,
目的意識をもって,問診を進めたり,身体診察したり,
検査をオーダーしたりすることができないわけですから.
消化器疾患だけなら教科書の章だてを思い浮かべて答えられそうですが,
婦人科や代謝・内分泌など,腹痛をきたす疾患は他科・他系統にわたりますから,まさに“ヨコ切り”のシナプスをアタマに作っておかなくてはならないわけです.
しかも,外来や当直では,疾患名は二つの軸で整理して列挙する必要があります.
1)絶対見落としてはいけない疾患(Don’t miss it)
2)頻度が高い疾患(Common)
この二つの軸を意識する必要があります.
この思考が,見逃しを防ぐだけでなく,
やること・考えることの優先順位を決めてくれます.
ちなみに腹痛の場合,それだけでなく,
痛みの部位が,腹部全体なのか心窩部なのか,
右上なのか左上なのか右下なのか左下なのか,
解剖学的に整理することも重要になりますね.
どうでしょう?
1)Don’t miss it 2)Common 3)解剖学的部位
この3つの視点で,腹痛をきたす疾患を列挙できるでしょうか?
しかも,患者さんの前で,あわてず,素早く,的確に.
大学病院だけの研修であればベッドサイドが多いので,
こうした力はあまり必要とされないかもしれませんが,
市中病院なら確実に要求されます.
じゃあ,研修医になったら勉強すればいいでしょうか.
ある意味それでもいいのですが,腹痛だけでなく,
意識障害,失神,頭痛,めまい,胸痛,呼吸困難,
悪心・嘔吐,吐血,下血,便秘,腰背部痛,浮腫,横断,しびれ…
などなど,主訴となる症候は多彩.
ガリ勉したからといってすぐにそれぞれに対応した疾患を
列挙できるようになるわけではありません.
やはり繰り返しトレーニングすることが重要ですね.
『スラムダンク』でも海南大付属バスケ部の監督が,
「あくなき反復練習だけがシュート成功率をアップさせるのだ」
と,言っているではないですか.(ちょっと違うか)
でも,研修医は忙しいが故に繰り返し勉強する時間はないかもしれません.
だから研修医になる前,医学生のうちから,やはりトレーニングしておきたい.
総合診療医・救急医レベルとはいいません.
研修医レベルでなくてもいい.
基本の「き」のレベル,つまり
主訴に応じて鑑別疾患の名を列挙できるレベルまではできるようになってほしい.
そのレベルまでアタマにシナプスを作っておけば,研修医になってから,
重要な問診のポイントや,プライマリケア的な思考・技能を加えやすくなるはず.
デキる研修医を目指す人はもちろんですが,
「見逃し」はどんな研修医にも起こりうるだけに,
当直・救急がある病院で研修医になる人ならば,トレーニングしておきたいところですね.
じゃあ,すればいいじゃないか,
国試対策だけでなく,診断学の教科書を読めばいいではないか,
研修医向けの本を読めばいいではないか,
自分の若い時はそれぐらいやったもんだ,という先生もいらっしゃいます.
でも,みなさんの本音は「そこまで余裕がないんだよ…」ではないでしょうか.
●4年のCBT・OSCE,
●5年の臨床実習,
●6年前半のマッチング試験,後半の卒試・国試
部活を引退しても,なお忙しい.
しかも,昔の国試と違い,医学の多彩な進歩を反映して,
勉強する情報が圧倒的に増えています.
教える側は昔の国試の感覚で見てしまうし,自分の専門分野だけ考えていますから,
学生のみなさんが勉強する範囲がどれだけ広く,
分量がどれだけ多いか意識してくれているわけではなく,
「国試対策以外にもあれこれ勉強できるはず」と考えがちですが,
現代の医学生であるみなさんは,やること・受ける試験が多いから,
勉強はそれらを目的としたものに集中するしかないのが現状.
先程,国試は“タテ切り”の思考だけで解けると書きましたが,
国試がそうである以上,そして時間がない中で膨大な範囲を要求される以上,
診断学・臨床推論の勉強をする余裕なんてないよ!
というのが多くの学生の方の本音なのではないでしょうか.
だから「試験対策だけでなく,将来のための勉強もしろ」という理想論では,
うまくいかないと思うのです.
このため,僕は,試験対策で手いっぱいである学生のみなさんの現実と,
臨床推論のトレーニングを学生時代から行うという理想が,
うまく連動する方法はないかなと,長いことつらつら考えてきました.
それが「基本的にはCBT対策・国試対策なんだけど,
自然と鑑別診断のキホンが身に付いちゃう」という企画,
すなわち,「鑑別!1st impression」なわけです.
前ふりが長い!? …ですよね.スイマセン.
ここでいったんおしまいにして,次回,
「鑑別!1st impression」の誌面をご紹介したいと思います.
CBTで使えるんです.国試対策にも使えるんです.
でも将来役立つ“ヨコ切り”の視点が意識できる.
しかもNHK『ドクターG』対策にもなる!?(もう終わっちゃったけど)
そんな「鑑別!1st impression」.
あくまで「付録」ですけど,企画の意図を理解してくださった監修の先生と
研修医・医学生の方々,そして当編集部のスタッフが,
1冊本を作る以上の力を注いでくれて出来ました.
だから今回の『レビューブック内科・外科』,値段だけでなく,
将来まで役立つという意味で,けっこうコストパフォーマンスいいですよ.
興味のある方は,ぜひ立ち読みしてみてくださいね!!
https://informa.medilink-study.com/wordpress/book/rb.html
それでは最後まで読んでくださった方,どうもありがとうございました.
(編集部M)