新ワード紹介（2）遺伝性乳癌卵巣癌症候群【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準（118回国試より適用）から，新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画．今回は遺伝性乳癌卵巣癌症候群についてご紹介いたします．
目次
出題基準のどこに追加されたの？
医学各論＞X 内分泌・代謝・栄養・乳腺疾患＞11 乳腺・乳房疾患に追加されました．
遺伝性乳癌卵巣癌症候群とは？
遺伝性乳癌卵巣癌症候群とは，遺伝因子の関与が明らかな遺伝性癌症候群の1つです．
BRCA1やBRCA2の遺伝子変異を生まれつき有することで，高率に乳癌および卵巣癌を発症します．乳癌発症者の5％程度，卵巣癌発症者の全卵巣癌患者の10～15%を占めます．
BRCA1やBRCA2は，エストロゲンシグナル伝達の抑制，DNA修復などに関わる癌抑制遺伝子で，男性でもこれらの変異を有する場合，乳癌の発症リスクが高くなることが分かっています．BRCA1とBRCA2の遺伝子変異を有する患者の70歳時の乳癌の発症リスクは，それぞれ57%，49%と言われており，卵巣癌の発症リスクは，それぞれ40%，18%です．
早期発見・予防のために，乳癌に対しては25歳から乳房MRIを含めた検診・リスク低減乳房切除術を検討することが重要です．卵巣癌に対しては，30歳からの経腟エコー，CA125測定による検診・リスク低減乳房切除術を検討することが重要です．加えて，遺伝学的検査の前後にはカウンセリングを行い，適切な情報提供をして患者が最善の選択をできるよう支えていくことも大切です．わが国では予防的な乳房切除は一般的ではありませんが，BRCA1の遺伝子変異が見つかったハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが手術を受けたことも有名です．
出題基準に追加された背景は？
2019年6月にOncoGuide NCCオンコパネルシステムおよびFoundationOne CDx がんゲノムプロファイルの2つが保険収載され，2020年4月の診療報酬改定では，乳癌，すべての卵巣癌の発症者にBRACAnalysis診断システム検査が保険適用となりました．また，BRCA1とBRCA2の遺伝子変異を有する乳癌，卵巣癌患者では，リスク低減卵管卵巣摘出術やリスク低減乳房切除術が保険適用となっています（ただし，未発症の場合は保険適用外）．
このように近年，遺伝性乳癌卵巣癌症候群の早期発見・予防を重要視する動きが加速している背景を踏まえ，今回医師国家試験出題基準に追加されたのではないでしょうか．
過去問での出題状況は？
なんと117D32で初めて出題がありました（出題基準発表前月にあった医師国家試験での出題です）．
治療方針決定のために今後行う検査を問う問題で，正答率は25％以下とかなり低い結果となっており，医学生さんの中で以下に浸透していないテーマかが伺えます．118回医師国家試験以降を受験予定の方は，しっかり押さえておきたいですね．
確認問題を解いてみよう！
Q．遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子として正しいものはどれか．
ａ APC
ｂ BRCA
ｃ MLH
ｄ TP53
ｅ RB
A．答えは記事の最下部にあります！
いかがでしたでしょうか．次回の連載もお楽しみに！
※監修：小岩 由紀子先生（鎌ヶ谷バースクリニック）
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確認問題の答え：b
