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新ワード紹介(10)先天性補体欠損症【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は先天性補体欠損症についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅺ アレルギー性疾患,膠原病,免疫病>3 原発性免疫不全症 に追加されました.

先天性補体欠損症とは?

補体とは“抗体(免疫グロブリン)の働きを補う“蛋白質で,抗体による細菌の溶菌に必要で熱により不活化される蛋白として発見されました.最初に活性化した補体の分子が次の分子を活性化し連鎖反応が進行していくシステムを補体系といいます.補体が遺伝子変異などで欠損すると易感染性の免疫不全となり,先天性補体欠損症と総称されます.

補体系には30種類ほどの分子があり,いわゆる補体はC1~C9の9つの分子です.補体は通常は血液中にあり活性はありませんが,細菌感染などで最初の成分,例えばC3が活性化されると補体が分割され,C3a, C3bなどの成分ができます.その成分が次の補体を連鎖的に活性化し補体系の活性化が進行していきます.この補体系に関わる蛋白にはB因子,D因子などがあり,逆に反応が活性化しすぎないように抑えるC1不活化因子,I因子,H因子などがあります.また,活性化した補体の受容体が好中球細胞表面にあり,補体が結合した細菌を好中球が貪食します.

活性化した補体成分には次に示す生体防御に重要な役割があります.

①微生物の表面に結合しマクロファージなどによる貪食を促すオプソニン作用:細菌により活性化したC3より生じたC3bは細菌の表面に結合し,補体の受容体をもった好中球による細菌の貪食を促します.

②活性化した補体成分が白血球を炎症部位へ呼び寄せる走化因子としての作用:C3a, C5aは白血球を炎症部位へ集め活性化します.アナフィラキシー症状を起こすことからアナフィラトキシンとも呼ばれます.

③微生物の表面に結合して細胞膜に穴をあけて微生物を破壊する作用:C5からC9の活性化により膜侵襲複合体が形成され,細菌の膜に穴をあけ溶菌します.

補体系の活性化経路には3種類あります.

①古典経路:抗原と結合した抗体がC1を活性化する経路です.

②第二経路:細菌の膜の成分,例えばエンドトキシンがC3を活性化する経路です.

③レクチン経路:細菌表面のマンノース(単糖)がレクチン(糖に反応する蛋白質)に反応することから始まる経路です.

これらの経路を介し,補体系は生体防御システムの一つとして機能します.

まれですが,補体あるいは補体に関連する分子が遺伝子変異により先天的に欠損する先天性補体欠損症があります.補体欠損症ではしばしば易感染性となり,原発性免疫不全症に位置付けられます.日本ではC9欠損症が1000人に1人と頻度が高いですが,無症状の例もあります.C5, C6, C7, C8欠損症も報告されており,C5~C9欠損症では膜侵襲複合体が形成できず髄膜炎菌性髄膜炎のリスクが高いとされています.古典経路のC1, C4, C2が欠損した場合には再発性感染症の他,自己免疫疾患の全身性エリテマトーデスの症状がみられることがあります.

補体に関連する遺伝子の欠損症にはその他にも様々なものがありますが(B因子,D因子,補体受容体),日本人には報告されていないものもあります.先天性補体欠損症の診断は,繰り返す感染症のエピソード,CH50,C3, C4の測定,最終的には遺伝子診断によって行われます.

先天性補体欠損症の根本的な治療方法はなく,感染症予防が主で,インフルエンザワクチン,肺炎球菌ワクチンなどの接種が勧められます.感染症合併時には抗菌薬による治療を行います.また,自己免疫疾患を合併した際には副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)治療を行います.

出題基準に追加された背景は?

先天性補体欠損症はまれですが,わが国の指定難病である原発性免疫不全症候群の一つに含まれ,全国調査やガイドライン作成が行われていることが背景にあると思われます.

過去問での出題状況は?

これまでに出題されたことはありません.

確認問題を解いてみよう!

Q.補体のC5からC9の欠損症でリスクが高いのはどれか.

a 肺炎球菌肺炎
b 緑膿菌感染症
c 遺伝性血管性浮腫
d 髄膜炎菌性髄膜炎
e 全身性エリテマトーデス

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※執筆:佐藤 健夫(自治医科大学 地域臨床教育センター 兼 内科学講座 アレルギー膠原病学部門 教授)

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確認問題の答え:d

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