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新ワード紹介(12)免疫介在性壊死性筋症【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は免疫介在性壊死性筋症についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅺ アレルギー性疾患,膠原病,免疫病>2 膠原病と類縁疾患 に追加されました.

免疫介在性壊死性筋症とは?

免疫介在性壊死性筋症(IMNM:Immune-Mediated Necrotizing Myopathy)とは筋病理学的所見に基づいた疾患概念で,筋に壊死・再生の所見を認めるが炎症細胞浸潤は乏しく,自己抗体陽性の疾患群(複数の疾患を含みます)です.1975に多発性筋炎/皮膚筋炎の診断基準が発表されましたが,その後の筋病理と自己抗体の研究が進み,2004年に欧州神経筋センターからIMNMが多発性筋炎より独立した疾患群として提唱されました.

IMNMの特徴は,筋病理所見で壊死・再生の所見を認めるが炎症細胞浸潤が乏しい点です.免疫組織化学染色では筋に主要組織適合抗原(MHC)クラスⅠの発現(病態に免疫学的機序が関与していることを示唆します)と補体成分C5bからC9の膜侵襲複合体の沈着を認めます.筋壊死は,自己抗体によって筋で補体が活性化され,筋が傷害された結果生じると考えられています.通常の病理所見のみでは先天性筋ジストロフィーとの鑑別は困難で,ジストロフィー関連蛋白に対する免疫組織化学染色の結果もあわせて診断します.

IMNMのもう1つの特徴は自己抗体が陽性となる点です.代表的な自己抗体に抗SRP(signal recognition particle)抗体と抗HMGCR(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase, 抗3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA還元酵素)抗体の2つがあります.SRPとはRNAと複数の蛋白質が結合した細胞質RNA結合蛋白で,小胞体での蛋白質の移動を調節します.HMGCRはコレステロールの生合成の過程でメバロン酸を生成する酵素です.この酵素を阻害するスタチンは高コレステロール血症の治療薬です.抗HMGCR抗体は,スタチン内服患者が筋傷害を合併した際にスタチン内服中止後も筋傷害が遷延した例から発見されました.この2つは現在のところ保険適用外です.上記以外にも抗ミトコンドリアM2抗体が陽性となる例もあります.

IMNMの臨床的特徴は,亜急性の近位筋の筋力低下嚥下障害筋原性酵素であるクレアチンキナーゼ(CK)の著明な上昇です.慢性に経過して診断と治療開始が遅れた例では,筋力低下が進行する例もあります.抗SRP抗体陽性例と抗HMGCR抗体陽性例では,前者は筋傷害が重篤で,心筋炎や間質性肺炎などの合併例がみられ,後者は背景としてスタチン内服歴が多いなどの違いがあります.IMNMは小児から成人までみられ,小児例では筋ジストロフィーと診断された例の中にIMNMと診断される例があります.IMNMの診断は筋病理所見のみでは不十分で,抗SRP抗体,抗HMGCR抗体の測定が重要となります.IMNMの原因は不明ですが,特定のMHCと関連することから遺伝的背景の関与も想定されています.

IMNMの治療は高用量の副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)が基本ですが,治療反応性が十分ではなく再発も多いため,免疫抑制薬や大量ガンマグロブリン静注療法などが併用されます.難治例では,抗CD20抗体薬や補体阻害薬などの効果も期待されています.その他,悪性腫瘍の合併も知られており,IMNMでは経過中の悪性腫瘍のスクリーニングも必要です.

出題基準に追加された背景は?

筋病理学,自己抗体の研究の進歩により,多発性筋炎と分類された症例の多くは新しい疾患概念であるIMNMに分類されることが分かり,実際には多発性筋炎であることは少ないことが分かりました.炎症性筋疾患の概念と分類が新しくなったことが,出題基準に追加された背景にあると思われます.

過去問での出題状況は?

これまでに出題されたことはありません.

確認問題を解いてみよう!

Q.免疫介在性壊死性筋症の特徴で正しいのはどれか.

a 副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)が著効する.
b 悪性腫瘍を合併することは少ない.
c 補体の膜侵襲複合体が病態に関与する.
d 病理学的に多数の炎症細胞浸潤を認める.
e 関連する自己抗体は抗SRP抗体あるいは抗HMGCR抗体のみである.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※監修:佐藤 健夫(自治医科大学 地域臨床教育センター 兼 内科学講座 アレルギー膠原病学部門 教授)

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