新ワード紹介(13)発熱性好中球減少症【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は発熱性好中球減少症(FN)についてご紹介いたします.
目次
出題基準のどこに追加されたの?
医学各論>Ⅶ 血液・造血器疾患>2 白血球系疾患のその他の骨髄性疾患 に追加されました.
発熱性好中球減少症(FN)とは?
発熱性好中球減少症(FN)は,一般的に次の①②を満たす病態と定義されます.
①好中球が500/μL未満,あるいは1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される.
②腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じている.
ただし,体温は個人差や投与されている薬剤の影響によって患者ごとにばらつきがあるため,臨床の現場では①②の定義を満たさない場合でも,個々の患者の状態や背景を考慮し,FNとして治療を行うことがあります.
FNは,主にがんに対する化学療法に起因して発症します.がんの患者に対して化学療法を行うと,副作用として骨髄抑制が生じ,患者血液中の血球が減少します.特に,血球の中でも,好中球を含む白血球は,抗がん薬投与後早期に減少が認められます.すると,これが原因で免疫不全状態に陥り,様々な細菌や真菌に感染しやすくなります.この状態で発熱を伴うものがFNです.
FNで生じる発熱は多くの場合原因不明ですが,免疫不全状態による易感染性を病態の基盤としていること,抗菌薬投与によって病状が改善すること(後述)などから,大半は感染症が原因であると考えられています.
FNは免疫不全状態により生じている病態のため,時として重篤な症状を呈します.適切に治療が行われなかった場合,血流感染症や肺炎などの症状を急速に引き起こし,致死的な転帰をたどります.また,感染症によって生じる直接的な症状の他,FNは原疾患であるがんの治療成績にも悪影響を及ぼします.FNを発症すると,化学療法の延期や抗がん薬の減量が必要となり,その結果,がんが進行し生存率が低下してしまうためです.
放置してしまうと命に関わるFNですが,抗菌薬の投与によって病状が改善し,死亡率が低下することが経験的に知られています.したがって,FNを発症した場合は,2セットの血液培養(必須)の他,感染が疑われる部位からの培養や感染臓器を推定するための身体所見,血液・尿検査,画像検査などを行った後,原因菌の同定を待つことなく,ただちに広域スペクトラムの抗菌薬を投与します(エンピリック治療).想定される原因菌のうち,グラム陰性桿菌,特に緑膿菌による菌血症が生じている場合,適切な抗菌薬投与が24時間以内に開始されなかった際の死亡率は40%と高くなっています.そのため,FNの第一選択薬として,抗緑膿菌作用を持つβ-ラクタム系薬(セフェピム,メロペネム,タゾバクタム/ピペラシリン,セフタジジムなど)が用いられています.
出題基準に追加された背景は?
先に述べたように,FNはその病態が致死的になりうるだけでなく,原疾患の治療の妨げにもなってしまいます.そのため,安全で効果的な化学療法を行うためには化学療法開始前に感染経路や感染源を徹底的に遮断すること,そして発症時には迅速に適切な治療を行うことが重要となります.FNの臨床的な重要性を反映して,2017年10月には『発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第2版)』が作成されています.今回の医師国家試験の出題基準への追加は,医学生としてFNへの適切かつ迅速な対応ができるようになってほしいという厚生労働省の思いが反映されたのかもしれません.
過去問での出題状況は?
118回国試での出題こそなかったものの,「発熱性好中球減少症(FN)」というワード自体は117回の医師国家試験にすでに登場しています(117F25).また,同じ年にはFNの抗菌薬投与に関する問題(117F37)も出題されています.
出題基準に追加され,今後も問題文や選択肢中に登場することがあると思いますので,ぜひ今回の記事をきっかけにFNについての理解を深めておきましょう!
確認問題を解いてみよう!
Q. FNの予防および,その疑いがある患者への対応として最も適さないのはどれか.
a 化学療法開始前には細菌の感染経路となりうる所をチェックし対策する.
b FNの定義を満たさない患者でも,状態によってはFNとして治療を行う.
c 抗がん薬の投与を中断する.
d 多剤耐性緑膿菌の発生を防ぐため,原因菌特定を待って治療を開始する.
e β-ラクタム系薬が第一選択薬である.
A.答えは記事の最下部にあります!
いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※監修:後藤 明彦(東京医科大学 血液内科学分野 主任教授)
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