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新ワード紹介(14)マクロファージ活性化症候群〈MAS〉【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回はマクロファージ活性化症候群(MAS)についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅶ 血液・造血器疾患>3 リンパ系疾患 に追加されました.

マクロファージ活性化症候群(MAS)とは?

血球貪食症候群は,骨髄などにおいて活性化された組織球が自己の血球を貪食する病態で,血球貪食性リンパ組織球症(HLH)とも呼ばれます.このHLHのうち,リウマチ性疾患に伴う二次性のものをマクロファージ活性化症候群(MAS)と呼びます. MASはサイトカインストームと呼ばれる炎症性サイトカインの異常産生により,発熱・肝脾腫・リンパ節腫脹などをきたします.急激に進行し,短時間で播種性血管内凝固(DIC)・中枢神経障害・多臓器不全に至ることもあり,致死的経過をきたしうる重篤な疾患です.

MASを起こす代表的な基礎疾患は全身型若年性特発性関節炎ですが,成人Still病,川崎病,全身性エリテマトーデスにおいてもMASの合併には注意が必要です.MASは,他のリウマチ性疾患にも合併しますが,その頻度は非常にまれです.

MASに特徴的な検査所見は,汎血球減少,肝機能障害,低フィブリノゲン血症,高フェリチン血症,高トリグリセリド血症などがあります.特に血小板数の減少,フェリチン値の上昇, AST値の上昇はMASの分類基準にも含まれており,早期診断においても有用な指標になります.

MASで認める一連の現象は,サイトカイン異常高値により説明が可能です.汎血球減少は炎症性サイトカインによる造血抑制,血球貪食により起こります.実際,骨髄検査でマクロファージまたは組織球による自己血球の貪食が認められることは本症に特徴的な所見とされています.AST,ALTの上昇は,腫瘍壊死因子(TNF-α)によるミトコンドリアを標的とした細胞傷害により起こります.また凝固線溶系の異常は,炎症性サイトカインによる血管内皮細胞の活性化や細胞傷害に起因します.トリグリセリドの上昇などの脂質代謝異常は,TNF-αによるリポタンパク質リパーゼの抑制を反映していると考えられています.

MASの治療の中心は,原疾患のコントロールと高サイトカイン血症の是正です.副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)を中心とした免疫抑制療法が基本となり,プレドニゾロン大量療法や,メチルプレドニゾロンパルス療法などが行われます.また,活性化マクロファージに取り込まれやすいリポ化ステロイドであるデキサメタゾンも非常に有効です.その他,シクロスポリン,血漿交換療法なども使用されます.

出題基準に追加された背景は?

MASは,全身型若年性特発性関節炎の7~17%,全身性エリテマトーデスの0.9~4.6%,川崎病では1.1~1.9%に合併を認めるほか,頻度は低いもののほとんど全てのリウマチ性疾患に合併する可能性があります(小児HLH診療ガイドライン2020を参照).日常臨床で認めることはまれですが,速やかに診断して治療を行わなければ,急速に進行する汎血球減少とDICから多臓器障害に至る重篤な疾患です.

本症の重要性を反映して,2020年9月に『小児HLH診療ガイドライン2020』が作成されています.今回の医師国家試験の出題基準への追加は,医学生としてMASへの適切かつ迅速な対応ができるようになってほしいという厚生労働省の思いが反映されたのかもしれません.

過去問での出題状況は?

118回国試での出題こそなかったものの,近年の国試では,例えば114回の114F43で,成人Still病疑いに合併した血球貪食症候群が出題されています.

▲114F43,正解はe

今後は,今まで出題のあったリウマチ性疾患に伴う二次性の血球貪食症候群が,「マクロファージ活性化症候群」という名前で提示される可能性もあるため,注意しておきましょう.

確認問題を解いてみよう!

Q.マクロファージ活性化症候群(MAS)を高頻度に起こす疾患を選択せよ.
a 悪性リンパ腫
b 全身型若年性特発性関節炎
c 2型糖尿病
d サイトメガロウイルス感染症
e 全身熱傷

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※執筆:岡田 賢(広島大学大学院医系科学研究科 小児科学)

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