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新ワード紹介(15)ヘパリン起因性血小板減少症〈HIT〉【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回はヘパリン起因性血小板減少症(HIT)についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅶ 血液・造血器疾患>4 出血性疾患と血栓傾向 に追加されました.

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)とは?

HITとは,抗凝固薬であるヘパリンを投与すると5〜10日後に血小板減少とともに動静脈血栓を発症する疾患です.HIT発症率はヘパリンを投与した患者の0.2〜3%なので比較的まれな疾患です.

この疾患の難しいところは,抗凝固薬であるヘパリンの投与中であるにもかかわらず動静脈血栓症が引き起こされるため,HITという疾患が念頭にないとヘパリンの量が不足していると考えてヘパリンを増量してしまい,病態を増悪させてしまう可能性があることです.今回,HITが出題基準に追加され,さらにレベル分類aとなったこと,備考にはHIT抗体というキーワードが設定されていることから,HITの発症機序と検査方法,初期治療については理解しておく必要があります.

ヘパリンが投与されると,外傷や手術,血栓症などで活性化した血小板から放出された血小板第4因子(PF4)とヘパリンが結合して,ヘパリン/PF4複合体が形成されます.この複合体をB細胞が認識すると,抗ヘパリン/PF4複合体抗体が産生され,これをHIT抗体と呼びます.HIT抗体は血小板に結合することで血小板を過剰に活性化させ,その結果として血小板寿命が短縮し,消耗性に血小板減少が引き起こされます.さらに,活性化した血小板からは凝固系を活性化させる物質が放出され,結果としてトロンビンが過剰産生されて血栓塞栓症を発症します.

HITを疑った際の診断は4Tsスコアをつけるところから始まります.①血小板減少,②血小板減少の時期,③血栓症や続発症,④血小板減少の他の原因の4項目でスコアリングし,HITらしいかを判定します.その結果でHITを強く疑えば,次にHIT抗体検査を行います.多くの施設ではHIT抗体検査は外注検査のため,結果の判明までは3〜5日程度を要します.結果を待つ間に致死的な血栓症を発症することもあるため,HIT抗体検査を提出後より原因であるヘパリンを中止し,ヘパリン以外の抗凝固薬(日本ではアルガトロバン)を開始します.HIT抗体検査は感度が高く,陰性であればHITを否定できるためヘパリンに戻し,陽性であればHITと診断してヘパリン以外の抗凝固薬を継続します.

出題基準に追加された背景は?

HITが出題基準に新規項目として追加になり,かつレベル分類aとなった理由は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック(世界的大流行)だと考えられます.COVID-19では高率に血栓塞栓症を併発し,その予防としてヘパリン投与が推奨されました.全国でヘパリンの使用が増加したことで一時的にヘパリンの皮下注製剤の供給不足が生じ,同時にHIT患者も増加しました.

もう1つの大きな理由はCOVID-19ワクチンです.日本国内で多く使用されたmRNAワクチンではさほど問題になりませんでしたが,海外にて主流であったアデノウイルスベクターワクチン投与後にHITに類似した病態であるワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が報告されました.VITTではワクチン接種から4〜30日後にHITに類似した抗体(HIT抗体の測定試薬で検出できる)が産生され,高度な血小板減少とともに動静脈血栓症が引き起こされます.当時は致死率20~30%と高かったため世界中に知られるようになり,日本国内でも1例のみですが報告がありました.その発症機序は,HITと同様にヘパリンの代わりにCOVID-19ワクチンがHIT抗体の産生を誘導するというものです.COVID-19ワクチンの他には子宮頸がんワクチンでもVITTの発症報告があります.

 HITやVITTの発症率は高くありませんが,原因がヘパリン,ワクチンといった医原性であることから,見逃してはいけない疾患として今回,新規項目として選ばれたのだと考えられます.

過去問での出題状況は?

第117回までの医師国家試験では,HITが問題中に登場したことは一度もありません.

確認問題を解いてみよう!

Q.ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)について正しいのはどれか.1つ選べ.
a 血小板減少により出血を起こす疾患である
b HIT抗体により血小板産生低下が起きる
c HITでは動脈血栓症は起きない
d HIT抗体検査が陰性であればHITの可能性は低い
e HITを疑ったらヘパリンを中止し,他の抗凝固薬は投与する必要はない

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※執筆:安本 篤史(北海道大学病院 検査・輸血部)

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確認問題の答え:d

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