新ワード紹介(21)場面緘黙【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は《場面緘黙(ばめんかんもく)》についてご紹介いたします.
目次
出題基準のどこに追加されたの?
医学各論Ⅱ-5「小児・青年期の精神・心身医学的疾患,成人の人格・行動障害」に追加されました.
《場面緘黙》とは?
場面緘黙は,話す能力に問題がないにも関わらず,特定の状況でのみ話すことができなくなる病態をいい,小児期にみられる不安症の一つです.
親しい家族とは会話するのに,それ以外の場面(家の外や保育園・幼稚園・学校など)では全く話さないという場合が多いです.また,5歳未満での発症が多いですが,家族以外と過ごすことが増える入園や入学を機に気づかれることもあります.
特定の状況で話せないため,日常生活で次のような支障をきたします.
●授業で発言できず,教師が評価をつけられない/評価が下がる.
●発言しないことでいじめにあう.
●授業中にトイレに行きたくても許可を得られない.
なお,「話さない」の程度は患者や患者の経過によって様々で,全く話さない場合もあれば,小さな声でなら話す場合もあります.身振り手振りやアイコンタクトを用いて自分の意志を伝えようとする場合もあります.
また,成長とともに(数ヵ月〜数年かけて)自然に改善する場合もあります.
実は,場面緘黙という疾患は新しくできた疾患ではありません.もともと日本においては選択緘黙(選択性緘黙)と呼ばれていましたが,ICD-11で場面緘黙と訳されるようになりました.
この理由は,従来の“選択”緘黙という名称では「患者の意志で発語しないことを選択している」かのような誤解を生じやすかったため,特定の場面で話せないという状態を重視した名称が望ましいとされたからです.
場面緘黙の児童に併存しやすい疾患は,他の不安症(分離不安症や社交不安症など)や,自閉スペクトラム症であるとされています.
患者に対しては認知行動療法や必要に応じて薬物療法(SSRIなど)を行います.
また,家族や学校関係者と連携・協力し,非言語的コミュニケーションの工夫をするなど,話すことを強制させることはせずに,患者が安心して過ごし,治療に取り組める環境を整えることも重要です.
出題基準に追加された背景は?
前述した通り,場面緘黙は全く新しい疾患ではなく,医師国家試験においても平成30年版の出題基準に選択緘黙という名称ですでに存在していました.記載場所は場面緘黙と同じく,医学各論Ⅱ-5「小児・青年期の精神・心身医学的疾患,成人の人格・行動障害」の中です.
今回は疾患名の変更があったため,解説しました.選択緘黙ならわかっていたのに…ということがないようにしましょう.
過去問での出題状況は?
新出題基準が適用された118回では,「場面緘黙」という病名を含む問題も,選択緘黙について問う問題もありませんでした.
ですが,選択緘黙そのものについて,直近の国家試験では正解選択肢としての出題があります.
【117A18】
7歳の女児.就学してから2ヵ月間,教師や児童と会話をしないことを指摘され,心配した両親に連れられて来院した.幼稚園でもほとんど発語はなかったが,身振りでコミュニケーションはとれていた.幼少時から現在まで,家族とは普通に会話しており,知的な遅れは目立たない.神経診察を含む身体診察に異常を認めない.
考えられるのはどれか.
a 吃音症〈小児期発症流暢症〉
b Tourette症候群
c 学習障害
d 選択緘黙
e 素行症
100回以降の国試だと,100A5,106A50,114A8で選択緘黙に関連する問題が出題されています.今後も関連事項について出題される可能性があるので,しっかり勉強しましょう!
確認問題を解いてみよう!
Q.場面緘黙について正しいのはどれか.
a 成人には生じない.
b 強迫症の一種である.
c 話すことを周囲が積極的に促すと改善する.
d 社会不安症が併存することがある.
e 自然に改善することはない.
A.答えは記事の最下部にあります!
いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※監修:三木 祐介(谷町みきこころの診療所)
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