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新ワード紹介(27)心臓震盪【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.

今回は心臓震盪についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅳ 心臓・脈管疾患>6 心筋・心膜疾患,心臓腫瘍,外傷>H その他に追加されました.

早速本題から逸れますが,心臓震盪の1つ上に「たこつぼ心筋症」があります.113回国試から4年連続で匂わせが続き,117回国試でついに正解選択肢として出題され受験生を賑わせた,あのたこつぼ心筋症です.たこつぼ心筋症も,今回の令和6年版医師国試出題基準で正式に追加されました.何度も出題されているため今回の新ワード紹介企画では扱いませんが,不安な方はQBオンラインで検索してみてくださいね!

心臓震盪に話を戻します.心臓震盪は「レベルb」の疾患であり,「レベルb」は臨床研修で経験すべき病態・疾患とされています.「自分が研修医だったら適切な初療・診療依頼ができるか?」と想像しながら読んでみてください.

心臓震盪とは?

野球ボールがぶつかるといった前胸部への比較的軽い鈍的外力により,致死性不整脈をきたし心停止に至ることを心臓震盪といいます.心臓震盪は心臓に鈍的損傷をきたす心臓挫傷とは異なり,心臓に構造的な損傷がないことが特徴です.

心臓震盪はレクリエーションや競技スポーツにおける心臓突然死の主要な原因の1つであり,特に中高生の競技スポーツ中において発症しやすく,日本では野球が原因となることが最も多いと報告されています.
心電図上のT波頂点から15-30msec前のタイミングで前胸部に衝撃が加わった時に致死性不整脈である心室細動や心室頻拍が生じ,心停止から心臓突然死に至ります.

心臓震盪は心臓病の既往がなくても発症し,胸部プロテクターを装着していても生じることがあるため予防が難しく,その分発症早期の対応が重要となります.実際に,バイスタンダーCPR(その場に居合わせた人が行う心肺蘇生)の実施やAEDによる早期の電気的除細動により,心臓震盪発症後の社会復帰率は有意に改善を認めました.

発症後,心臓の構造的疾患を除外するために精密検査を受けなければなりませんが,基礎心疾患がなければ,生存者は植込み型除細動器(ICD)は必要ありません.

これらのことから,スポーツ関係者は救急講習の受講やAEDの携行,シミュレーション訓練など,心臓震盪発症者を蘇生させるための対策に尽力する必要があります.

出題基準に追加された背景は?

心臓震盪はスポーツの現場で生じる突然の心停止ですが,適切なCPRおよびAEDの使用により社会復帰率が高い疾患でもあります.心臓震盪の認知度の向上やAEDの社会的な普及等により,心臓震盪の生存率は着実に上昇しています.

今回の医師国家試験の出題基準への追加は,医学生・研修医として心臓震盪への適切かつ迅速な対応ができるようになってほしいという厚生労働省の思いが反映されたのかもしれません.

過去問での出題状況は?

新出題基準が適用された118回国試では出題がなかったものの,117回国試(117D13)でズバリ出題があり,発症早期の対応が問われました.

また,103G35でも出題があります.どちらも問題文に「ボールを胸に受けた」とあり,この疾患のkey wordといえそうですね.

確認問題を解いてみよう!

Q.心臓震盪の説明として,適切なものを2つ選べ.

a 前胸部への鈍的外力により,心臓へ構造的な損傷をきたす.
b 中高生の競技スポーツ中において多く発症しやすい.
c 胸部プロテクターを装着していれば,心臓震盪は発症しない.
d バイスタンダーCPRや早期の電気的除細動により,社会復帰率が改善する.
e 基礎心疾患がなくとも,心臓震盪の発症者は植込み型除細動器(ICD)が必須となる.

A.答えは記事の最下部にあります!


※執筆:大木卓巳 (JCHO相模野病院)


いかがでしたでしょうか.
27回続いた新ワード紹介企画も,今回が最終回になります.
この記事が少しでも受験生のみなさんの役に立つことを願っております!

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確認問題の答え:b,d

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