[5・6年生]医療ニュースから予想する国試第6回:遺伝性乳癌・卵巣癌
みなさん,こんにちは.
編集部のA.Mです.
梅雨が明けて真夏のように暑い日が続いていますね。
夏休みを充実させるためにも,熱中症には気をつけてください。
さて今回で6回目になる「医療ニュースから予想する国試」シリーズ.
前回までの記事はこちら
第1回:http://web-informa.com/kokushi/20130607-2/
第2回:http://web-informa.com/kokushi/20130618-3/
第3回:http://web-informa.com/kokushi/20130621-3/
第4回:http://web-informa.com/kokushi/20130626-3/
第5回:http://web-informa.com/kokushi/20130704-2/
読み損ねた回がある方は要チェック!
それでは今回のテーマ「遺伝性乳癌・卵巣癌」について,さっそく勉強していきましょう.
今年の5月に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが予防的乳房切除を行ったことを公表し,
耳にする機会が増えた疾患ではないでしょうか.
今までの国試にこのテーマが出題されたことはありませんが,
このように学会やニュースで話題になっており,今後の国試でも出題される可能性があります.
ではどんなところがポイントになるのでしょうか.
一緒にまとめていきましょう.
ここでいきなりですが問題です.
【問題】
癌抑制遺伝子はどれか.
a K-ras
b c-erbB2
c N-myc
d c-myc
e BRCA1
a~dは癌遺伝子でeは癌抑制遺伝子.
よって正解はeのBRCA1となります.
BRCA1とは,17番染色体長腕にある乳癌の癌抑制遺伝子のことです.
BRCA1について単独に聞かれることはないかもしれませんが,
このように除外選択肢としてさりげなく出題される可能性もあります.
さて,このBRCA1ですが,同様の癌抑制遺伝子としてBRCA2があり,
この両方,もしくはいずれかに変異があると,遺伝性乳癌が発生しやすくなり,
さらに,卵巣癌を合併する確率も増えることがわかっています.
これらの遺伝子変異により乳癌と卵巣癌を合併したものを
「遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)」と呼ぶんですね.
この「遺伝性乳癌・卵巣癌」,国試でどのような形で問われるかはわかりませんが,
以下の項目は大事なポイントですので知っておきましょう.
(1)遺伝性乳癌・卵巣癌の可能性が考えられる人
(2)遺伝性乳癌・卵巣癌の発症確率
(3)遺伝カウンセリング
一つ一つみていきましょう.
まず(1)遺伝性乳癌・卵巣癌の可能性が考えられる人
すでにご存じの方も多いでしょうが,
「家族性乳癌」(家系の中に乳癌の人が複数いる場合)のうち,
遺伝子の病変が明らかなものを「遺伝性乳癌」といい,
乳癌全体の5~10%を占めると考えられているんです.
そして遺伝性乳癌を疑う患者さんにはどんな人が挙げられるのかというと…
・若年発症(50歳以下が目安)
・家族内に乳癌を発生した人が多い患者
・男性の乳癌患者
・二箇所以上の乳癌や卵巣癌を同時期,もしくは異なる時期に発症した患者
このような場合,遺伝性が疑われるんですね.
遺伝性か,そうでないのかを調べるために,上記項目に当てはまる人に対して,
遺伝子検査を行いますが,あくまで任意.
「(3)遺伝カウンセリング」にも繋がる話ですが,全員に必ず行う検査ではありません.
次に,(2)遺伝性乳癌・卵巣癌の発症確率
前述の通り,現在,BRCA1とBRCA2の変異が乳癌発生に関わる主な遺伝子と考えられています.
遺伝形式は常染色体優性遺伝.
しかし,遺伝子変異を持っているからといって,みんながみんな発症するわけではないんです.
遺伝子変異を持つ人の中で,
乳癌発症リスクは65~74%,
卵巣癌はBRCA1で39~46%,BRCA2で12~20%と考えられています.
ここで遺伝子検査の話になりますが,検査ではBRCA1とBRCA2を調べます.
対象者は,(1)に書いてあるような患者さんですね.
もし遺伝子変異が見つかれば,
定期的な検査,予防的治療(外科切除,化学療法),そして遺伝カウンセリングを行います.
ちなみに検査するのはBRCA1とBRCA2のみですが,未知の遺伝子変異があるかもしれません.
つまり,BRCA1とBRCA2が正常だからといって,癌発症を完全否定できず,
その後も定期的な検診は必要になるんですね.
そして最後に(3)遺伝カウンセリング
(1)や(2)で書いたように,遺伝子検査の際には常に必要な遺伝カウンセリング.
遺伝子検査を実施するためには,
遺伝性乳癌・卵巣癌の疑われる患者さんやその家族に遺伝子検査の選択肢を提示し,
十分に話し合い,患者さんの同意をもらわなければなりません.
検査を受ける人の精神的負担,費用や時間の都合などの様々な側面から
話し合いを行わなければならず,また,検査実施後のフォローアップも欠かせません.
そのため,遺伝カウンセリングの体制を整えなければなりませんが,
日本はまだまだその点において後進国です.
医療の進歩とともに,今後,その体制が整うことが望まれます.
主なポイントは以上ですが,補足としてBRCA1とBRCA2の変異がみつかった患者さんに対しての,
乳癌の発症予防対策について書いておきます.
欧米では,冒頭で紹介したアンジェリーナ・ジョリーさんが行った切除術や,
タモキシフェンの予防的投与でリスクが減るとの報告がありますが,
日本では自費診療であり,また,上記の通り,全員が発症するわけではありません.
そのため,定期検診を受け,早期発見に努めることが重要になります.
これらのポイントを頭の片隅に入れておいていただけたら,と思います.
それでは遺伝性乳癌・卵巣癌についてはこれまで.
次回のテーマは,今年も多くの患者が出ると思われる“熱中症”を予定しております.
お時間のあるときに読んでいただけたらと思います.
(編集部A.M)