[読み物]医学界の偉人伝(その4)エリザベス・キューブラー=ロス

みなさんこんにちは!S藤です。

まずはこちらの国試の過去問をご覧ください。
101回国試で出題された、必修問題です。

101C50
死にゆく人の心の動きを,否認,怒り,取引き,抑うつ,受容の5段階で表し,
ターミナルケアの在り方に影響を与えた作品“On death and dying”(死ぬ瞬間)の著者は誰か.
a Mother Teresa(マザー・テレサ)
b William Osler(ウィリアム・オスラー)
c Helen Adams Keller(ヘレン・アダムス・ケラー)
d Albert Schweitzer(アルベルト・シュバイツァー)
e Elisabeth Kubler-Ross(エリザベス・キュブラー-ロス)

メルマガタイトルで既にバレているとは思いますが、
答えは「e Elisabeth Kubler-Ross(エリザベス・キュブラー-ロス)」ですね。

「医学界の偉人伝」第四回は、
有名な「死の受容への5段階」を提言、終末期医療の先駆者として知られ、
医師国家試験の必修問題でも出題された、
エリザベス・キューブラー=ロス医師についてお伝えします。

—–
「死の受容のプロセス」を提言
エリザベス・キューブラー=ロス

◆死についての講義◆

1926年、キューブラー・ロスは、
スイスのチューリッヒに三つ子姉妹の長女として生まれた。
父親が医学部進学に反対であったため、
自ら学費を捻出するため当初は検査技師として働いていた。

その後、チューリッヒ大学医学部を卒業し、アメリカに渡った。
そこで目にしたのが、死を間際にした患者を扱う態度である。
患者達は粗末にされ、誰も相手にしてくれなかったのだ。

愕然としたロスは患者達に向き合い、
その経験を伝えるべく死についての講義を始める。

1969年、「死ぬ瞬間」を出版し、世界的にも有名になる。

◆死の受容への5段階◆

ロスが「死ぬ瞬間」の中で発表したのが死の受容のプロセスである。

否認:自分の死を拒絶する
怒り:自分の死に対する怒りを周囲に向ける
取引:死を回避するべく神と取引する
抑うつ:死への恐怖からの喪失感
受容:自分の死を受け入れる

という5段階で構成されている。
すべての人がこの5段階を辿るわけではないが、
人は死を成長の機会とし、静かに尊厳なる死を迎えるための心構えが必要だとロスは考えている。

◆最後のレッスン◆

多くの末期患者と向き合い安らぎを与えてきたロスも、1995年、脳梗塞に見舞われた。
自分の死を冷静に受け入れるのは容易ではなく、
怒りや錯乱がみられ、それまでのロスからは想像もつかない姿であった。

この様子は映像に残されており、世界中の人々を驚かせた。
ただ、そのような状況を「最後のレッスン」として自分に必要なことだと位置づけている。

どうしたら人の愛を受け取れるのか。

その答えは、世話をされる自分を受け入れることであった。

これまで仕事に忙殺され、家族とは疎遠になっていたロスだが、
ベッドでは家族に囲まれ愛に包まれることで、
苦しい闘病の中でも喜びを見つけ、安らかな最期を迎えることができたのである。

—–

いかがでしたか?

ロス医師について調べていくと、
現在の医療での重要なテーマとなっている終末期ケアについて、
はじめに道を切り拓いた行動力や業績は目覚ましいものであるとともに、
父親の医学部進学への反対、大学からの反発、忙しさゆえの離婚、自らの死への直面などを経た
ロス医師の等身大の生き様にも、引き込まれる魅力があると感じました。

興味のある方は、NHKのドキュメンタリー「最後のレッスン~キューブラ―・ロス かく死せり」も見てみて下さいね。

★おまけ:障害の受容の5段階★

ロスが提唱した「死の受容への5段階」をオリジナルとして、
死以外の危機的状況の受容の段階説も提案されています。

医師国家試験でも、ロスの「死の受容への5段階」の出題の他に、
障害の受容への5段階(上田敏)」も出題されています。

実際に問題を見てみましょう。

106G13
障害の受容について正しいのはどれか.
a ショック期では,感情が抑制されやすい.
b 否認期では,自己の障害の理解が重要である.
c 混乱期では,抑うつ的になることはまれである.
d 悲観期では,家族の強い励ましが重要である.
e いったん受容に至れば,障害受容は完成する.

答えは、「a ショック期では,感情が抑制されやすい.」で、正答率は36.5%でした。
障害の発生に限らず、なにか大変ショックなことの後には、
しばらく茫然自失となったのちに(ショック期)、
「嘘だ!信じられない・・・」という気持ちになり(否認)、
「怒りや悲しみで頭の中がぐちゃぐちゃです・・・」(混乱期)という段階を経てから、
少しずつ前向きになり、受容していく、というようなイメージです。

半数以上の受験生が、bを選んで間違ってしまったのですが、
心理的防衛反応により否認を生じている時期に無理やり現実を突きつけても、問題は解決しませんよね。
受容までの段階を理解し、その段階に応じた、共感的なサポートを行っていくことが重要になります。

【障害の受容の5段階】
ショック期:障害発生の直後。感情が鈍麻した無関心な状態にあることが多い。
否認期:身体的状態の安定とともに心理的防衛反応としての疾病・障害の否認を生じる。
混乱期:怒り、うらみ、悲嘆、抑うつなどの混乱した状態。
解決への努力期:前向きの建設的な努力が主になる時期。
受容期:社会(家庭)のなかで新しい役割や仕事を得て、活動をはじめ、その生活に生きがいを感じるようになる

これで、「医学界の偉人」シリーズはおしまいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

(編集部S)

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