[5年生向け]国試からみる,臨床実習のポイント!(その4)教科書だけでは学べない,リアルな症例!Part.1
こんにちは!編集部A.Mです.
臨床実習のポイントシリーズ,4回目の今日は「典型的ではない症例」をテーマにお送りします.
■典型例ではない症例も出題される!■
臨床実地問題(いわゆる臨床問題)では,ある症例について,
年齢・性別・主訴・病歴・身体所見・検査所見・画像などが呈示され,
それらを解釈して診断名や病態,診断後の対応を解答します.
呈示される患者のデータは,教科書に載っている典型的なものばかりだと思っていませんか?
近年の国試では,実はそうとは限らないんです.
例えばどのような問題が出題されたのか,みてみましょう.
【108D36】
78歳の女性.白内障手術目的で入院中である.1年前から記銘力低下がみられるようになり,Alzheimer型認知症と診断されて薬物療法が開始され,介護サービスを受けながら独居生活を続けていた.数年来の視力低下のために日常生活での支障が大きくなり,白内障手術目的で入院となった.入院翌日,ベッドから起き上がらず,朝食も摂らず,まとまりのないことを小声でつぶやくのみで質問に対してほとんど反応がなかった.身体所見に異常はなく,血液生化学所見でも術前検査と比較して有意な変化はなかった.また,頭部CTでも半年前と比較して新たな病変はみられなかった.
最も考えられるのはどれか.
a せん妄
b 適応障害
c 解離性障害
d うつ病性昏迷
e 急性ストレス障害
この症例に対して,正確な診断が出せますか?
答えは「a せん妄」なんです.
「入院による環境の変化後に生じた意識混濁」といえば,確かに「せん妄」が最も考えられます.
しかし,今までの国試で出題された「せん妄」の症例といえば,
興奮や幻覚,妄想などが目立つものがほとんどでした.
また,一般的な教科書も幻覚や妄想などを中心に記載してあるものが多いです.
一方,本症例では「ベッドから起き上がらず,朝食も摂らず,
まとまりのないことを小声でつぶやくのみで質問に対してほとんど反応がなかった.」とありますね.
これって本当にせん妄なの?と疑ってしまうような症状です.
実は,せん妄は3タイプにわけられます.
興奮や幻覚,妄想などが目立つものを「過活動型」といい,
他に,混乱と鎮静が目立つ「低活動型」,過活動型と低活動型が交互に出現する「混合型」があります.
(国試の過去問では興奮などが目立ってはいますが,問題文をよく読むと混合型の症例が多いようです.)
受験生にとっては,せん妄といえば過活動型の印象が強いためか,
低活動型の本症例の診断に戸惑った方も多かったのではないでしょうか.
せん妄は決して珍しい疾患ではありませんし,国試でも度々問われるため,
「受験生は知っていて当たり前の疾患」であることは確かです.
しかし,教科書を読んでいるだけではわからないこともあるんです.
108回国試受験者に話を聞いたところ,
「低活動型のせん妄の症例を実習中にみたことがあったからすぐにわかった」,
という方がいらっしゃいました.
教科書の内容をまず頭に入れておくのはもちろんのこと,
近年の国試では実臨床により近い,「リアルな症例」が問題として出題されることを踏まえておけば,
臨床実習の視点も変わるのではないでしょうか.
続けてもう1題みてみましょう.
【108A26】
71歳の男性.肺癌術後2日で入院中である.2日前,右上葉肺癌のため右上葉切除とリンパ節郭清術を行った.術中出血量は65mL,手術時間は3時間10分だった.手術後の経過は順調で手術翌日から食事を開始した.しかし術後2日から胸腔ドレナージの排液量は500mLに増加し,排液の性状は淡血性から黄白色混濁となった.喫煙は20本/日を50年間.意識は清明.身長160cm,体重65kg.体温37.0℃.脈拍84/分,整.血圧120/74mmHg.呼吸数16/分.SpO2 98%(鼻カニューラ1L/分 酸素投与下).眼瞼結膜に貧血を認めない.頸静脈の怒張を認めない.心音に異常を認めないが,呼吸音は右側で軽度減弱している.血液所見:赤血球362万,Hb 12.4g/dL,Ht 36%,白血球7,700,血小板25万.CRP 2.4mg/dL.心電図に異常を認めない.術後2日のポータブル胸部X線写真と胸腔ドレナージ排液とを次に示す.
この患者の術後合併症として考えられるのはどれか.
a 膿 胸
b 肺 炎
c 乳び胸
d 無気肺
e 気管支断端瘻
こちら,正解は「c 乳び胸」でした.
胸管は左側にあるため,左上葉切除とリンパ節郭清術の合併症に乳び胸があることは有名です.
しかし,右側からの郭清でもリンパ管損傷による乳び胸が起こることがあるんです.
本症例では右側での操作だったことから,乳び胸を選択するのにためらった方が多かったのかもしれません.
正答率が59.1%と低くなりました.
今後の国試では,所見や検査データの全てが典型的でなくても,
得られた情報の中から重要なポイントを抜き出して,
より正確に診断する能力を求められる問題が増えてくるかもしれません.
また,確定診断はできないけど,現在みられる所見から行うべき検査や対応を判断する能力も問われるでしょう.
その力をつけるには,実際の症例を経験するのが一番だと思います.
教科書だけでは学べないことを,実習でたくさん経験してくださいね!
本日はここまで.
次回も症例問題から臨床実習のポイントをみていきましょう!
お楽しみに!
(編集部A.M)