[5年生向け]国試からみる,臨床実習のポイント!(その2)教科書丸覚えではダメな症例!
こんにちは,編集部のM.Tです.
先週から始まりました,「国試からみる,臨床実習のポイント!」
第2回の今日は「教科書丸覚えではダメな症例」をテーマにお送りします.
■ 知っておくべき 教科書丸覚えではダメな症例
「OSCEで問われるレベルのことが,国家試験でも出題される」
ということを,前回は紹介しました.
今回は「知っておくべき」をキーワードに,
実習で先生に訊かれてもおかしくない内容の問題を
109回国試から2問紹介したいと思います.
では早速見ていきましょう.
【109F17】
74歳の男性.脳梗塞で入院中である.1ヵ月前,四肢麻痺にて緊急入院し,脳幹梗塞と診断された.入院中に肺炎を発症し,抗菌薬にて治療後に回復期リハビリテーション病棟に転棟した.転棟時,意識は清明.不全四肢麻痺のため車椅子への移乗と食事とに介助を要する.体温36.4℃.血液所見:赤血球421万,Hb 13.4g/dL,Ht 42%,白血球6,400,血小板21万.胸部X線写真に異常を認めない.転棟前に実施した喀痰培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉陽性が判明した.リハビリテーションは訓練室で実施している.
この患者への対応で誤っているのはどれか.
a 院内で情報を共有する.
b リハビリテーションは継続する.
c バンコマイシン点滴静注を開始する.
d 食事介助の際にマスクとガウンを着用する.
e 使用したティッシュペーパーは感染性廃棄物とする.
解答率は,a 0.4%,b 42.2%,c 43.8%,d 8.9%,e 4.9%
と,bとcで会場が割れた問題でした.
本症例では,白血球正常・胸部X線写真に異常を認めないとあるので,
MRSA保菌状態であり,接触感染予防のみで良いと判断せねばなりません.
皆さんもCBT対策で「MRSAにはバンコマイシン」と,
キーワードのように覚えていたのではないでしょうか?
バンコマイシンでは大きな副作用として「腎障害」が挙げられますし,
また,むやみな抗菌薬投与は耐性菌発生のきっかけになります.
ただ保菌しているだけの患者に,抗菌薬を安易に投与してはいけないということですね.
僕自身,学生時代に「MRSA…バンコマイシンの出番ですね!」としたり顔で言って,
先生から「もっと深い勉強をしなさい」と返されたことがあります.
皆さんが薬をオーダーすることはまだないはずですが,
薬剤を使用すべきタイミングや投与の仕方も少しずつ勉強するようにしましょう.
受け持ちの患者さんの使ってらっしゃる薬からスタートするといいかもしれませんね.
次はこの問題です.
【109F27】
次の文を読み,以下の問いに答えよ.
51歳の男性.上腹部痛を主訴に来院した.
現病歴:3日前から上腹部の強い痛みと悪心とを自覚していた.これまでも時々,空腹時に上腹部膨満感が出現することがあり市販の薬を内服していた.便通は毎日あり,もともと軟らかい方である.今朝から倦怠感を少し感じたため受診した.発熱や息切れはない.
既往歴:特記すべきことはない.
生活歴:喫煙歴はない.飲酒はウイスキー60mL/日を30年間.
家族歴:母親が60歳時にくも膜下出血で死亡.父親がAlzheimer型認知症を発症し72歳時に胃癌で死亡.
(中略)
現症:意識は清明.身長174cm,体重67kg.体温36.5℃.脈拍96/分,整.血圧100/62mmHg.呼吸数20/分.SpO2 97%(room air).皮疹を認めない.眼瞼結膜は貧血様である.眼球結膜に黄染を認めない.心音と呼吸音とに異常を認めない.肝・脾を触知しない.心窩部から右季肋部にかけて圧痛を認める.反跳痛を認めない.直腸指診で異常を認めない.
検査所見:血液所見:赤血球340万,Hb 10.0g/dL,Ht 35%,白血球7,200,血小板16万.CRP 1.5mg/dL.腹部超音波検査で異常を認めない.
次に行う検査の前に再度確認しておくべきなのはどれか.
a 輸血歴
b 緑内障
c 気管支喘息
d 卵アレルギー
e アトピー性皮膚炎
先ほどの【109F17】と同じ必修臨床で,正答率72.5%と正答率低めのこの問題ですが,
皆さん,出題者が何を訊きたいか,わかりますか?
本症例では,主訴・病歴情報・貧血の所見から,
「胃・十二指腸潰瘍や胃炎による上部消化管出血」などが考えられますね.
よって,次に行いたい検査は「上部消化管内視鏡検査」になります.
その際に,消化管の運動を抑えるために抗コリン薬を使用しますが,
事前に確認すべき項目として「抗コリン薬が禁忌となる疾患の既往」が重要になります.
正解は「b 緑内障」.
抗コリン薬を使用すると眼圧が上昇するため,緑内障患者への抗コリン薬使用は禁忌です.
他にも,前立腺肥大症があると抗コリン薬使用によって尿閉をきたす可能性があることや,
これらの疾患の既往がある場合には,グルカゴンを代わりに使用することなども知っておくと良いかもしれませんね.
一般問題で「抗コリン薬が禁忌となるものは?」
と訊かれればすぐに答えられますが,
このように遠回しに訊かれてもわかるようにしたいですね.
病院実習を通して,臨床で役立つ知識を身につけ,
少しずつ国試・研修医生活に備えていきましょう!
今回は109回国試で出た「知っておくべき問題」を紹介しました.
いかがでしたか?
次回も国試の問題を使って,臨床実習について考えていきますよ!
お楽しみに!
(編集部M.T)