第116回医師国家試験問題解説
第116回医師国家試験【禁忌肢】今年も判明! 国試せん妄に打ち勝て!
第116回医師国家試験を受験された皆様(お疲れ様でした),第117回医師国家試験受験予定の皆様(1年間ともに頑張りましょう!),そして国試マニア・禁忌肢ラバーの皆様,こんにちは.
メディックメディア医学系編集部,禁忌肢担当のYです.
2022年の第116回医師国家試験も,受験者の皆様の多大なるご協力のお陰を持ちまして,「禁忌肢採点問題」の分析が無事完了いたしました.
情報提供にご協力いただいた受験者の皆様に篤く御礼申し上げるとともに,ここに第116回医師国家試験「禁忌肢採点問題」の全容を公開いたします!
ここで改めて,
禁忌肢採点問題とは?
医師国家試験では,全400問中の随所に「禁忌肢」と呼ばれる選択肢が潜んでいます.
一般には,「その処置や治療を医師が行った場合,患者に死亡や不可逆的な障害をもたらすもの」や,同じく「法令違反となるもの」などの選択肢が該当し,
そのうちの約10問については,「禁忌肢採点問題」として,4問以上選択した場合に不合格となる採点基準が設定されています.
とはいえ,長年の間,「禁忌肢落ちは都市伝説」と言われてきたように,実際にこの「禁忌肢採点問題」での基準による不合格者が存在しなかったのも事実.
事態が一変したのは,2018年,第112回医師国家試験において,多数の禁忌肢選択者・禁忌肢落ち(禁忌肢を4問以上選択して不合格)の受験者が生じてからになります.
以降,第112回の時ほど極端ではないものの,例年,禁忌肢選択者,禁忌肢落ちの受験者が発生し,今や「禁忌肢対策」は医師国家試験対策において,合格のためには避けて通れない必須の項目となりました.
では,実際に禁忌肢採点問題とは,どういう問題として出題されるのか.
メディックメディアでは毎年,受験者からの情報を元に「禁忌肢採点問題」の分析を行っており,下記が分析結果の「禁忌肢採点問題」の概要となります.
- 禁忌肢採点問題は国試の全400問中,約10問
- 禁忌肢採点問題は必修問題以外(総論や各論)からも出題されている
- 禁忌肢採点問題は正答率によって左右されない
- 禁忌肢採点問題は相対禁忌を含み,かつ禁忌の軽重によって左右されない
そして……
- 禁忌肢を1問でも踏んだ人は第116回国試受験者全体の約24%,禁忌肢落ちした人は2人
(※医師国家試験解答速報サービス「講師速報」の解析による)
でした!
昨年の第115回医師国家試験では,禁忌肢選択者(禁忌肢を1問でも踏んだ人)が受験者全体の約14%,禁忌肢落ちが0人だったことを考えると,今回の第116回医師国家試験は,禁忌肢採点問題という観点からはかなり厳しい試験であったことが伺われます.
では具体的に,どの問題が禁忌肢採点問題だったのか,選択した人が多い順のランキングで発表していこうと思います.
●禁忌肢選択した受験者数 第1位の問題
116D48
85歳の男性.肺炎球菌性髄膜炎のため入院中である.全身状態が悪化しているため尿道カテーテルを留置している.昨晩は不穏状態であり尿道カテーテルを一晩中気にしていた.右股関節に対して人工関節置換術の既往がある.体温36.8℃,脈拍76/分.血圧120/80mmHg.呼吸数16/分.SpO2 98%(room air).外尿道口からの出血を認め,尿道カテーテルに連結する蓄尿バッグ内に尿が出ていないことが判明した.腹部CT矢状断像(A)と冠状断像(B)を別に示す.
この患者にまず行うべき処置として適切なのはどれか.
a 尿道カテーテルを押し込む.
b 尿道カテーテルを折り曲げる.
c 尿道カテーテルの固定水を抜く.
d 尿道カテーテルの内腔にもう一本挿入する.
e 尿道カテーテルをそのまま牽引して抜去する.
診断と正解,そして禁忌肢,わかるでしょうか? 解説は2022年4月26日発行予定の『第116回医師国家試験問題解説』でどうぞ!
と,いうダイレクトマーケティングはいったん措いておくとして.
「不穏状態であり尿道カテーテルを一晩中気にし」,CTでは拡張した膀胱と,尿道内のカテーテルが確認できます.
この問題,画像で最も注目すべきは,白い尿道カテーテルではなく,その先端を覆う黒い部分.尿道カテーテルの先端で拡張したままのバルーンでした.
本来,尿道カテーテルの挿入後,膀胱内で拡張しカテーテルの抜去を防ぐべきバルーンが,尿道内で拡張した状態になっています.尿道カテーテルの不全自己抜去,およびそれに伴う尿道損傷ですね.
正解は,「c 尿道カテーテルの(バルーン内の)固定水を抜く」でした.正答率は79.1%.医師国家試験の問題の中では決して高い方ではありません.
そして正解しなかった約2割の受験者のうちの,ほとんどとなる19.0%が選択したのが,「e 尿道カテーテルをそのまま牽引して抜去する」.これがこの問題の禁忌肢採点選択肢でした.第116回医師国家試験の受験者が約1万人なので,ざっくり言って1900人がこの禁忌肢を踏んでしまった計算です.
なぜ禁忌肢か.言わずもがな,尿道損傷を悪化させるからですね.
さて,そういう意味では「a 尿道カテーテルを押し込む」も同じく尿道損傷を悪化させる可能性があり,ともに禁忌肢といえるのですが,メディックメディアでの解析上,aを選択した受験者は禁忌肢採点されていませんでした.「禁忌肢採点される選択肢は1問につき1肢」という不文律的設定は,第116回医師国家試験においても引き継がれていることがわかります.
ところでカテーテルと禁忌肢採点問題,実は歴史が長い.
第112回医師国家試験では,112A21「d 抜けた胸腔ドレーンを刺入部から再挿入する.」が禁忌肢採点問題(不潔なので).
第113回医師国家試験では,113D53「(肺術後のエアリーク持続中に)b 胸腔ドレーンの抜去」が禁忌肢採点問題(肺の膨張不全を引き起こすので).
第114回医師国家試験では,114E41「e 尿道カテーテル挿入で抵抗を感じたらバルーンを膨らませる.」が禁忌肢採点問題(尿道損傷を起こすので).
そして今回,第116回のこれ……
カテーテルという,臨床実習で初めて触れることになる器具の取り扱いが,繰り返し禁忌肢採点問題として出題されているにもかかわらず,いかに受験者の弱点となるかがよくわかる問題でした.
(とはいえ,コロナ禍で臨床実習を大幅に制限されてしまった近年の受験者さんたちにはあまりに気の毒……)
●禁忌肢選択した受験者数 第2位の問題
116D46
72歳の男性.突然の激しい頭痛と急激な両側の視力低下を主訴に来院した.意識は清明.身長169cm,体重69kg.体温36.8℃.脈拍80/分,整.血圧154/92mmHg.四肢麻痺はない.頭部単純CTの冠状断像(A)と矢状断像(B)を示す.
適切な治療はどれか.
a 血管内治療
b 減圧開頭術
c 経蝶形骨洞手術
d 開頭クリッピング術
e 腰椎(髄液持続)ドレナージ
「突然の激しい頭痛と急激な両側の視力低下」,そして画像の部位から,下垂体.うん,下垂体.そこまでは比較的わかりやすいけれども,診断は「下垂体卒中」,国試の出題では比較的珍しい疾患でした.診断ができ,さらに治療法を「c 経蝶形骨洞手術」と解答できた受験者は53.3%.これもかなり難しい問題.
下垂体腫瘍の病態は腫瘍内出血で,下垂体腺腫においてしばしば認められるものであり,準緊急的に腫瘍摘出術が行われます.
禁忌肢採点選択肢は「e 腰椎(髄液持続)ドレナージ」.頭蓋内の占拠性病変であり,頭蓋内圧亢進のおそれがあるからですね.受験者のうち2.5%がこの禁忌肢を選択していました.
●禁忌肢選択した受験者数 第3位の問題
116B46~47
次の文を読み,46,47の問いに答えよ.
20歳の男性.動悸と頭痛を主訴に来院した.
現病歴:17歳の時から時々動悸と頭痛を自覚していた.本日,知人の引っ越しを手伝うため家具を運ぼうとしたところ,動悸と激しい頭痛が生じ,内科を受診した.
既往歴:大学入学時の健康診断で血圧高値を指摘された.
生活歴:大学生.喫煙歴,飲酒歴はない.
家族歴:父が高血圧症で治療中.
現症:意識は清明.身長172cm,体重55kg.体温36.3℃.脈拍132/分,整.血圧192/110mmHg.呼吸数24/分.著明な発汗を認める.顔面は紅潮している.四肢に冷感を認める.胸腹部に異常を認めない.
検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-).血液所見:赤血球463万,Hb 13.2g/dL,Ht 40%,白血球5,800,血小板22万.血液生化学所見:総蛋白8.8g/dL,AST 24U/L,ALT 14U/L,LD 183U/L(基準120〜245),尿素窒素17mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,尿酸7.2mg/dL,血糖101mg/dL,Na 136mEq/L,K 4.2mEq/dL,Cl 100mEq/L.CRP 1.2mg/dL.
B47
入院後,以下の検査結果が得られた.
入院後検査所見:TSH 1.76μU/mL(基準0.2〜4.0),FT3 3.6pg/mL(基準2.3〜4.3),FT4 1.4ng/dL(基準0.8〜2.2),アルドステロン6ng/dL(基準5〜10),血漿レニン活性2.0ng/mL/時間(基準1.2〜2.5),アドレナリン120pg/mL(基準100以下),ノルアドレナリン1,200pg/mL(基準100〜450).尿中VMA 18mg/日(基準1.3〜5.1).腹部超音波検査で左側腹部に径2cmの腫瘤像を認める.
経静脈的降圧薬で降圧がみられたのち,最初に投与すべき経口降圧薬はどれか.
a α遮断薬
b アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬
c カルシウム拮抗薬
d β遮断薬
e ループ利尿薬
あ,これは定番といえば定番の,わかりやすい禁忌肢です.
診断は褐色細胞腫.カテコラミン過剰の状態にあり,かつカテコラミンにはα受容体を介した血管収縮作用とβ受容体を介した血管拡張作用があるため,β遮断薬よりも必ず先行して「a α遮断薬」を投与する必要があります.
とはいえβ遮断薬が,降圧剤としてあまりにも有名なためか,禁忌肢「d β遮断薬」の選択者はそこそこ多く,受験者の2.4%がこの選択肢を選択していました.実臨床でやったらあかんで,覚えといてや.
●禁忌肢選択した受験者数 第4位の問題
116D38
6ヵ月の女児.左下肢を動かさないため母親に連れられて来院した.2日前に38℃台の発熱があり,自宅近くの診療所で咽頭炎と診断され,アセトアミノフェン坐剤の処方をうけている.翌日,おむつを交換するときに激しく啼泣することに母親が気づいた.新生児期に異常は指摘されていない.身長68cm,体重7.2kg.体温37.8℃.脈拍132/分,整.血圧96/68mmHg.呼吸数14/分.左下肢の自動運動はなく,左股関節を他動的に動かすと啼泣する.右股関節に可動域制限を認めない.血液検査:赤血球450万,Hb 12.0g/dL,Ht 38%,白血球12,600(桿状核好中球4%,分葉核好中球80%,好酸球1%,好塩基球1%,単球5%,リンパ球10%),血小板26万.CRP 15mg/dL.左股関節穿刺液のグラム染色でグラム陽性球菌が認められた.
行うべき処置はどれか.
a NSAID内服
b 左股関節切開・洗浄
c 両下肢オーバーヘッド牽引
d リーメンビューゲル装具着用
e 副腎皮質ステロイド左股関節内投与
うん,これも定番の禁忌肢ですね.「左股関節穿刺液のグラム染色でグラム陽性球菌が認められた」のに,「e 副腎皮質ステロイド左股関節内投与」したらあかんて.
とはいえ,受験者の気持ちはわからなくもありません.
この問題,正解が「b 左股関節切開・洗浄」.なぜその治療を行うのか,ということの解説は『第116回医師国家試験問題解説』にお任せするとして,6ヵ月の乳児に対して侵襲の小さくない処置をする,というのは,なかなか選びづらいものがあったのでしょう.でもステロイドはあかんで.
受験者の1.5%がこの禁忌肢を選択していました.
さて,ここから先はぐっと禁忌肢選択者が減り,各問題につき禁忌肢選択者の割合が全受験者の0.5%以下となります.
とはいえ数が多く,判明しただけでも以下7問.
これまでに挙げた4問と合わせ,メディックメディアで解析できた分だけでも11問が禁忌肢採点問題として出題されていました.
以下は選択者数第5位以降の問題と,全受験者に対する禁忌肢選択者の割合です.
●第5位 116A42c 常位胎盤早期剝離に子宮収縮薬点滴静注(0.5%)
●第6位 116A36e 臍ヘルニア嵌頓に臍膨隆部の穿刺(0.4%)
●第7位 116A49c 左室機能が低下した高度大動脈弁狭窄症にトレッドミル運動負荷心電図(0.3%)
●第8位 116D59a スポーツ外傷後の脳振盪で速やかに試合へ復帰させる(0.2%)
●第9位 116E44e 自然気胸に人工呼吸器による陽圧呼吸(0.2%)
●第10位 116A31e 劇症1型糖尿病に「経過観察のため半年後に受診してください」(0.1%)
●第11位 116C63a 上部尿路感染症(腎盂腎炎)にアドレナリン静注(0.1%)
以上,第116回医師国家試験の禁忌肢採点問題を概況してみました.
禁忌肢選択者第1位の尿道カテーテルは,臨床実習で勉強できる機会が減ったとはいえ,第114回禁忌肢採点問題の類問.
第2位の下垂体卒中も,禁忌肢の定番である頭蓋内占拠性病変の応用問題ともいえ.
褐色細胞腫にβ遮断薬,細菌感染症にステロイド,と,
数々の国試過去問をこなしてきた受験者の皆様なら,落ち着いて考えれば禁忌肢とわかってもおかしくない.
なのにこれだけ多くの受験者が,これだけたくさんの禁忌肢採点問題を踏んだというのは,やはり国試の試験中に突発的にきたすという噂の「国試せん妄」のせいと言わざるを得ません.
国家試験の本番というものの恐さをつくづく思い知ることになった第116回医師国家試験禁忌肢だった,といえそうです.
国試過去問演習には,豊富な解説で類問にも応用が効く『第116回医師国家試験問題解説』,『クエスチョン・バンク 医師国家試験問題解説』,「QBオンライン医師国試」,
本番さながらの医師国家試験模擬試験には「メディックメディア医師国試模試」もぜひご利用ください!
(最後にもう一度ダイレクトマーケティング 編集Y)