新ワード紹介(11)抗合成酵素症候群【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は抗合成酵素症候群についてご紹介いたします.
目次
出題基準のどこに追加されたの?
医学各論>Ⅺ アレルギー性疾患,膠原病,免疫病>2 膠原病と類縁疾患 に追加されました.
抗合成酵素症候群とは?
抗合成酵素抗体は,抗ARS(aminoacyl-tRNA synthetase)抗体ともいい,アミノアシルtRNA合成酵素に対する自己抗体で,多発性筋炎/皮膚筋炎などの炎症性筋疾患の約3割に陽性となります.抗合成酵素抗体陽性例では筋炎,間質性肺炎,メカニクスハンド(機械工の手:手指の角化性皮疹),レイノー現象,発熱などの症状が共通しており,1992年にTargoff先生により抗合成酵素症候群と提唱されました.
アミノアシルtRNAの「t」はtransfer(転写)の略で,アミノアシルtRNAがアミノ酸を細胞質のリボゾームにあるメッセンジャーRNAに運び蛋白質が合成されます.アミノアシルtRNAは,例えばヒスチジンを運ぶヒスチジルtRNAなど20種類のアミノ酸それぞれにあります.アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)はアミノ酸をそれぞれに対応するtRNAに結合し,アミノアシルtRNAを合成します.
抗合成酵素抗体の中ではヒスチジルtRNA合成酵素に対する抗体である抗Jo-1抗体の頻度が高く,以前より検査をすることが可能でした.現在までに10種類のアミノアシルtRNA合成酵素に対する抗体が報告されていますが,うち6種類(抗Jo-1抗体,抗PL-7抗体,抗PL-12抗体,抗KS抗体,抗EJ抗体,抗OJ抗体)についての報告が多く,日本の保険診療では抗OJ抗体を除く5種類の抗体の有無を“抗ARS抗体“として一括して測定することができます(ただし個々の抗体の結果は分かりません).抗合成酵素抗体は炎症性筋疾患の一部に陽性となりますが,この抗体が病気を引きおこしているかは不明で,現時点では疾患の標識抗体としての意義があります.
抗合成酵素抗体陽性例では,筋炎(クレアチンキナーゼ(CK)など筋原性酵素が上昇します),間質性肺炎をはじめとした共通した特徴がありますが,抗体により特徴に差があることが知られています.例えば,抗Jo-1抗体,抗PL-7抗体,抗EJ抗体は間質性肺炎よりも筋炎との関連が強い一方で,抗PL-12抗体,抗KS抗体,抗OJ抗体は筋炎よりも間質性肺炎との関連が強いなど,臨床症状に違いがみられます.
抗合成酵素症候群の病理学的特徴は,筋の周辺部分に壊死・再生の所見がみられることです.免疫組織学的な検討から通常の皮膚筋炎で発現がみられるMxA蛋白質(ミクソウイルス抵抗性蛋白質A)が抗合成酵素症候群ではみられず,病態が異なることが示唆されています. 抗合成酵素症候群の治療は,筋炎や間質性肺炎をターゲットとして,副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)大量療法,タクロリムスなどの免疫抑制療法,免疫グロブリン大量静注療法などが行われます.治療の反応性は通常は良好ですが,経過中に再発することも少なくありません.間質性肺炎は緩徐進行性のことが多く,抗合成酵素症候群の生命予後の大部分は間質性肺炎によります.
出題基準に追加された背景は?
1975年にBohan先生とPeter先生により多発性筋炎/皮膚筋炎の診断基準が発表されましたが,近年では筋炎の多くは筋炎に特異的な自己抗体,例えば,抗MDA-5抗体,抗TIF1-γ抗体,そして抗合成酵素抗体などが陽性となること,そして陽性となる自己抗体により臨床症状や予後に特徴があることが分かってきました.炎症性筋疾患の病態解明と治療方法の進歩により抗合成酵素症候群という新しい概念ができ,抗合成酵素抗体を保険診療で測定できるようになったことが出題基準に追加された背景にあると思われます.
過去問での出題状況は?
新出題基準の発表があって最初の国試である118回国試では,118F55の選択肢で抗Jo-1抗体が登場しています.
また,それ以前の国試でも,近年では115回の115D58で抗ARS抗体陽性例が出題されています.
その他,116回の116D42,114回の114F7,112回の112A75, 112D45などの選択肢でも抗ARS抗体や抗Jo-1抗体が登場しています.
確認問題を解いてみよう!
Q.抗合成酵素症候群の予後を規定するのはどれか.
a 筋炎
b 皮疹
c 病理所見
d 間質性肺炎
e レイノー現象
A.答えは記事の最下部にあります!
いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※執筆:佐藤 健夫(自治医科大学 地域臨床教育センター 兼 内科学講座 アレルギー膠原病学部門 教授)
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