イヤーノート2025 内科・外科編
新ワード紹介(22)毛細血管拡張症〈angioectasia〉【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は毛細血管拡張症についてご紹介いたします.
目次
出題基準のどこに追加されたの?
各論Ⅵ5E②に追加されました.
毛細血管拡張症とは?
毛細血管拡張症は、世界消化器内視鏡学会の用語ではangioectasia(血管拡張)として、ICD-10の中ではangiodysplasia(血管異形成)として記載されています。粘膜固有層や粘膜下層の毛細血管が拡張した血管性病変で、数mm~1cm程度の大きさです。
毛細血管拡張症では単一臓器内に複数の病変を認めることがありますが、あくまで一つひとつは孤立した病変として観察されます。これは、後述の胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の特徴である「密集して線状に連続する病変」とは異なる点です。
また、多発することもあり、特にOsler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症、Osler病)ではかなりの数の病変がみられることがあります。
痛みは伴わず、また、吐血などの大出血をきたすことは少なく、内視鏡検査で偶発的に見つかったり、貧血精査で慢性的な貧血の原因として見つかったりすることが多いです。
背景疾患として慢性腎不全や肝硬変が挙げられます。
また、稀な疾患ではありますが、先述のOsler病を背景疾患とする場合もあります。これは常染色体顕性遺伝疾患で、消化管全体を始めとする全身各部で多発する血管病変を認めます。毛細血管拡張 の多発・再発により、管理に難渋することもしばしば。他の部位の出血を他科とも力をあわせて管理しなければいけなくなることもあります。多発する毛細血管拡張症をみた場合には、Osler病の部分症を疑い、鼻出血や家族歴に関して聴取することが大切です。
毛細血管拡張症は、黒色便や血便として認識されないほどのごく少量の出血を慢性的に繰り返すことで、貧血の原因となりえます。
貧血精査の中で毛細血管拡張症が見つかり、かつ他に貧血を説明できる疾患がない場合には、毛細血管拡張症が貧血の原因となる出血源と考え、アルゴンプラズマ凝固(APC)などによる焼灼止血の処置が適応となることがあります。
一方で、検診などで偶発的に見つかったものについては、貧血がなければ、ほとんどが経過観察となります。
出題基準に追加された背景は?
過去の記事に「胃前庭部毛細血管拡張症〈GAVE〉」について解説がありました。今回、国家試験の出題基準に新たに加わったのは「胃前庭部」が取れた「毛細血管拡張症」です。
GAVEはwatermelon stomachとも呼ばれ、胃に沿って直線状に、スイカの縞模様のように血管拡張が多発しているものです。
毛細血管拡張症は前庭部に限って生じるわけではなく、胃の前庭部以外の部位に発生することもあり、また、小腸や大腸など、全消化管に生じえます。
検査の実施頻度の違いもあってか、以前は胃や大腸で目にすることが多かったです。しかし近年、小腸カプセル内視鏡や小腸バルーン内視鏡の普及により、小腸の検索が発達してきました。そのため、以前よりも小腸出血の原因検索が容易となり、現在では毛細血管拡張症が小腸出血の主要な原因の一つであることが分かってきています。
過去問での出題状況は?
新出題基準が適用された118回を含め,消化管の毛細血管拡張症が主テーマの問題は,これまで国試で出題されていません.
治療法であるアルゴンプラズマ凝固が109G28や116F73の誤答肢として登場したのみであり,過去問演習だけでは十分な対策ができない疾患です.
確認問題を解いてみよう!
Q.消化管内視鏡写真を次に示す。認めているのはどれか。
a 潰瘍
b 憩室
c 静脈瘤
d 早期癌
e 毛細血管拡張
A.答えは記事の最下部にあります!
いかがでしたか?次回の連載もお楽しみに!
※執筆:日本消化器病学会認定 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 内視鏡専門医
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