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新ワード紹介(23)アデレード宣言【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回はアデレード宣言についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学総論Ⅱ-6「地域保健,地域医療」に追加されました.

アデレード宣言とは?

2010年,オーストラリアのアデレードで開催された世界保健機関(WHO)の国際会議で,健康の社会的決定要因(social determinants of health;SDH)への対策として,「すべての政策で健康を考慮する(Health in All Policies;HiAP)」ことで,社会・経済・環境面の発展や協調した行政の実現を目指すアデレード宣言(声明)が発出されました.

宣言の原文の表題は”Adelaide statement on health in all policies: moving towards a shared governance for health and well-being”であり,この中にHiAPの語自体が入っています.

アデレード宣言には,それまでに出ている各種宣言・憲章―プライマリヘルスケアに関するアルマ・アタ宣言(1978年),ヘルスプロモーションのためのオタワ憲章(1986年),そして保健政策についてのアデレード勧告(1988年;同じアデレードで,内容も政策に健康への考慮を勧めるなど類似していますが,こちらはrecommendations)など―の内容が活かされています.

さらに,アデレード宣言の内容が2015年に国連で採択された持続的な開発目標(SDGs)の策定にも活用されるなど,これらの国際的な宣言・憲章は連関しています.

なお,SDHを探るために健康影響予測評価(health impact assessment;HIA)が用いられます.

HIAのプロセスとして具体的には,まず実施決定後にHIA実施プランを作成(仕様決定)し,健康影響に関する事前評価を行って推奨意見をとりまとめて報告,そして事後評価によって提案の変更などの確認やHIA実施過程自体の評価が行われます.

出題基準に追加された背景は?

アデレード宣言の根本にあるのは,医療から政治・行政を含むすべての社会活動が人々の健康につながっているとの考え方です.

健康であるためには,個人だけでなく社会・経済から文化に至るまで様々な要因が良好でなければなりませんし,これら一つ一つが健康の社会的決定要因(SDH)でもあります.

政治や行政の側で,従来の古典的な保健部門の管轄外であってもHiAPを政策展開の主要要素として取り込むことで,結果的に人々の健康につながることが知られるようになりました.

医師として知っておきたい公衆衛生の基本的姿勢に関する考え方がうたわれていることから,アデレード宣言が今回から出題基準に追加されたのでしょう.

過去問での出題状況は?

直近の117回国試において,誤答選択肢として出題されています.

【117C6】
プライマリヘルスケアについて述べられているのはどれか.
a オタワ憲章
b アデレード宣言
c ジュネーブ宣言
d ヘルシンキ宣言
e アルマ・アタ宣言

正解はeです.
プライマリヘルスケアとヘルスプロモーションに関わる各種宣言・憲章(アルマ・アタ宣言,オタワ憲章,バンコク憲章,アデレード宣言)の内容と流れを整理しておきましょう.

確認問題を解いてみよう!

Q.アデレード宣言について正しいのはどれか.

a 1986年にカナダで策定された.
b 一人一人の個別の健康が重視されている.
c 行政の保健部門が集中的に健康問題に対処する.
d 健康の社会的決定要因への対策は含まれない.
e 理念は持続的な開発目標に採り入れられている.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※執筆:浅山 敬(帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学講座 教授)

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確認問題の答え:e

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