新ワード紹介(25)mRNAワクチン【令和6年版 医師国家試験出題基準】
令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回はmRNAワクチンについてご紹介いたします.
目次
出題基準のどこに追加されたの?
医学各論Ⅱ-8「感染症対策」に追加されました.
mRNAワクチンとは?
ワクチンの一種として,mRNAを人工的に設計し,ウイルスなどの組織を構成するタンパク質の一部を体内の細胞で生成させることで,生成タンパク質への抗体が作られ,実際のウイルスが侵入した時に排除効果を発揮する―原理は単純ですが,単純に合成したmRNAは炎症反応を惹起するためタンパク質を生成する前に排除されてしまうなど,開発は難航しました.
2010年代から一部の疾病や悪性腫瘍に対する臨床試験が進められていたものの,なかなかデビューに至らずにいた中で,COVID-19のパンデミックに伴って初めて本格的な臨床応用に至ったのがmRNAワクチンです.
開発の過程では,RNA自体が一本鎖で不安定な上,通常はmRNA自体が侵入者として排除されることが大きな問題となっていましたが,前者についてはmRNAを脂質ナノ粒子(lipid nano particle;LNP)に封入することで安定化させ,後者についてはmRNAのウリジンをシュードウリジンなどに置き換える(修飾ウリジンRNA)ことで,炎症反応を抑制するとともにタンパク質生成の効率も向上させることに成功しました.
2023年現在,わが国で用いられているCOVID-19ワクチンはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を生成するmRNAで構成されています.
体内で発現したスパイクタンパク質は免疫細胞によって外来抗原として認識され,これに対して中和抗体の産生ならびに細胞性免疫応答の誘導が図られ,免疫効果を獲得することができます.
従来,ワクチンは大きく弱毒化生ワクチンと不活化ワクチンに分類されていました(トキソイドなどを不活化ワクチンに含めた場合).
しかし近年,ウイルスベクターワクチン,そしてmRNAワクチンなどの核酸ワクチンが実用化されてきています.
核酸ワクチンは抗原タンパク質を投与するのではなく,設計図を投与することで抗原タンパク質を細胞内で産生させるワクチンであり,液性免疫だけでなく生ワクチンと同様に細胞性免疫の高い誘導効果も認められます.
理論的には新しい機序に基づいた安全で効果の高いワクチンといえますが,現在供用されているCOVID-19ワクチンでは投与後の発熱や疼痛などの一過性の副反応が不活化ワクチンより高頻度に認められており,今後の開発・改良では副反応の低減も課題の一つとなっています.
出題基準に追加された背景は?
mRNAワクチンを知らない医学生はいないでしょう.
2023年のノーベル生理学・医学賞は,mRNAワクチンの開発に貢献した2人の研究者が受賞しました.
新しい感染症に対する速やかなワクチン製造に役立つだけでなく,mRNA医薬品として,様々なタンパク質をターゲットにすることによる悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療,さらに遺伝性疾患の治療や再生医療などへの展開が期待され,実際に研究が進んでいます.
医師国家試験で基礎医学の内容が出題されることはあまりありませんが,mRNA(ワクチン)についてはここ2~3年で一気に市民権を得たので,少し掘り下げて理解しておくとよいでしょう.
過去問での出題状況は?
誤答選択肢を含め,過去に出題されたことはありません.
確認問題を解いてみよう!
Q.mRNAワクチンについて正しいのはどれか.
a 常温で長期間保存できる.
b 細胞性免疫の誘導効果が認められる.
c 不活化ワクチンに比べて副反応が起こりにくい.
d 体内に侵入したRNAウイルスのRNAを書き変えることで効果を発揮する.
e mRNAワクチン接種後,他のワクチン接種までに27日以上の間隔をおかなければならない.
A.答えは記事の最下部にあります!
いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!
※執筆:浅山 敬(帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学講座 教授)
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確認問題の答え:b