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新ワード紹介(26)患者・市民参画【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は患者・市民参画についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

必修の基本的事項1「医師のプロフェッショナリズム」に追加されました.

患者・市民参画とは?

Patient and Public Involvement(PPI;患者・市民参画)は,イギリスで最初に採り入れられた考え方です.

原語のpublicはpublic healthが公衆衛生と訳されるように,大衆,公共,国家や共同体の構成員全体,といった意味合いをもちます.

また,患者には元患者(サバイバー)や未来の患者も想定されています.

一般社団法人PPI JAPANは,患者・市民参画を「患者やその家族,市民の方々の経験や知見・想いを積極的に将来の治療やケアの研究開発,医療の運営などのために活かしていこうとする取り組み」と定義しています.

患者・市民参画は,医学研究や臨床試験などの研究分野に限らず,幅広い医療政策の各領域で患者・市民が意思決定に関与するもので,3段階から構成されます.

まず,第1段階は Participation(参加)で,名前が入っていることや,傍聴したり,被験者・被検者になったりすることです.

続いて,医療者が患者・市民の意見を聞き,研究あるいは医療政策に反映させるEngagement(エンゲージメント)の段階があります.

研究などが終了した後,結果や知識・情報を社会と共有する取組も含まれます.

さらに進むとInvolvement(参画)と呼ばれ,研究の計画段階からデザインや管理,評価,普及に至るまで,パートナーとして関与することになります.

なお,北米ではEngagementにInvolvementを含めるとする捉え方もあります.

患者・市民参画の推進は,がん対策推進基本計画(2006年に成立した『がん対策基本法』に伴い策定,定期更新されている計画で,2023年より第4期に入っている)で,がんの予防・医療ならびにがんとの共生を支える基盤の一つに挙げられています.

取り組むべき施策として,「諸外国の事例も踏まえた,患者・市民参画の更なる推進のための仕組みの検討」,そして「参画する患者・市民の啓発・育成,医療従事者や関係学会に対する啓発等の実施」があります.

がん対策推進基本計画と対比される循環器病対策推進基本計画(2023年より第2期)でも,患者・市民参画の語は直接出ていないものの,患者等の政策への参画が掲げられており,国が策定する医療関連の各種計画で患者・市民参画が採り入れられつつあります

患者・市民参画は,道筋だけをつけてほったらかしというわけにはいかず,患者が参画しやすい体制整備,すなわち「場」を用意することと,参画する力をつけるための研修体制の整備が求められます.

具体的には,患者・市民参画の実施計画を立てて実施担当者を選任し,開始から相互関係の構築,共同学習,再評価・フィードバックの過程に携わること,また患者団体・患者支援団体あるいは学術団体が研修・教育プログラムを積極的に提供し,患者・市民と研究者・医療側との円滑なコミュニケーションのための「PPIコーディネーター」を育成することなどが挙げられます.

出題基準に追加された背景は?

患者・市民参画はまだ認知度が低く,一般的にはほとんど知られていないのが現状です.

しかし,上述のように国レベルで患者・市民参画が推進されつつあります.

研究面でも,イギリスで発行されている英文学術誌の中には,研究成果を論文投稿する際に研究と関連する患者・市民参画の状況について開示するよう著者に求めるものが出てきています.

患者・市民参画の理解と普及が急がれる中,医師の側にも正しい理解が求められるのは言うまでもなく,国試でもこれから頻繁に登場すると予想されます.

過去問での出題状況は?

誤答選択肢を含め,過去に出題されたことはありません.

確認問題を解いてみよう!

Q.患者・市民参画について正しいのはどれか.

a 活動は実地臨床に限定される.
b がん対策推進基本計画で重視されている.
c 第1段階では患者・市民の意見が医療に反映される.
d 医療者側が実施方法を示すことでPPIは自動的に進む.
e 一般の認知度に比べて国レベルの取り組みは遅れている.

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※執筆:浅山 敬(帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学講座 教授)

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確認問題の答え:b

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