クエスチョン・バンク医師国家試験問題解説
こんにちは,メディックメディア編集部のWです.
第120回医師国家試験を受験された皆様,大変お疲れ様でした.これから医師国家試験を受験する医学生の方々,頑張っていきましょう.
さて,2026年2月に実施された第120回医師国家試験も,9,300名を上回る講師速報入力者の皆様および1,000名以上の成績通知書の情報提供者様の多大なるご協力のおかげをもちまして,「禁忌肢採点問題」の分析が無事に完了しました.
皆様に厚く御礼申し上げるとともに,こちらの記事にて第120回医師国家試験「禁忌肢採点問題」の分析結果を公開いたします.
※以下の情報は弊社採点サービス「講師速報」参加者に行ったアンケート等をもとにした分析となっております.実際の国家試験の情報とは異なる可能性があることをご留意ください.
「禁忌肢」とは,医師国家試験や歯科医師国家試験,薬剤師国家試験に存在する,
「一定数以上選択した場合,どれだけ点数が取れていようが無条件に不合格になる選択肢」
のことです.
医師国家試験改善検討部会報告書によれば,禁忌肢問題として出題されるのは,「患者の死亡や不可逆的な臓器の機能廃絶に直結する事項」とされています.
なお,問題の正答率や,禁忌を施行した場合の悪影響の軽重については禁忌肢には考慮されません.そして,必修・総論・各論のいずれからも禁忌肢は出題されるようです.
公式には禁忌肢は明かされていませんが,弊社の調査では例年全400問の試験問題のうち約10問ほどが禁忌肢問題として特定できています.
ただし,こちらの調査は約1,000名の成績通知書の情報提供者と講師速報の入力情報をもとに分析しているため,1,000名の誰も選んでいない禁忌肢は特定できていない点にご留意ください
禁忌肢を4問以上選択した場合は不合格となる採点基準*が設定されており,禁忌肢導入から長らくはこの基準による不合格者は確認されませんでしたが,第112回医師国家試験において多数の禁忌肢選択者・禁忌落ちの受験者が生じたことで,大きな注目を集めるようになりました.(*第117回では例外的に,3問以上選択した場合に不合格という,厳しい基準となっていましたが,第118回以降は4問以上の場合に不合格という基準に戻っています)
近年では,弊社調査では禁忌落ちの受験生は確認できていないものの,依然として「禁忌肢」のチェックは医師国家試験の対策において高い関心を集めるトピックとなっています.
編集部で確認できた120回の禁忌情報
・特定できた禁忌肢数 10
・禁忌の分布(必修,総論,各論)
今年度はどの章でも禁忌肢が特定でき,禁忌肢問題は各論・総論に集まっていました.
また,禁忌落ちの受験生は確認されませんでした(編集部で特定できた禁忌肢のみで採点した場合).
▼受験生の禁忌肢選択数の分布
例年との比較
特定できた禁忌肢数は10問と,例年の傾向と大きな変化はありませんでした.
▼禁忌を一つでも踏んだ人,禁忌落ちした人の推移
第117回では,禁忌落ちが8名と多かったのに対し,第118回以降は0名となっています.第117回で禁忌落ちが多かったことについては,禁忌肢選択3問以上で不合格とするという,厳しい採点基準による影響が大きいと考えられます.
ここからは,編集部で特定できた禁忌肢を含む問題を1問ずつみていきましょう.
第1位は各論(循環器)からの出題です.
心房細動(AF)への対応を問う問題で,禁忌肢選択率は5.3%でした.
心電図と病歴から「頻脈性心房細動」の診断に至ることは容易な問題だったと思います.心房細動のレートコントロールでは,β遮断薬,Ca拮抗薬,ジギタリスの3点が使用される,という知識に加えて「β遮断薬が使用されることが多く,ジギタリスは心機能量低下例でβ遮断薬単独で効果不十分の場合に追加される」という初期治療までおさえておく必要がある問題であり,難問でした.(正答率は38.4%)
そして,禁忌肢は「e. 直ちにカルディオバージョン」です.
心房細動の治療において,最も注意すべきは「心原性脳塞栓症」の予防です.本症例は「3日前から動悸が持続」しており,発症から48時間を経過しています.
発症から48時間以上経過した心房細動では,心房内に血栓が形成されている可能性が極めて高くなります.この状態で十分な抗凝固療法を行わずにカルディオバージョンを施行し,強制的に正常洞調律へ戻してしまうと,心房の収縮再開に伴って血栓が飛散し,重篤な脳梗塞を引き起こす危険があります.
これらの選択肢は状況によっては心房細動に対して行う治療であり,症例を吟味したうえで適切な対応を選択する,という問題であり,難問といえるでしょう.発展的ではありますが適切な心房細動に対する対応を学ぶことができる,とても勉強になる問題でした.
第2位は各論(小児科)からの出題です.
原停留精巣への対応についての出題で,禁忌肢選択率は1.7%でした.
1歳3ヵ月の男児の右停留精巣に対しての対応の説明を問う問題で,正答は「b. 精巣を陰囊内に降ろす手術を予定します」でした.
自然下降しなかった停留精巣に対して精巣固定術を行うという知識は受験生にとっては容易な問題であったと思われます(正答率:96%).
禁忌肢は「d. 右精巣は機能しませんので摘出しましょう」で,1.7%の学生が選択してしまっていました.本問は「不要な臓器摘出」という侵襲的で,不可逆的な対応であり,禁忌肢の王道とも言えるパターンです.
右外鼠径輪付近~腫瘤を触知する.という記載から摘出すべき腫瘤を想起してd.を選択してしまった…などが考えられるでしょうか.侵襲的でかつ不可逆的な治療・対応の選択肢は禁忌肢である可能性も考慮して症例文に立ち返るなどの見直しをするとよいかもしれません.
第3位は総論からの出題です.
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の退院後治療についての出題で,禁忌肢選択率は1.7%でした.
COPDの安定期治療(維持療法)として適切な薬剤を選ぶ問題で正答は「c. 長時間作用型β2刺激薬の吸入」でした.
そして今回の禁忌肢は「a. 抗コリン薬の内服」です.
抗コリン薬(吸入)自体はCOPDの標準治療薬ですが,本問には見落としてはならない重要な既往歴が記載されていました.既往歴に「2年前に閉塞隅角緑内障と診断」との記載があります.抗コリン薬には散瞳作用があるため,閉塞隅角緑内障の患者に使用すると隅角がさらに狭まり,房水の流出が阻害されます.その結果,急激な眼圧上昇を招く「急性緑内障発作」を引き起こす危険があり,禁忌とされています.
本問題はFブロックの3連問,国家試験の最終日の最終ブロックで長文の連問の中にある「閉塞隅角緑内障」の既往歴をしっかり読み飛ばさずに禁忌肢として抗コリン薬を除外する,ということが必要な問題でした.2日目の国試の午後は集中力も落ちて症例文を読み飛ばしがちかもしれません,そのなかでも最後のブロックまで見直しをして「既往に緑内障や喘息を見つけたら,選択肢に禁忌が潜んでいるはずだ」という警戒心を持つことの重要性を感じる問題でした.
第4位は各論(産婦人科)からの出題です.
卵巣腫瘍の茎捻転に対する術式についての出題で,禁忌肢選択率は1.2%でした.
左卵巣腫瘍の茎捻転を疑い,「c. 卵巣腫瘍摘出術」が正答となる問題でした.
禁忌肢は「e. 両側付属器摘出術」でした.21歳の患者に対し,正常と思われる右側の付属器(卵巣・卵管)まで含めてすべて摘出してしまうことは,将来の妊孕性(妊娠する能力)を奪う不可逆的な行為であり禁忌肢として判定されました.
また,選択肢「a. 卵管切除術」も不要な摘出であるため不適切であり,禁忌肢判定されうる選択肢ではありましたが,こちらは禁忌肢としては採点されていなかったようです.
いずれも禁忌肢となりうるものでしたが,この判定結果を見ると,「患者の人生に与えるダメージの大きさ」が,禁忌肢選定の重要な境界線になっていることが伺えます.
ここからは今回の調査で禁忌肢選択問題であるとほぼ判明しているもののうち,選択率が1%未満であった問題について,概要と禁忌選択肢をまとめてご紹介します.
| 順位 | 問題番号 | 禁忌肢 | 禁忌肢の概要 | 禁忌肢選択率 |
| 第5位 | 120A54 | b | 高度血小板減少とDICを伴う急性前骨髄球性白血病(APL)に対し,自宅安静を指示 | 0.8% |
| 第6位 | 120D53 | a | 胃内腫瘤により経口摂取困難をきたした低栄養患者に対し,経口摂取を続ける | 0.4% |
| 第7位 | 120C38 | e | 妊娠前相談の指導で 「妊娠したらアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬に変更しましょう」と説明する | 0.3% |
| 第8位 | 120E26 | d | 緊張性気胸に対し用手的陽圧換気を行う | 0.1% |
| 第9位 | 120F15 | a | 食道静脈瘤に対して生検を行う | 0.1% |
| 第10位 | 120F38 | e | 小学校給食中のアナフィラキシーショックに対して,学校から搬入予定の病院まで車で30分かかるなかでアドレナリン注射の実施者を搬入先の医師と指示する | 0.1% |
以上,第120回医師国家試験の禁忌肢採点問題について,分析結果を発表いたしました.
今回の結果を振り返ると,第1位の心房細動(D52)のように「疾患の知識だけでは不十分で,発症からの時間経過や病態を正確に読み解かなければならない」という,実戦的かつ難易度の高い禁忌肢もみられました.
また,第3位の緑内障への抗コリン薬(F62)のように,試験終盤の疲労の中で「うっかり既往歴を読み飛ばしてしまう」ような問題も健在です.禁忌肢を回避するためには,「症例全体を俯瞰する力」と,最後まで途切れない「丁寧な読解力」が求められているようです.
QBオンラインでの問題演習で【don’t】の禁忌マークの選択肢に出会ったら,以下のポイントを意識して復習してみてください.
禁忌肢は,皆さんが将来,臨床の現場で「あ、これ危ないかも」と立ち止まるためのブレーキのようなものともいえます.正解を選ぶ力と同じくらい,目の前の患者さんの背景に立ち返り,最適な一歩を慎重に選ぶ感性を磨いていきましょう.
メディックメディア編集部は,これからも受験生の皆様を全力で応援しています.一緒に頑張っていきましょう!