[5・6年生向け]ガイドラインからみる107回国試
最終回:ガイドラインで出題予告?!備考欄まで要チェック!
編集Aです.
107回国家試験と,平成25年医師国家試験出題基準(ガイドライン)について
お送りしているシリーズ,今日が最終回です.
*第1回「ズバリ出題された『新ワード』はこれ!(その1)」
*第2回「ズバリ出題された『新ワード』はこれ!(その2)」
*第3回「多様化する“治療”を追え!(その1)」
*第4回「多様化する“治療”を追え!(その2)」
*第5回「必修で問われるようになった概念はこれ!」
今日は,さらに細かいところまで,ガイドラインを見てみましょう.
今回の試験で,おもしろいことがわかりました.
ガイドラインで改訂された部分が,107回国試の予告かのような部分があったのです!
◆一見,定番の「合併症妊娠」に関する問題だが…◆
国試初日の1問目.落ち着いて解きたいところです.
合併症妊娠と産科異常に関する問題でした.
107A1
合併症妊娠と起こりやすい異常の組合せで正しいのはどれか.
a 糖尿病・・・・・・頸管無力症
b 慢性腎炎・・・・・・前置胎盤
c 気管支喘息・・・・・・双胎間輸血症候群
d 甲状腺機能亢進症・・・・・・巨大児
e 全身性エリテマトーデス〈SLE〉・・・・・・流産
正解:e(正答率:96.5%)
とりわけ新傾向というわけではありませんよね.
基本知識を問う問題であり,正答率も高いです.
ですが,実は合併症妊娠と産科異常の組合せを問う問題は,
過去に二度しか出題されていません(87B5,89B3).
しかも,18年前に出題されたのが最後でした.それがこちら.
89B3
偶発合併症妊娠について適切な組合せはどれか.3つ選べ.
a 抗リン脂質抗体症候群 ― 習慣流産
b 血小板減少性紫斑病 ― 新生児頭蓋内出血
c 甲状腺機能低下症 ― 新生児一過性甲状腺機能亢進症
d 妊娠糖尿病 ― 新生児高血糖
e 重症筋無力症 ― 新生児一過性筋力低下
正解:a,b,e
『クエスチョン・バンク』には一周目問題として掲載しているため
ほとんどの受験生が対策をとっていたと思いますが,
出題がご無沙汰だったため,油断していた人もいたかもしれません.
ここで,ガイドラインを見てみましょう.
新ガイドラインで,実はこの『合併症妊娠』に関する部分が
丁寧に見直され,整理されていたんです.
新旧のガイドラインを比較します.
まず,旧版(平成21年版)の「妊娠の異常」に関する部分がこちら.
(画像クリックで拡大)
これが,新ガイドラインでは,このようになっています.
(画像クリックで拡大)
合併症妊娠について,きれいに整理されていますよね.
それに加えて,「鉄欠乏性貧血」「糖尿病」「甲状腺機能亢進症」などの関連疾患が
具体的に明記されています.
特に目新しい概念が入ったわけではありませんが,
今回の107A1の問題が,この部分から出題されたことは明白です.
このように,新ガイドラインは
構成が見やすく整理されたゆえに,
出題内容を想像しやすくなっています.
膨大な医学知識を系統立てて理解するのにも,
ガイドラインは一役買うかもしれません.
余裕のあるうちに,ぜひ一度目を通しておくことをおすすめします!
◆備考欄も一見の価値あり!わざわざ追加された「GPIアンカー蛋白」が登場◆
続いては,この問題.
107D17
発作性夜間ヘモグロビン尿症について正しいのはどれか.2つ選べ.
a Ham試験は陰性である.
b 直接Coombs試験は陽性である.
c GPIアンカーの異常がみられる.
d 血清ハプトグロビン値が低下する.
e 遠心分離後の尿の上清は黄色透明である.
正解:c,d(正答率:91.2%)
GPIアンカー自体は勉強していた人も多かったと思いますが,
この言葉が国試ではっきり登場したのは,今回が初めてでした.
実はこのGPIアンカーに関する出題,ガイドライン上で予告されていたと言っても
過言ではありません.
新ガイドラインの改訂時に,『発作性夜間ヘモグロビン尿症』の備考欄に,
わざわざ追加されていたんです.
(画像クリックで拡大)
このように,ガイドラインの備考欄に注目しておくと,
効率よく国試対策ができるかもしれません.
◆備考欄から掘り下げていく◆
この問題をご覧ください.
107A26
1歳5ヵ月の男児.発熱と鼻水とを主訴に母親に伴われて来院した.昨夜夜泣きをしてなかなか寝付かなかったという.食欲はある.体温38.2℃.呼吸音に異常を認めない.鼻汁が鼻内に充満している.咽頭所見で軽度の発赤と後鼻漏とを認める.右鼓膜の写真を下に示す.
(画像クリックで拡大)
まず行うべき処置はどれか.
a 耳管通気
b 乳突洞削開術
c 抗菌薬の経口投与
d 鼓室換気チューブ留置術
e 副腎皮質ステロイドの経口投与
正解:c(正答率:61.3%)
急性中耳炎の治療を問う問題で,抗菌薬の経口投与が正解でした.
ここであえて注目してみたいのは,選択肢bの『乳突洞削開術』です.
乳突洞削開術は,真珠腫性中耳炎(中耳真珠腫)や
慢性穿孔性(化膿性)中耳炎の難治例(中耳炎が重症化して乳突洞炎を来した場合)
に対して行われる手術です.
中耳炎の手術として有名ですが,以前は慢性中耳炎に対しても適用されていたのが
最近では鼓室形成術が治療の中心となり,
乳突洞削開術の実施件数は決して多くはないようです.
そんな『乳突洞削開術』が,
新ガイドラインの「真珠腫性中耳炎」の備考欄に
わざわざ追記されています.
(画像クリックで拡大)
これは,乳突洞削開術の 2つ上の「慢性穿孔性中耳炎」の備考欄に書かれている
『鼓室形成術』と合わせて考えるべきでしょう.
真珠腫性中耳炎の第一選択も鼓室形成術ですが
真珠腫が乳頭蜂巣まで侵入しているので,
完全に治療するためには乳突洞削開術を併用する必要があります.
逆に言うと,乳突洞削開術を行うのは,
上の表の7つの疾患の中では「真珠腫性中耳炎」ですよ,
という意味で,備考欄に書いてくれているのかもしれません
(深読みしすぎかもしれませんが…笑)
真珠腫性中耳炎の手術については,
過去に一度,81回国試(81C55)で
「中耳根治術」が答えになる問題が出題されていますが,
最近では聴力の改善が治療の最大の目標なので,
中耳根治術を行うことはほとんどありません.注意してください.
このように,
ガイドラインの備考欄に書かれている一つの単語からだけでも
いろいろ勉強することができますね.
ガイドラインには,作成委員である専門の先生たちからのメッセージが
暗につまっている部分もあると思います.
◆◆◆
いかがでしたか.
ガイドラインは出題基準ですから,
出題を予告していることは,ある意味当たり前ではありますが,
よくよくガイドラインを見ておくと,
国試で出題されそうなことを予想できるかもしれません.
前述のとおり,平成25年版のガイドラインは整理されて
とても読みやすくなっていますので,
これを機に,ぜひ一度目を通してみてください.
厚生労働省のサイトで公開されています.
http://www.mhlw.go.jp/topics/2012/05/tp0510-01.html
全6回お送りしてきた
『ガイドラインからみる107回国試』シリーズはここまでです.
最後まで読んでいただき,ありがとうございました.
今後も皆さんの国試対策を応援しています!
(編集部A)