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働き方はその人しだい
国境なき医師団(以下MSF)は、世界最大の医療系のNGOである。
団体の詳細はホームページなどで確認していただくとして、実際の応募から派遣中の日常生活・仕事内容などについて述べてみることとする。
MSFは団体の名称からして、医師あるいは医療系(看護師・薬剤師・臨床心理士など)の人材のみを募集しているように感じる人もいるかもしれないが、実際にはそうではない。
会計や、物流、水・衛生、IEC(information, education, andcommunication)など非医療系の人材も広く採用している。
フランスが起源の団体なので、本部はパリにある。
パリのほか、ブリュッセル、ジュネーブ、バルセロナ、アムステルダムに事務所(operational centerと呼ばれる)があり、それぞれがさまざまな国でさまざまなプロジェクトを行っている。
私自身は、これまで産婦人科医としての活動しか行ったことがないが、希望・経験によっては、プロジェクト内でのリーダーとなるmedical team leaderや、首都でコーディネーション業務を行うmedical coordinator, あるいは日本やそのほかの国の事務所で働く道もある。
日本の事務所は東京の早稲田にある。
働き方はその人しだいで、実際にばりばり途上国で臨床をやりたいのか、むしろ、マネージメントに興味があるのか、MSFの活動に専念したいのか、日本で臨床医として働きつつ休職してMSFの活動に参加したいのか、などによって働き方は異なってくる。
各プロジェクトに派遣される場合、外科系(外科医、麻酔科医、産婦人科医、救急医など)の場合は1-2ヶ月からの比較的短期の派遣が可能であることが多いのに対して、内科系(内科医、小児科医)や看護職、非医療職の場合は3-12ヶ月以上の比較的長期になる場合が多い。
ただし、これも1回1回の契約により異なるので、必ずしもそうでない場合もある。
・ナイジェリアでの病棟会議
参加したいならまずは説明会へ
さて、実際に応募することを考えた場合、どのようなプロセスが待っているかについて記載したい。
まずは、東京をはじめとして日本の各地で年に数回行われている説明会に参加することが、最も手っ取り早い情報収集の場になる。
説明会にはすでに活動経験のある人間と、東京の事務所の採用担当の人間が出席するため、何かと最新情報を得ることができる。
質疑応答のための時間も十分にある。
私もよく派遣経験者として説明会に出席し、これまでのミッションでの経験を話す機会があるが、今後MSFへの参加を希望している人々と話をすることは非常に刺激になる。
自分と同じ職種の人が活動報告をする場が最も望ましいが(外科医なら外科医、麻酔科医なら麻酔科医など)、必ずしもそうでなくとも参考になることは多いと思うので、迷ったらまずは近いところに参加することをお勧めする。
やはり語学が重要
実際の応募に際して求められる能力は、医師の場合、
- 1.臨床能力
- 2.語学力(英語ないしフランス語)
- 3.途上国での団体生活および厳しい臨床の現場に耐えうる(楽しめる)能力
である。
専門医を取れるぐらいの臨床経験があれば、1についてはあまり問題にならないと思われるが、外科医に関しては、帝王切開やある程度の整形外科疾患への対応が求められるので、とりあえず履歴書を提出してみて足りない経験があった場合にはそれに応じて経験を増やすのがよいと思われる。
問題は2である。留学経験があったり、帰国子女など海外生活が長い場合には問題ないだろう。
医師の場合、受験勉強の遺産と、論文の執筆・読解などにより、読み書きは比較的問題なく行える場合が多い。
また、医学専門英語も自然と身につけていることが多いので、一旦手術室に入ってしまえばなんとか役割を果たすことが出来る。
筆者の経験では、初回の派遣において語学で最も苦労したのはミーティングのときと、食事のときの雑談であった。
これらを克服するには英会話能力そのものを上達させるしかない。
最近はオンラインのSkype英会話教室が比較的充実しており、これをお勧めする。
さまざまな会社があるが、多くはフィリピン人の講師を雇っている。
フィリピンでは看護師の養成が盛んに行われている一方、臨床現場においてそれを受け入れるだけのポジションが十分でないため、看護師の資格をもつ英会話の先生が少なからずいる。
うまく彼(彼女)らをみつけて英会話に励むと、医学英語も覚えられて一石二鳥である。
何事が起こっても、それを楽しむことが出来る心
3については人それぞれとしか言いようがないが、そもそもMSFに参加しようと思う人であれば、ある程度の柔軟性を持っていると思いたい。
困っている人々を助けたいという理想はもちろん必要であるが、必要十分ではない。
治安や文化・宗教的なさまざまな制約を受けることを覚悟する必要がある。
生活面においては、クーラーがなかったり、インターネットの接続が悪かったり、酒が飲めなかったり、料理が口に合わなかったり、虫が多かったりと挙げるときりがないがいろいろなことがある。
仕事の面では、病院の設備は当然日本のそれらとは比べるべくもなく、厳しい環境が待っている。
実際に亡くなる患者さんの数も比較的多い。
共に働く現地の医師や看護師は、ともすれば教育の機会に乏しく、思ったとおりに動いてくれないこともある(一方で驚くほど優秀な知識と技術をもつ医師や看護師に出会うことも多い)。
これらをストレスを感じながらも楽しんで過ごせるような、ある種の“鈍感力”が必要といえる。
私が研修医のころ、初めて参加したMSFの説明会で、先達の医師から聞いた印象的な言葉がある。
それは、ミッションに参加するのに最も重要なものは、“何事が起こっても、それを楽しむことが出来る心”であるという言葉だ。
数回の派遣を終えた現在、この言葉ほど的を得ているものはないと思う。
・南スーダンにて。病院の中庭で休憩中
~第4回へ続く~
※全10回を予定しています!続きもお楽しみに!
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