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新ワード紹介(8)血清シスタチンC【令和6年版 医師国家試験出題基準】

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学総論>Ⅷ 検査>2 生体機能検査>G 腎機能検査>①推算糸球体濾過量〈eGFR〉 に追加されました.

 

血清シスタチンCとは?

血液検査で腎機能を確認したいと思ったら,医学生の皆さんならどんな測定項目を想起するでしょうか.
クレアチニン(Cr),尿素窒素(BUN),推算糸球体濾過量(eGFR)…これまでの国試の問題であれば,それらの検査値が腎機能の指標として問題文に提示されていました.
令和6年の医師国家試験出題基準の改訂で,これらの項目に加え,腎機能を示す検査項目が新たに加わりました.それが「血清シスタチンC」です.
検査項目としての保険適応は2005年からで,臨床ではすでに頻用されている検査のため,講義や臨床実習で耳にした人も多いかもしれません.
また「シスタチンC」という単語自体は,これまで医師国家試験出題基準に記載されてはいませんでしたが,
国試の過去問では,115C69の正解選択肢,116D62の誤り選択肢として,すでに2回出題されています.

 

シスタチンCとは,体内のあらゆる細胞で産生されるタンパク質で,
糸球体で濾過された後は近位尿細管で100%再吸収され,そのままアミノ酸に分解されるため血中には戻りません.
つまりシスタチンCの血中濃度は,糸球体濾過量の目安となり,糸球体濾過量が低下すればシスタチンCの血中濃度が上昇する,という関係が成り立ちます.
これが腎機能検査としてシスタチンCを用いることができる理由です.
ではこのシスタチンCは,これまでのクレアチニン等の腎機能検査項目と何が違うのでしょうか?

 

クレアチニンの問題点とは?

クレアチニンは簡便に腎機能を評価できる優れた検査項目ですが,クレアチニンによる腎機能検査の欠点として,大きく2つの点が挙げられます.
まず一つは,クレアチニンの全身からの産生量は,その人の筋肉量の影響を大きく受ける(筋肉量が多ければクレアチニンの産生量が多く,筋肉量が少なければ産生量が少ない)ということです.
したがって筋肉量に差を生じる要因である,性別,年齢,栄養状態といったものに測定結果が左右され,
特に筋肉量の少ない女性や高齢者では,血清クレアチニン濃度が低くなり,
クレアチニンから算出した推算GFRが実際の腎機能よりも高くなってしまう(腎機能が実際よりも良好であるようにみえてしまう),
という問題点がありました.
もう一つ,クレアチニンは糸球体で濾過されるほか,尿細管でもその一部が分泌されるため,
糸球体濾過量の低下が軽度であれば,やはりクレアチニン濃度は低く測定され,
クレアチニンをもとにした推算GFRによる腎機能低下の検出が遅れる可能性がありました.

 

一方で,シスタチンCは上記のような筋肉量や尿細管での分泌といったものに影響を受けず,
糸球体濾過量の軽度な低下も,クレアチニンに比較して早期から検出しやすい,
女性や高齢者でも筋肉量に左右されず糸球体濾過量を正確にとらえやすい,
といったメリットがあります.

   

いつでもシスタチンC測定でOK?

しかしながら,このシスタチンCも万能ではなく,
甲状腺機能に影響される(甲状腺機能亢進症で高値を,甲状腺機能低下症で低値を示す),
薬剤の影響を受ける(特に副腎皮質ステロイド),

といわれています.
またクレアチニンと違い,保険診療の範囲内では3ヵ月に1回しか測定できない,という制限もあり,
クレアチニンを用いた推算GFRでは実際のGFRと解離している可能性が疑われるときなど,
シスタチンC測定が有効なタイミングをしっかりと把握して,検査を行う必要があります.
検査を実施すべき適切な症例や時期についても,下記の確認問題を参考に理解しておきましょう.
(国試で保険診療について問われることはあまりありませんが,初期研修等に出ればすぐに必要な知識になりますよ!)

 

確認問題を解いてみよう!

Q.63歳の男性.健康診断の精査のため来院した.先月の健康診断で血清クレアチニン値が前年よりも上昇しており,腎機能の悪化が疑われ精査を指示されて受診した.前年の健康診断の受診後からスポーツジムに通い始め,最近はだいぶん筋力がついた気がすると話している.
まず行うべき検査はどれか.
a レノグラム
b 腹部単純CT
c 血清シスタチンC測定
d イヌリンクリアランス測定
e 尿中β2-ミクログロブリン測定

こういうときこそ,正解は c 血清シスタチンC測定 です.
増加した可能性のある筋肉量の影響を受けず,推算GFRを評価することができます.
なお,2023年現在の日本で最も正確にGFRを測定できるのは,dのイヌリンクリアランス測定ですが,イヌリンを静脈内投与する必要があり,侵襲性があってかつ煩雑なため,抗がん剤投与量の決定など,より正確な糸球体濾過量の算出が必要な時に限定されることが多く,「まず」行う検査,とはいえません.

 


 

いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※監修:奥田英伸(守口敬仁会病院 腎臓内科 透析センター長)

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