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新ワード紹介(9)体軸性脊椎関節炎,強直性脊椎炎【令和6年版 医師国家試験出題基準】

令和6年版医師国家試験出題基準(118回国試より適用)から,新しくガイドラインに加わったキーワードを紹介していくこの企画.今回は体軸性脊椎関節炎,強直性脊椎炎についてご紹介いたします.

目次

出題基準のどこに追加されたの?

医学各論>Ⅺ アレルギー性疾患,膠原病,免疫病>2 膠原病と類縁疾患 に追加されました.

体軸性脊椎関節炎,強直性脊椎炎とは?

体軸とは,体の中心をなす脊椎(頸椎,胸椎,腰椎)から骨盤の仙骨と腸骨の間の仙腸関節までを意味します.体軸性脊椎関節炎は脊椎から仙腸関節までの付着部に炎症を生じ,痛みや動きの制限を生じる疾患群で,様々な疾患が含まれます.強直性脊椎炎はその代表で,次いで乾癬性関節炎が多く,その他,掌蹠膿疱症性骨関節症,反応性関節炎などでも起こることがあります.

体軸性脊椎関節炎の共通した特徴は,腱や靱帯が骨に結合する部位(付着部)の炎症,いわゆる付着部炎です.体軸性脊椎関節炎では脊椎や仙腸関節に付着部炎を起こしますが,手足の末梢関節にも付着部炎を起こすことがあります.よく知られているのはアキレス腱が踵骨に付く部分の付着部炎で,体軸性脊椎関節炎でしばしばみられます.

体軸性脊椎関節炎の代表的疾患である強直性脊椎炎は40歳未満に腰痛で発症し,安静により悪化し運動により軽快するのが特徴で,炎症性腰痛と呼ばれます.脊椎,仙腸関節の付着部炎が進行すると腱や靱帯に骨化を生じ脊椎の動きが制限され,最終的には可動性がなくなり強直します.進行例のX線像では竹のようにまっすぐな形になり,bamboo spineと表現されます.強直性脊椎炎は日本ではまれで,若年男性に多くHLA-B27と関連するとされてきましたが,最近では女性にもみられ,HLA-B27に関連しない例も少なからずあることが分かってきています.

強直性脊椎炎の原因は,HLA-B27と関連することから遺伝的な要因が大きく,その他,腸管細菌叢の異常やメカニカルストレスなどの環境的要因も関与すると考えられています.最近の研究により,付着部炎の局所では免疫細胞やTNF-α,IL-17,IL-22などのサイトカインが活性化しており,付着部炎の病態に関わっていることが分かってきました.

従来,強直性脊椎炎は早期診断が難しく,多くの症例はX線像で体軸関節の病変がはっきりしてから診断されていました.非ステロイド系抗炎症薬,体操をはじめとした運動療法などの治療が行われてきましたが,これらの治療では脊椎炎の進行を抑えることはできず,患者の身体機能が大きく障害されました.

最近では,付着部炎の局所に各種サイトカインが関与していることから,サイトカインをターゲットとした分子標的薬(TNF阻害薬やIL-17阻害薬などの生物学的製剤,JAK阻害薬)の開発が進み,これらの薬剤により症状の改善と体軸関節の強直化を防ぐことが期待できるようになりました.また,疾患の進行を抑えるには早期に診断し治療介入することが重要です.MRIは体軸脊椎関節炎の早期診断に有用で,X線像で体軸関節に明らかな所見を認めなくても仙腸関節の炎症を検出することができます.そのような症例は将来,強直性脊椎炎に進行する可能性が高く,「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎」に位置付けて,分子標的薬による早期治療介入が勧められています.

出題基準に追加された背景は?

強直性脊椎炎をはじめとする体軸性脊椎関節炎は日本ではまれな疾患とされてきましたが,考えられていたほどまれではなく,MRIにより早期診断できるようになりました.また分子標的薬により疾患の進行を抑えることも期待でき,日本での診断と治療のガイドライン(脊椎関節炎診療の手引き2020)が整備されました.従来考えられてきたほどまれではなく,早期診断と治療介入が可能になってきたことが出題基準に追加された背景にあると思われます.

過去問での出題状況は?

安静時に痛みが悪化し運動により痛みが改善するという,強直性脊椎炎の特徴が出題されています.
今後も関連する問題が繰り返し出題される可能性がありますので,特徴をしっかりおさえておきましょう!
mediLinkIDを持っている方はQBオンラインで問題を見ることができますよ.
117El3
113D60

確認問題を解いてみよう!

Q.強直性脊椎炎の主な病変はどこか.

a 滑膜
b 筋肉
c 骨髄
d 軟骨
e 付着部

A.答えは記事の最下部にあります!


いかがでしたでしょうか.次回の連載もお楽しみに!

※執筆:佐藤 健夫(自治医科大学 地域臨床教育センター 兼 内科学講座 アレルギー膠原病学部門 教授)

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