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国境なき医師団やJICAで働く(9:フリーランスとして生きる~船医の生活)~竹中裕先生~[みんなが知らない医師のシゴト]

 

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【フリーランスとして生きる~船医の生活】

↑本記事の目次です

 

■国境なき医師団(MSF)を経て船医に

 

 JICAを退職したのち、再度MSFに参加し、ナイジェリアでの産科救急のプロジェクトに参加した。

 さて、その後、2ヶ月間船医として働いたので、折角なのでその経験も共有したい。MSFやJICAと違い、国際協力の文脈からはかなりずれるが、日本の病院やクリニックで働くのともまた違うので、興味ある人が100人に一人ぐらいはいるかもしれない。

 船医といえば、思い浮かぶのは北杜夫だが、あまりに古すぎるので最近の船医に関連する書籍をおすすめしたい。“ひとりぼっちの船医奮闘録―3年目医師の太平洋船上日記”。2009年に出版された書で比較的新しい。初期研修を終えたばかりの比較的若い著者が、船医として勤務する姿が描かれた良書である。私も乗船前に読み終え、非常に参考になった。著者はブログも記しており、そちらも非常に読みごたえのある内容である。

 

 

■調査船に乗る

 

 私の勤務した船は某省庁の調査船であった。船医というと、豪華客船を想像するかもしれないが、船にもいろいろある。仕事自体はインターネットの求人で見つけ、履歴書を書いて送り、最終的に面接で仕事が決定した。面接では、しつこいぐらいに船酔いの有無について確認された。これまで、神戸―上海、舞鶴―小樽、石垣―那覇、済州島―釜山、稚内―サハリンなど数々の船旅を経験しているので、大丈夫だと思うと答えたが、実際に乗船して業務を開始すると、これが結構応えた。台風に近づいたり、黒潮の流れる海域にくると結構揺れるため、何もせずに横になっている分には良いが、動くとなると結構つらい。その中できびきびと業務をこなす乗組員の方々は慣れているとはいえ、尊敬に値する。

業務を開始する前に船員手帳も取得した。

 

 

■小さな社会

 

 乗船期間は約2ヶ月、乗組員は約50名で、豪華客船に比べると比較的乗組員の少ない船であった。前に紹介した本にも記載されているが、乗組員の方々は、それぞれ0-4時、4-8時、8-12時というシフトを各人午前と午後担当するシフトが一般的である。幹部は必ずしもそうではない。つまり4時間働いて8時間休むという生活を乗船中はずっと繰り返すわけである。陸上の生活に比べると、かなり変則的といえる。船上のスペースは限られているので運動といっても歩いたり、ジョギングしたりぐらいしか出来ることはない。極めて小さな社会でずっと過ごすため、ストレスもたまる。楽しみは、録画したテレビ番組をみたり、お酒を飲みながら話しをしたりということになる。私の乗った船は、インターネット、テレビ、電話(衛星電話のみ)とどれもごく限定的にしか利用できなかった。

 

●船員たち

 

 

■医療従事者は自分ひとり

 

 また、医療従事者は自分ひとりであり(”看護長”という職の船員さんはいるが、看護師は同乗していない)、インターネットも通じないため乗船前および乗船当初はかなり緊張した。普段、陸上でなんでもGoogleやYahoo、PubMedで調べることが出来る環境というのは、非常にありがたいものだと痛感した。「救急医マニュアル」や、「マイナーエマージェンシー」「診察と手技がみえる」などの医学書を何冊か購入し、それらを携えて乗船した。また、乗船前から先方の担当者とコンタクトをとり、どのような医薬品をどのぐらい積み込むかを確認する作業も、船医の仕事の一つである。

 さて、実際に乗り込んでみると、幸い、重病人や重症外傷は発生することなく業務を終えることが出来た。ありがたいことにかなり暇だったといえる。ただし、これは船医の業務における一般論ではなく、たまたまそういう航海にあたっただけだということだと思う。船の大きさ、航海の長さ、乗組員の数および健康状態などによって、左右されることは間違いない。業務を終えた後、香川県琴平町にある金刀比羅宮(海の神様)にお参りし、航海の無事に感謝した。     

 

 

●凪の海

 

 

 

~第10回へ続く~

 

※全10回を予定しています!続きもお楽しみに!

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