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112回医師国家試験【禁忌肢問題】がついに判明!8000人に上る受験者・100人以上の禁忌肢選択者のデータから分かった問題は?(その2)

※最新116回国試の禁忌肢分析データは以下をご確認ください!

 

 

 

編集Yです.前回配信の記事「112回医師国家試験【禁忌肢問題】(その1)」はお陰様で大好評をいただきました.

112回医師国家試験【禁忌肢問題】がついに判明!8000人に上る受験者・100人以上の禁忌肢選択者のデータから分かった問題は?(その1)

重ね重ね,成績提供にご協力いただきました112回受験者の皆様にお礼申し上げます…!
引き続き,分析の結果判明した「112回医師国家試験 禁忌肢問題」についての発表です.今回の4位以下も「禁忌肢踏んだ人多い順」で行きます!
そして禁忌肢問題の解析中,徐々に明らかになってきた禁忌肢の設定方法,そして出題者側の意図とは…?

 

さて,いきなりですがその前に,前回の配信内容について訂正をお知らせします
禁忌肢選択者数第3位の112A16(播種性血管内凝固(DIC)を合併した急性前骨髄球性白血病(APL))ですが,複数受験者からの情報提供(ありがとう!)により,c トラネキサム酸 は禁忌肢として採点されていないことがほぼ確定いたしました.すなわち当設問において禁忌肢として採点された選択肢は,e ヘパリン のみとなるようです.
えぇ? ええぇ? いや,日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン」とかATRA製剤の添付文書とか,調べましたよ? 一生懸命調べてみましたよ? そして今回症例の検査値からすると,確かに凝固亢進型のDICでなく線溶亢進型のDICっぽい気はしますよ? しかし,しかしながらですね,もし本当にヘパリンのみが禁忌肢だとすると……

 

納得いかねぇぇぇぇぇ!!!

 

……大変失礼いたしました.
前回配信でも簡単に触れましたが,APLに対するヘパリンとトラネキサム酸の投与を比較した場合,一般論としてはトラネキサム酸の方が比較的禁忌に近いような印象を受けます.これはぜひとも,血液内科の諸先生方に広く意見を伺ってみたいところです.
という訳で在学中の皆様,この設問についてご所属の大学の血液内科の先生方からご意見を伺う機会があれば,その概要をぜひkinkishi@medicmedia.comにお送りいただけないでしょうか.
どうぞよろしくお願いいたします.

 

話を元に戻しまして,「禁忌肢を踏んだ受験者数が多かった禁忌肢問題ランキング」第4位以下の発表に移ります.
なおメディックメディアでの調査では,第4位で禁忌肢選択者グループ内での選択率が同率(7%)の設問が3問並びました.一気に行きます!
でけでけでけでけでけ…じゃん!

 

●禁忌選択した受験者数 第4位の問題(1/3)

 

112A30(各論)
5歳の男児.頭痛と嘔吐とを主訴に両親に連れられて来院した.1ヵ月前から徐々に歩行がふらつくようになった.1週間前から頭痛と嘔吐が出現した.頭痛は早朝起床時に強いという.嘔吐は噴射状に起こるが,嘔吐後,気分不良はすぐに改善し飲食可能となる.意識は清明.体温36.2℃.脈拍92/分,整.血圧116/78mmHg.呼吸数20/分.CT検査のできる総合病院への紹介を検討している.
緊急度を判断するために当院でまず行うべき検査はどれか.
a 脳波
b 眼底検査
c 視野検査
d 脳脊髄液検査
e 頭部X線撮影

 

現症(体温,血圧等)としては安定しているように見えるものの,幼児,頭痛,嘔吐,このキーワードだけで恐いですね….
そして今回の禁忌肢であるところの
 d 脳脊髄液検査
を選んだ受験者の方.分かります.緊急対応を要する鑑別診断が脳裏に浮かんだんですよね.「急性髄膜炎」という,急変の可能性があるとてもとても恐い疾患が.これを最終的に鑑別するためには脳脊髄液検査が必要になります.
では,これが禁忌肢である理由,もうお分かりでしょうか.
「脳脊髄液検査(腰椎穿刺)の前には必ず頭蓋内圧亢進の可能性を除外せよ」
です.これを怠ると致死的な脳ヘルニアをきたす恐れがあり,また頭蓋内圧亢進の有無を確認するための検査が,本設問における正解選択肢のb 眼底検査 でした.頭蓋内圧亢進があればうっ血乳頭がみられます.おまけにすぐ施行できる,かつ侵襲のない,大変有用な検査です.
本症例は実は,早朝起床時に強い頭痛,噴射状の嘔吐,というキーワードから,頭蓋内圧の亢進が強く疑われる症例でした.
解説の続きは,ぜひ4月27日発行予定『第112回医師国家試験問題解説』でご確認下さい.
なお余談ではありますが,発熱・項部硬直などの臨床所見から急性髄膜炎を強く疑った際には,脳脊髄液検査の結果を待たずに抗菌薬投与が可能です.というか,そうすることが推奨されています.詳しくは日本神経学会「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014」Clinical Question 7-1-3などをご参照下さい.もちろん毎年改訂の「year note 2019」J-148や,昨年改訂済みの「病気がみえる 脳・神経 第2版」p.403を参照いただいてもいいですよ!

 

●禁忌選択した受験者数 第4位の問題(2/3)

 

112D46(各論)
75歳の女性.抑うつ気分を訴えるのを心配した隣人に付き添われて来院した.約3年前から徐々に物忘れが進行し,2年前にAlzheimer型認知症と診断され,ドネペジルを服用している.5ヵ月前に長男が交通事故で死亡し,その直後から著明な抑うつ傾向を認め,「生きていても仕方がない」と頻繁に口にするようになった.夫は10年前に死亡し,現在は一人暮らしである.診察時,「死んだ長男のことばかり考えているだけなので,治療は受けなくていい.家族にも連絡しないで欲しい」と述べる.身体診察では異常所見を認めない.改訂長谷川式簡易知能評価スケールは19点(30点満点).
対応として適切なのはどれか.
a ドネペジルを増量する.
b できるだけ安静にするよう指示する.
c 家族への連絡の承諾を得られるよう説得する.
d 病状を地域の精神保健福祉センターに連絡する.
e 付き添ってきた隣人の同意を得て医療保護入院とする.

 

「生きていても仕方がない」などの発言,病識の欠如などから,自殺のリスクを鑑み,おそらく医療保護入院が適切とされる症例です.
ただ…医療保護入院の要件,覚えていますか?
「精神保健指定医1名の診察」および「家族等の同意」が必要です.すなわち
 e 付き添ってきた隣人の同意を得て医療保護入院とする.
は駄目です,隣人は家族等とはみなされないため法令違反です.医師国家試験において法令違反はすべて問答無用で禁忌肢となりえます.

 

●禁忌選択した受験者数 第4位の問題(3/3)

 

112D32(各論)
12歳の女児.右大腿部から膝の痛みを主訴に来院した.1ヵ月前に友人とぶつかって転倒した後から,痛みが出現した.様子をみていたが痛みが軽快しないため受診した.身長148cm,体重50kg.体温36.3℃.右股関節前方に圧痛を認める.歩行は疼痛のため困難である.右股関節可動域は屈曲と内旋とに制限がある.血液生化学所見に異常を認めない.股関節のX線写真(別冊No.15 A〜C)を別に示す.



初期対応として適切なのはどれか.
a 関節穿刺
b 減量指導
c 右下肢の免荷
d 抗菌薬の投与
e 股関節の可動域訓練

 

今回の配信問題中,ちょっと意外だったのがこれです.この設問,診断に至るまでは少し難しいのではないでしょうか?(整形外科の先生方,すみません…) 診断は大腿骨頭すべり症です.すみません正直に言います,編集中の『112回問題解説』の原稿を参照させてもらってます…画像診断などは発行後のそちらをご参照下さい….
ただ正解するのはそう極端には難しくなかったようで,正解のc 右下肢の免荷 を選択できた人は93.9%でした.痛がってるところの負担を減らしてまあ,悪いことはないですよね.その隙に整形外科にコンサルトだ!(整形外科の先生方,ほんとにすみません…)
さて,禁忌肢はといいますと,
 e 股関節の可動域訓練
のようなのです.これが.
確かに大腿骨頭すべり症,それも外傷を契機とする急性型に対しての可動域訓練は病態悪化の可能性があり,かつ,しばし悩みましたが,一般受験者の選択率(1.6%)と禁忌肢選択者グループの選択率(7%)との有意差,および他の諸条件から,これが禁忌肢として採点されたのはかなり確度の高い情報となっています.
しかしながら,これを禁忌肢と言われると,ピンとこない受験者さんは多いのではないでしょうか.
おそらく現在まで,禁忌肢といえば上述のような「頭蓋内圧亢進に腰椎穿刺」やら「法令違反」やら,言ってしまえばお約束の禁忌肢,いわば「絶対禁忌」が大半で,本設問のような単なる…単なると言っては語弊がありますが,「病態悪化のおそれがある治療」を「禁忌肢」として勉強してきたことはないはずです.

 

■今回の分析結果から推測される「禁忌肢」とは

 

ここまでの文章で,意図的にふにゃふにゃした表現を使ってきました.
禁忌肢として採点された選択肢」.「禁忌肢となりえる」.
なんと歯切れの悪い言い回しであることよ.

 

明らかに傾向が変わったといわれる112回の禁忌肢問題.
これまでの国試でも,「禁忌を踏んだと思ったのに禁忌肢ではなかった(禁忌肢選択数が0だった)」という報告を複数聞いてはいました.
が,それでも禁忌肢として採点されたものはすべて,「絶対禁忌」に相当するような「強い禁忌」だったように思われます.
それが今回の112回国試では,「絶対禁忌(強い禁忌)」と言われてきたものだけでなく,「相対禁忌(弱い禁忌)」とされてきたものまでが,禁忌肢として採点されているようである.それも,他に「絶対禁忌」として採点して良さそうな選択肢を差し置いて,「相対禁忌」と思えるような選択肢が禁忌肢採点対象となっている.
これが本当であれば,
「禁忌肢となりうる設問・選択肢は多数あるが,そのうちの任意の10個程度が,忌の度合いの軽重にかかわらず,禁忌肢として実際に採点されている
「その他の禁忌肢は強い禁忌肢と言い得るものであっても,禁忌肢選択数による合否判定には用いられていない
と考えざるを得ません.

 

112回医師国家試験から適用開始となった新出題ガイドライン,その改定の意図と併せた,今後の国試における「禁忌肢問題」の出題傾向とその対策について,
また,禁忌肢が疑われる残りの設問の一気公開につきましては,
引き続き「その3」配信をお待ち下さい!

 

…でもAPLへのヘパリン投与を禁忌肢とするのはどうにも納得が……(ぶつぶつ)

 

 

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