コラム

国境なき医師団やJICAで働く(10:フリーランスとして生きる~まとめ)~竹中裕先生~[みんなが知らない医師のシゴト]

 

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【フリーランスとして生きる~まとめ】

↑本記事の目次です

 

 

■インターネットのおかげ

 

 現在はフリーランスとして生活しているわけだが、どのように生活しているかについて記載するとともに、これまでのキャリアの形成と今後の展望についても記したい。

 2017年6月以降、MSF→船医→MSFと仕事をしているわけだが、日本に滞在している間は、その日その日の仕事をしている。私は産婦人科医なので、主な仕事は子宮頸癌の検診、産婦人科当直、および妊婦健診の外来、インフルエンザワクチン接種などが主な仕事である。インターネットの人材派遣会社を通しての仕事や、以前勤務していたところなど、さまざまな形での仕事の依頼を受けている。

 インターネットの力は言わずもがな絶大である。MSFの仕事も、JICAのインターン・専門員としての就職、船医の仕事とすべてインターネットで見つけた仕事である。日本での日々の仕事も、インターネット人材派遣会社を通して探しているものが半数以上になる。

●JICA時代。モルドバで医療器材に関するセミナーを開催

 

 

■コネも重要

 

 同様に重要なのは、コネ(コネクション)である。国際保健医療の業界は狭いので、いろいろな情報が飛び交っているが、なるべく多くの知り合いがいたほうが仕事を見つけやすいかもしれない。最初にJICAで短期専門家の業務を得ることが出来たのは、知り合いの産婦人科医からの紹介である。

 

 現在のような生活をいつまで続けるのかとよく聞かれるが、それはむしろ私が知りたいぐらいである。やりがいがあると感じ、生活が成り立つ限りは続けていきたいと思うが、たとえば、MPHの取得英語以外の語学離島や僻地での診療など興味のあることは他にもいろいろある。

 

 

■途上国での医療を目指す人へ|語学・臨床経験・お金について

 

将来、人生の一部でも、途上国で仕事をしてキャリアを積みたいと考えている人に対し、個人的なアドバイスをここに記したい。

 

●語学を学ぶ。

例外はあるにせよ、途上国で働くためには日本語以外の語学の知識は必須である。私は参加したことがないので、詳しくは語れないが、ホームページなどによると、ジャパンハートというNGOは語学がダメでも(日本語しかできなくても)ボランティアの参加を受け付けているようである(ちなみに、ジャパンハートの代表の吉岡先生もブログを書かれているが、この先生の信念はすごいと思う)。ただし、このような団体は例外的であるといえる。ほとんどの場合は英語になると考えられるが、フランス語スペイン語(あるいはロシア語や中国語でも)が出来ると非常に強みになる。最低でも英語で臨床・会議への参加が可能なレベルまでは要求される。語学が出来るようになると世界が広がるのは当然のことだし、スカイプ英会話なら今日からでもはじめられるので、是非トライしてほしい。

 

●専門医レベルまで臨床経験を積む。

経験的に、途上国の一般医のレベルは高い。というより、必要にかられて、何でも診ていることが多い。小外科、産科、小児科、麻酔科など幅広い知識を持っている。ただし、それは各科の最低限の知識で、たとえば産婦人科における不妊症の臨床や、腹腔鏡手術、悪性腫瘍の治療などに関しては、圧倒的に日本の専門医の知識・経験量のほうが豊富である。直接的にはこのような経験は途上国で臨床をする上では役に立たないかもしれないが、さまざまな症例を経験していることはまず間違いなく大きな糧となる。加えて、彼らの知らないことを知っていることは、尊敬を得るうえでも重要である。洋の東西を問わず、医師は、自分の出来ない何かを出来る医師しか尊敬しない。

 途上国の保健医療というと、母子保健感染症対策などが思い浮かぶ。それはそれで間違いではないのだが、今後どのような分野が主流になってくるかはいまいち予想できない。精神保健を含めた精神科の知識は、エボラ流行後や紛争地での心理的ケアの際に必要である。眼科医が白内障の手術を、形成外科医が口唇口蓋裂の手術を、そして麻酔科医がその手術の際の麻酔を、短期間で行うキャンプのようなボランティアプログラムもある。

 また、日本にいる間、日々の仕事を得る際にも専門医(レベルの経験)を持っているほうが何かと仕事を得やすいという面もある。行政に進むことになるにしても、ある分野に関しては専門的知見を有することは自身の自信にもつながると考えられる。

 

●お金を貯める。 

JICAの仕事や、省庁・大使館の仕事ならある程度の給料は保証されるが(それでも臨床医の給料よりは低い)、NGOやボランティアに参加する場合には、赤字になることを覚悟しなければいけないかもしれない。私個人の経験としては、卒後の年数などに左右される部分もあるものの、給与額は 病院・クリニック>船医>JICA>>MSF というものであった。フリーランスになると、働いた分だけ給料がはいるのでどんどん仕事すると病院勤めと同じか、それ以上になるが、当然有給休暇などもなく、休んだり、旅行に行ったりすると収入は0になる。

 留学に行くと、それはそれでお金がかかる(と思う。行ったことがないので、他人からの受け売り)。勿論、お金が無くても幸せな人生を送ることは可能であるが、あるほうが何かと安心で、かつ自分の好きなことに時間を割く心の余裕ができるので、お金は貯めておくに越したことはない。

 

●シエラレオネにて。

 

 

■この体験談が誰か100人中1人の役に立てれば

 

 他にも、世界を旅したり、日ごろから世界のニュース・出来事に目を向けたりするなど、お勧めしたいことはたくさんあるが、そんなことは言われなくても分かっているということが多いと思うので、割愛する。

 いままで極めて個人的な経験を述べてきたが、100人中1人にでも、何かの形で役に立つことがあれば幸いである。

 それではみなさん、いつか世界のどこかでお会いしましょう。

 

●国際医療を目ざす誰かの参考になれれば

 

第10回にわたってお送りした「国境なき医師団やJICAで働く」シリーズは今回で最後になります。

今後もいろんな場所で活躍する医師の現場をリポートできればと思いますので、お楽しみに!

 

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