114回国試【禁忌肢】採点問題,今年も判明・大公開!
こんにちは,編集部Yです.
新年度となり皆さん学年が上がったというものの,新型コロナウイルスの流行で授業や臨床実習が中止されている学校も多いようですね.
医療機関で奮闘されている医療従事者の皆様に心より感謝しつつ,今日現在あたりを後から振り返った時「あの時持ちこたえて良かったね」と言えるよう,感染の収束を願っています.
さて本日は,皆さん興味津々,第114回医師国家試験の禁忌肢採点問題分析結果の発表です!
今年よりメディックメディアの採点サービス「講師速報」の情報収集機能がパワーアップし,禁忌肢選択者約300人,非選択者約1200人の計1500人分の禁忌肢選択情報を解析に用いることができました.受験者の皆様の情報提供ご協力に深謝いたします!
例年以上に興味深い,禁忌肢採点問題についての傾向も炙り出されてきましたので,長い記事になりますがぜひお読みください.
まずは例年のおさらい,禁忌肢分析に基づく「禁忌肢採点問題」の概要と,第114回医師国家試験の禁忌肢採点問題のまとめからどうぞ.
1.禁忌肢採点問題は国試の全400問中,約10問
2.禁忌肢採点問題は必修問題以外(総論や各論)からも出題されている
3.禁忌肢採点問題は正答率によって左右されない
4.禁忌肢採点問題は相対禁忌を含み,かつ禁忌の軽重によって左右されない
5.禁忌肢を1問でも踏んだ人は114回国試受験者全体の約16%,禁忌肢落ちした人は0人
(※「講師速報」解答入力者の解析による)
大騒ぎになった第112回医師国試では受験者全体の約半数が,第113回では約3割が何らかの禁忌肢を踏んでいたことと比較すると,本年の禁忌肢選択者の割合は全体の約16%と比較的少数になっています.禁忌肢4問以上選択で不合格となった人も,「講師速報」の解答入力データ上ではいませんでした.
とはいえ今年も,以下にご紹介するように10問以上が禁忌肢採点問題として全400問中のあちこちに散りばめられていたわけで,気を抜くと禁忌肢落ちする可能性があったわけです.
また,こちらも例年の繰り返しとなりますが,
4.禁忌肢採点問題は相対禁忌を含み,かつ禁忌の軽重によって左右されない
は重要項目となります.
112回以降の国試では,禁忌肢と言ってもよい問題が絶対禁忌・相対禁忌を含めて20~30問ほどあり,その中から10問ほどが「禁忌の軽重(絶対・相対)にかかわらず」禁忌肢採点問題として採用されています.
このため,
「禁忌肢はどれが禁忌肢採点問題になるかわからない.絶対禁忌から相対禁忌まで含めて,漏れなく対策すべし」
というのが,禁忌肢対策の鉄則となります.
絶対禁忌も相対禁忌も広く解説が読める,メディックメディア『第114回医師国家試験問題解説』は2020年4月25日発行予定です!(←ダイレクトマーケティング)
ではさっそく,第114回禁忌肢候補・禁忌肢採点問題の話に入りましょう.
まずは弊社調べ,第114回国試の「禁忌肢問題(=禁忌肢採点問題になるかもしれない問題)」リストです.
(※以下のリストには,誤っている選択肢を選ぶ問題(禁忌となりうる選択肢を解答させる問題:114A1など)を含んでいません.これらの解説は『第114回医師国家試験問題解説』にてどうぞ!)
114A6 d 甲状腺全摘術後テタニーにビスホスホネート製剤
114A21 b 後天性血友病に皮膚生検
114A26 e 妊婦にレボフロキサシン投与
114A27 e 初診の調節性内斜視に斜視手術
114A59 d 鼠径ヘルニア嵌頓に穿刺ドレナージ
114A67 c 亜急性甲状腺炎に抗甲状腺薬投与
114B32 b,e 急性大動脈解離(ショック状態)に降圧薬投与,大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉挿入
114B38 a 小脳出血にt-PA投与
114B39 a,c,d,e 肺炎によるショック状態の患者を救急搬送しない
114C35 d 肘内障に肘関節包切開
114C43 d 急性単球性白血病に全身放射線照射
114D7 e アルコール依存症の患者に知らせずに抗酒薬を投与
114D15 c 重症筋無力症にベンゾジアゼピン系睡眠薬投与
114D25 d 上腸間膜動脈塞栓症に上腸間膜動脈塞栓術
114D40 d 両側頸動脈狭窄に頸動脈洞マッサージ
114D49 e 胃底腺ポリープに胃切除術
114D51 d プレドニゾロン長期投与中のプレドニゾロン中止
114D66 c 多発性骨髄腫疑いに腹部造影CT
114D72 e 急性心膜炎にトレッドミル運動負荷心電図
114E2 b,e 滅菌シーツの穴より狭い範囲で消毒,血管内に局所浸潤麻酔薬投与
114E7 b 末梢挿入中心静脈カテーテル〈PICC〉を鎖骨下動脈に刺入
114E4 c 学術会議に用いるデータを改ざん
114E36 b 肺結核疑いにスパイロメトリ
114E41 e 尿道カテーテル挿入で抵抗を感じたらバルーンを膨らませる
114F56 a 妊婦に生ワクチン投与
114F58 d 食道静脈瘤に内視鏡的粘膜下層剝離術
114F70 c 「副作用が出ても我慢して内服を続けてください」
全27問と,今年もなかなかの分量になりました.
どれが禁忌肢採点問題となってもおかしくないこれらの問題のうち,(どうやら任意で)禁忌肢採点問題となったのは…
「踏んじゃった人多い」順,第1位!
114A27 e 初診の調節性内斜視に斜視手術
でした!
この問題,正解はa 右+6.0D,左+6.0Dの眼鏡処方 となります.
調節性内斜視は,遠視を補正しようとして強く調節がかかるために生じる内斜視です.このため,初回治療は調節麻痺下での眼鏡処方を行い経過を観察し,長期に渡ってもなお内斜視が残存するものに対してのみ斜視手術を行います.
「侵襲なく治癒するかもしれない疾患に対していきなり手術する」,これが禁忌肢としての根拠です.
この禁忌肢採点問題は,今年の禁忌肢選択者の66%,実に2/3に上る受験者が踏んでいた禁忌肢でした.
さて,第1位が禁忌肢選択者全体の2/3選択ということで,以下,ぐっと選択者の割合が減ってきます.
第2位
114C43 d 急性単球性白血病に全身放射線照射
実は診断そのものはそれほど解答に影響せず,「NSAIDを内服したが(鎮痛)効果は不十分」,「顔面は苦悶様」,「まず考慮すべき治療」という点から,正解はb オピオイド投与 となります.
一方,全身放射線照射は一般に同種造血幹細胞移植の前処置として用いられるものであり,移植を前提とせず行われることはありません.したがって禁忌肢となりえます.
…が,この「全身放射線照射」という選択肢,同じく誤り選択肢として,114A60(CD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)のb選択肢に出てきているのですが,こちらの方は禁忌肢「採点」問題にはなっていないようなのです.
このあたりも,「禁忌肢となりうる問題のうち,任意の10個程度が禁忌肢採点問題として選ばれている」という推測の根拠となりそうな気がします.
この問題は禁忌肢選択者の14%が選択していました.
(※以下,割合は禁忌肢採点問題2問以上選択の重複選択を含みます)
第3位
114D25 d 上腸間膜動脈塞栓症に上腸間膜動脈塞栓術
上腸間膜動脈の造影欠損(どこかわかりますか? 解説は『第114回医師国家試験問題解説』で!),腸管壁の造影不良から,上腸間膜動脈閉塞症,腸管壊死の診断に至り,正解がa 緊急開腹手術 となります.
禁忌肢は,診断さえついてしまえば字面だけで「あかーん,それはやったらあかーん」とわかる選択肢ですね.画像問題として出題されましたので,画像及び診断の読み違え,それから塞栓症のリスクとなる「心房細動の加療中」の読み落としが禁忌踏んじゃった要因となります.
禁忌肢選択者の7%が踏んでいた問題でした.
さて,次の第4位は第1位と並ぶ,第114回禁忌肢採点問題の注目案件ですよ!
第4位
114F70 c 「副作用が出ても我慢して内服を続けてください」
(略)
この問題のように,医師の発言から選ばせる問題の場合,これまでは「正しい発言4つ,誤った発言1つのうち,誤った発言を選ぶ」というのがほとんどだったので,逆の設定であるこの問題を見た時には
「この医者,5つ中の1つしか(e)正しいこと言うてないやん! どんなヤブ医者やねん!」
って思ったんですけど.
ええ,ようやく意図がわかりました.cを禁忌肢採点選択肢にしたかったんですね.
禁忌肢採点問題というのは原理的に,「正しいものを選ぶ」問題でしか採用できません(誤りを選ぶ問題の場合,必然的に誤っている選択肢(禁忌となる選択肢を含む)を選ばざるを得ないからです).
合格発表前にこの「副作用が出ても我慢して内服を続けてください」を禁忌肢だと思った受験者は,おそらく一人もいなかったのではないでしょうか.
なんだか年々,禁忌肢採点問題の仕込み方が巧妙になってきている気がします…….
指摘されてみれば,禁忌肢の根拠は比較的明らかにおわかりでしょう.下痢・皮疹といった副作用がみられている時に内服を継続すると病態の悪化に繋がります.
禁忌肢選択者の6%が選択していました.
第5位
114D15 c 重症筋無力症にベンゾジアゼピン系睡眠薬投与
画像から胸腺腫が読み取れるかどうかで,正解のa 胸腺腫を含む拡大胸腺摘出術 が選択できるかどうかが分かれそうですが,
すみません,正直に言います,重症筋無力症に睡眠薬が禁忌って知りませんでした…….
重症筋無力症では睡眠薬を投与した場合,呼吸不全をきたしうるため禁忌となります.
とはいえ,禁忌対策の書籍なり動画なりで「重症筋無力症には睡眠薬投与が禁忌」と学んだ人はあまりいないのではないでしょうか? その一方で,重症筋無力症は筋力が低下する病態であり,睡眠薬の使用は危険が伴う,とは理解できる.
「禁忌対策本に書かれている以上のことを,患者さんの病態に応じて,適応・適応外を判断する」という,単純な暗記一本道では対応できない思考力が求められていると感じます.
禁忌肢選択者の5%が選択していた問題でした.
以下,第6~10位判明分までを,選択割合とともに一挙紹介です.
第6位 114B32 e 急性大動脈解離(ショック状態)に大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉挿入(4%)
第7位 114D49 e 胃底腺ポリープに胃切除術(2%)
第8位 114E41 e 尿道カテーテル挿入で抵抗を感じたらバルーンを膨らませる(2%)
第9位 114C35 d 肘内障に肘関節包切開(2%)
第10位 114B38 a 小脳出血にt-PA投与(1%)
第114回の禁忌肢を振り返り,印象的だった点としては,第4位のところで解説した
●禁忌肢の出題方法が巧妙化していること
それから第1,7,9位にみられるように,
●予後良好な経過が期待できる病態に対し,無用有害の侵襲を加えると,大変厳しく禁忌肢判定されること
が挙げられるように思います.
後者に関しては,実際に合格された皆さん,これから臨床研修に出て
●内斜視の患児さんが来たぞ! 最初に斜視手術する? いやいやたぶん恐くてできない.
●腕を動かせない(肘内障)患児さんが来たぞ! 最初に肘関節包切開する? いやいやたぶん恐くてできない.
…と,「実際には恐くてできない」を挙げれば切りがないわけですが,
それでも,国試をただのペーパーテストと思わず,
「自分が実際に臨床に出た時に,根拠を持って,自信を持って,アレルギー等の禁忌事項を見落とさず,その処置ができるのか」
という,実感を伴った判断が求められているように感じます.
以上,114回受験者の振り返り,115回受験者の禁忌肢対策に少しでもお役に立てたでしょうか.
禁忌肢採点問題は公式に発表されていないため,解析には毎年必ず受験者の皆様のご協力が必要不可欠です.
皆さんへの情報提供のため,それから後輩の皆さんのため,来年115回も引き続き,採点サービス「講師速報」へのご参加と,禁忌肢選択情報のご提供をどうぞよろしくお願いいたします!