第118回医師国家試験問題解説
第118回医師国家試験【禁忌肢】が判明しました
第118回医師国家試験を受験された皆様,お疲れ様でした.これから医師国家試験を受験する予定の皆様,ともに頑張りましょう.メディックメディア編集部のMです.
さて,2024年2月に実施された第118回医師国家試験も,9,600名を上回る受験者の皆様の多大なるご協力のお陰をもちまして,「禁忌肢採点問題」の分析が無事完了いたしました. 情報提供にご協力いただいた受験者の皆様に厚く御礼申し上げるとともに, ここに第118回医師国家試験「禁忌肢採点問題」の分析結果を公開いたします.
※以下の情報は弊社採点サービス「講師速報」参加者に行ったアンケート等をもとにした分析となっております.実際の国家試験の情報とは異なる可能性があることをご留意ください.
■ はじめに
禁忌肢とは?
「禁忌肢」とは,医師国家試験や歯科医師国家試験,薬剤師国家試験に存在する,
「一定数以上選択した場合,どれだけ点数が取れていようが無条件に不合格になる選択肢」
のことです.
禁忌肢問題として出題されるのは,医師国家試験改善検討部会報告書によれば,「患者の死亡や不可逆的な臓器の機能廃絶に直結する事項」とされています.
問題の正答率や,禁忌を施行した場合の悪影響の軽重についても禁忌肢には考慮されません.
そして,必修・総論・各論のいずれからも禁忌肢は出題されるようです.
禁忌肢・禁忌落ちの変遷
医師国家試験においては,全400問の出題の中に,例年約10問ほどの禁忌肢が報告されており,
4問以上選択した場合は不合格となる採点基準が設定されています.
(※例外的に第117回では3問以上選択したら不合格と基準が厳しくされましたが,第118回では4問以上に戻されています)
かつては長らくこの「禁忌肢採点問題」での基準により実際に不合格となる者が存在しなかったのですが,2018年,第112回医師国家試験において,多数の禁忌肢選択者・禁忌肢落ちの受験者が生じたことで,大きな注目を集めるようになりました.
以降,第112回の時ほど極端ではないものの,例年,禁忌肢選択者,禁忌肢落ちの受験者が発生し,今や「禁忌肢」は医師国家試験対策において,無視できない項目となっています.
■ 第118回医師国家試験の禁忌肢分析
編集部で確認できた118回の禁忌情報
・特定できた禁忌肢数 9
・禁忌の分布(必修,総論,各論)
分類 |
各論(A,D) |
必修(B,E) |
総論(C,F) |
禁忌肢数 |
5問 |
2問 |
2問 |
必修,総論,各論のすべてから禁忌肢が出題されており,各論での出題がやや多くなっていました.
・禁忌落ちは確認されませんでした(編集部で特定できた禁忌肢のみで採点した場合).
・禁忌を一つでも踏んだ人は全体の22%でした.
例年との比較
・特定できた禁忌肢数
116回 |
117回 |
118回 |
|
禁忌肢数 |
11問 |
11問 |
9問 |
118回の禁忌肢数は昨年から2題減少しましたが,例年10題程度という傾向には大きな変化はありませんでした.
・禁忌の分布(必修,総論,各論)
116回 |
117回 |
118回 |
|
各論(A,D) |
8問 |
3問 |
5問 |
必修(B,E) |
2問 |
4問 |
2問 |
総論(C,F) |
1問 |
4問 |
2問 |
必修,総論,各論のすべてに禁忌肢が分布している傾向は続いています.
・禁忌を一つでも踏んだ人,禁忌落ちした人
116回 |
117回 |
118回 |
|
禁忌肢を1問でも踏んだ人の割合 |
約24% |
約9% |
約22% |
禁忌落ちした人数 |
2名 |
8名 |
0名 |
117回では禁忌落ちが8名と多かったのに対し,118回では0名と減少しました.(117回で禁忌落ちが多かったことには,禁忌選択肢3問以上で不合格とする厳しい採点基準による影響が大きいと思われます.)
禁忌肢を1問でも踏んだ人の割合は117回(約9%)で減少していましたが,118回(約22%)では増加し,116回と同程度となりました.
同一の採点基準である116回との比較で118回を評価すると,
・禁忌肢回避の難易度に大きな変化はないか,わずかに易化した程度
・禁忌肢の総数が減少したことにより,4問以上選択し禁忌落ちとなるリスクが減少した
といえるでしょう.
● 禁忌肢選択者数 第1位
C40
第1位は総論からの出題です.
広域災害時のトリアージに関する出題で,禁忌肢選択率は今回最高の8.3%でした.
災害発生時など多数の傷病者が発生した状況では,限られた医療資源を最大限に活用するために,傷病の緊急度や重症度に応じた治療優先度の決定が必要です.
救命の可能性がある重症患者に決定的治療を迅速に行うため,現場ではSTART法を用いた生理学的アプローチに よる一時トリアージを実施します.
本問の傷病者について,呼吸数が30回/分以上であること,毛細血管再充満時間が2病を超えていること,意識がなく簡単な指示に応じないことは,いずれも「生命,四肢に直ちに処置が必要な危機的状況」にある最優先治療群として対応すべき状態です.
したがって正解は「c 赤」です.
そして,禁忌肢は「e 黒」です.
黒タッグは,「既に死亡しているもの,又は明らかに即死状態であり,心肺蘇生を施しても蘇生の可能性のないもの」を振り分ける群です.フローチャートを見れば明らかなように,自発呼吸がある時点で黒色にはなり得ませんね.
黒色タッグをつけられた傷病者は治療・搬送の優先度が最低となります(不搬送,不処置)ので,本問の傷病者を誤って黒色にトリアージしてしまうことは,本来救命の可能性があった患者を放置し死亡させることに直結するため,禁忌です!
● 禁忌肢選択者数 第2位
D52
第2位は各論からの出題です
急性咽頭炎への対応についての出題で,禁忌選択率は8.0%でした.
若年者に発症した急性咽頭炎であり,溶連菌などの細菌性咽頭炎とウイルスを主体とする伝染性単核球症が鑑別となります.
肝腫大,血液検査での異型リンパ球の出現や肝障害があることから伝染性単核球症と考えます.
伝染性単核球症は基本的に対症療法で改善しますので,正答は「a 経過観察」です.
そして,禁忌肢は「d アンピシリン投与」です.
アンピシリンは溶連菌性咽頭炎の第 1 選択薬となる,ペニシリン系抗菌薬の1種です.
伝染性単核球症の患者にペニシリン系抗菌薬を投与することは,重篤な皮疹を生じることがあるため,禁忌です!
● 禁忌肢選択者数 第3位
D42
第3位は各論からの出題です.
小児の気道閉塞への対応についての出題で,禁忌肢選択率は3.5%でした.
呼吸不全を疑ったら,速やかに閉塞部位が上気道か下気道かを判断しましょう.
今回はstridor を聴取することから,上気道の閉塞が疑われますね.
小児の場合,クループ症候群や気道異物が多いですが,今回は胸部 X 線写真で縦隔に腫瘤性病変を認め,臥位により SpO2が低下していることから,縦隔の腫瘤性病変による気道閉塞と考えます.
気道が切迫した状況であれば,まずは気道確保が最優先されますので,正答は「b 気管挿管」です.
そして,禁忌肢は「 e 座位の励行を指示して帰宅」です.
座位に戻したら呼吸困難が軽減したからといって,それだけで安心できるわけがありません.気道閉塞の危険性が高く,酸素投与も必要としているこの状態のまま帰宅させることは,窒息死に繋がるため,禁忌です!
● 禁忌肢選択者数 第4位
D41
第4位は各論からの出題です.
急性発症の意識障害への対応についての出題で,禁忌肢選択率は2.6%でした.
急性発症の意識障害であり,1週間前の発熱,頭痛は先行感染を示唆しています.髄膜刺激徴候を認めており,髄液所見からウイルス性髄膜炎・脳炎が疑われます.MRI では辺縁系に病変がみられるため,ヘルペス脳炎と診断できます.
したがって正答は「e アシクロビル投与」であり,これは髄液PCR検査での診断確定を待たずに開始すべきです.
そして,禁忌肢は「b 自宅安静指示」です.ヘルペス脳炎は死亡率の高い疾患であり,疑った場合は一刻も早く抗ウイルス薬の投与を開始することが重要ですので,帰宅させてはいけません.
● 禁忌肢選択者数 5位以下
ここからは今回の調査で禁忌肢選択問題であるとほぼ判明しているもののうち,選択率が1%未満であったものです.
禁忌肢の概要と,禁忌肢選択率を紹介します.
順位 | 問題番号 | 禁忌肢 | 禁忌肢の概要 | 禁忌肢選択率 |
第5位 | 118D49 | d | 不妊治療中の卵巣過剰刺激症候群に対する付属機摘出術 | 0.8% |
第6位 | 118A36 | e | 高K血症に対する緊急治療が必要な状況でのARB投与 | 0.6% |
第7位 | 118C64 | e | ホルマリンの注腸 | 0.1% |
第8位 | 118B33 | a | 抜けかけた胃管に対し再挿入や先端位置の確認をせずそのまま経管栄養再開 | 0.1% |
第9位 | 118B46 | e | 急性大動脈解離に対するIABP挿入 | 0.1% |
■ 最後に
以上,第118回医師国家試験の禁忌肢採点問題について,分析結果を発表いたしました.
第1位の広域災害時のトリアージは,臨床実習として経験できるものではないため,具体的なイメージを伴った学習ができなかった受験生が多かったのかもしれません.
(でも日本は災害大国なので,いざという時に確実に判断できるよう身につけねばならない知識でしょう.)
第2位の伝染性単核球症に対するアンピシリン投与は,定番の禁忌肢である割に選択率が高かったように思います.新型コロナウイルス感染症の流行期での臨床実習では「発熱・咽頭痛」の時点でまず”コロナ疑い”と一括りに考えてしまい,急性咽頭炎の鑑別について落ち着いて考える機会が減っていたのかもしれません.
是非日々の実習から「禁忌を含めて一つでも多くの知識を習得する姿勢」を忘れずに,勉強に励んでくださいね.
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