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【いいんちょーの僕です。】第10回 “Post-CC OSCE”という,事件.[前編]

 

「…この試験,やばいんじゃないか?」

 

そう気づき始めたのは,ここ2-3週間のことである.僕らは今年から始まった臨床実習(BSL,ポリクリ)の第1タームを10月で終え,年明けから再開される第2タームを控えてPost-CC OSCEの準備を兼ねたカリキュラムをこなしていた.

 

すでに何度か触れていることだけれど,僕は関東にある医学部の5年生.国試対策委員という役割を請け負っていて,これまでも定期試験やCBT,Pre-CC OSCEがある度に必要と思われる対策方法を検討しては,同じ委員メンバーと相談をしながら学年に発信をしてきた.

 

そんな僕は今,来年8月頃の実施が予定されているPost-CC OSCEに向けた準備について危機感に駆られている.そこで今回のコラムではこの危機感および対策案を共有させてもらうために,今月来月の2回に分け,Post-CC OSCEという事件,いや試験について綴ってみたいと思う.今月は前編ということで,この試験の概要や特性に触れつつ,僕がどのように「やばい」と感じているのかについて書いてみたい.

 

これを読んでくれている方の多くは医学部の学生,特に同学年の5年生であることを念頭に置いている.もしかすると,現時点でPost-CC OSCEに向けて準備を進めている方々は全国の医学部においても少ないかもしれない.そんな中でも,Post-CC OSCEについて「どのような試験なのかわからない」「何か対策をしないとまずいのでは?」と少しでも不安に感じている方に向けて,今回の内容が今後の準備にあたり何らかのきっかけとなれば嬉しいなと思う.また,これはあくまでひとりの学生(受験生)による書き物として,捉え方に多少の偏りなどがある点はご了承頂きたい.もし記載内容に誤りなどがあった場合には,是非ばしばしと指摘をもらえたら有り難いです.

 

 

Post-CC OSCEとは

 

Post-CC OSCEとは,正式名称を“Post-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination(診療参加型臨床実習後客観的臨床能力試験,長い)”という.医師法第9条には「医師国家試験は,臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能について,これを行う」という文言があるが,これまでの間「技能」を評価する国家試験は行われて来なかった.Post-CC OSCEはまさにこの「技能」を評価する試験であり,数年間のトライアルを経て,今年度(2020年度)より正式に共通課題として全国の医学部に導入されることになった.

 

Post CC OSCEは,①“CATO(医療系大学間共用試験実施評価機構)”による共通課題「機構課題」と,②各大学が作成するオリジナルの課題「独自課題」の二部構成となっている.②については文字通り,大学毎にまったく異なる内容となる可能性が高いので,本コラムについては①の「機構課題」に絞っての内容としたい.

 

機構課題について,どのような課題であるかをまとめてみた.

 

 

試験の対象は「成人と小児の健康上の問題」とされていて,具体的にはCATOの作成する資料「臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目」(外部リンクへ)に掲げられている全37症候のうち,35症候が該当する(“心停止”と“ショック”の2症候については医療面接を行えないため除外).同資料では,37症候それぞれについて「臨床研修開始時までに知っていてほしい鑑別すべき疾患,鑑別するための医療面接のポイント,身体診察のポイント」が記されている(下図参照).

 

 

症候「発熱」における鑑別すべき疾患と医療面接・身体診察のポイント(上記資料より抜粋).同資料にはこの表が全37症候分記載されている.

 

 

Post-CC OSCEの何がやばいのか?

 

冒頭でお話しした通り,僕らの大学では先月までの臨床実習内容(主にメジャー診療科)の復習を主目的としつつ,Post-CC OSCEを念頭に置いた実践形式のカリキュラムが行われた.そこでは1つの学生班に特定の症候(発熱,腹痛など)が与えられ,彼らはその症候に即した具体的な疾患を持つ患者像をつくる.さらにその模擬患者を演じ,別の班が医師として医療面接と身体診察,上級医への報告までを行うというものだった.形式はPost-CC OSCEを念頭に,上に記した機構課題と同じ時間配分で進められた.

 

このような実践型のロールプレイを行っていく中で,僕は「この試験はやばいんじゃないか?」とにわかに焦るようになったというわけである.

 

以下,具体的なポイントを挙げてみたい.

 

⓪来年度が実質的な第一回目となる試験

 

本来であれば,このPost-CC OSCEは今年度から正式運用が開始される予定だった.しかしご存知の通り,新型コロナウイルスの感染拡大により全国医学部の実習・通学は中断に追い込まれてしまった.それに伴い,第一回のPost-CC OSCEについても各大学では規模を縮小するなど大幅な試験内容の変更を余儀なくされている.このことから,今年度に実施されたPost-CC OSCEについて先輩が話す内容については,残念ながら僕らにとって必ずしも参考になるとは限らない可能性が高い.もし来年度の試験が無事に正式開催されることとなった場合,実際の評価基準について前例(比較対象)がないため,結果がどのように転ぶか見通しのつきづらい試験だということを認識する必要がある.

 

①医療面接×臨床推論 (制限時間:7分程度)

 

僕が一番面食らったのが,この医療面接パートだ.4年次に受験したPre-CC OSCEの医療面接では,「患者さんの情報を大きな漏れなく聞き出せるか」ということに主眼が置かれていた.だから僕らは質問の項目リストをつくり,それらを頭に入れて,漏れのないよう時間内にひとつずつ質問していけばよかった. しかし,「Post-CC OSCEではこの考えを拭い取らなければいけない」.これがロールプレイをしてまず感じたことだった.

 

質問リストを覚えた通りに上から潰していくことには,2つの点から問題がある.まず1点目に,単純に時間が足りないということ.Pre-CC OSCEでは10分間という時間が与えられていたが,今回のPost-CC OSCEでは医療面接と身体診察を併せて12分で行う必要がある.医療面接に割ける時間は多くても7分程度になるので,Pre-と同様のやり方ではまずもって時間が足りなくなるだろう.

 

そして2点目の問題は,臨床推論を放棄してしまっているという点である.重ねて,Pre-CC OSCEでは御作法的に患者さんから情報を引き出すことがゴールだった.しかしPost-CC OSCEにおける医療面接とは,そのあとに続く身体診察とともに,「考えられる鑑別疾患を上級医に報告する」ための手段として位置づけられている.つまり,ひとつひとつの質問については特定の病態・疾患を確定診断に近づける,あるいは除外診断に近づけるような意味のある内容を自分で考えて選び取る必要がある.

 

臨床推論のイメージ図(画像はQBオンラインより)

 

 

イメージ的には,こんな感じだ.自分で質問を考えて患者さんに答えてもらいながら,この後に続く文章を完成させていく必要がある.さらに,その答えとなり得る選択肢(鑑別疾患)までも自分で考えなければならないのだ.しかも,実際の患者さん(模擬患者さんではあるが)とのコミュニケーションをとりながら,かつ約7分という制限時間の中でである.これを見て,皆さんはどのように感じるだろうか?少なくとも僕にとっては,(国試問題のようにすべての情報が揃った上で頭を働かせることに慣れてしまった僕にとっては,)以下2つの点でとても難しいことのように感じた.

 

1.症候から鑑別すべき疾患群が浮かばない

これまで疾患毎の学習に特化し過ぎたためか,「全身がだるいんです」「腰が痛くて…」という患者さんの主訴や症候だけから,ピピピピっと鑑別に挙げるべき疾患が思い浮かばない.横串的な知識のストックがない.

 

2.疾患を鑑別していくための適切な質問が浮かばない

上の1がままならないのだから当然のことではあるが,いくつかの鑑別が上がったところで,各疾患を確定診断や除外診断に近づけるために,どのような質問を投げれば良いのかがいまいちわからない.

 

…これはまずい.でも,一般的に医学生はどのようにしてこれらのトレーニングを積んでいるんだろう?「臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目」(外部リンクへ)を読み返してみると,「はじめに」のパートでこんな文章が書かれていた.

 

 

この文面から読み取る限り,どうやら医学生に期待されていることは「臨床実習でトレーニングしなさい」ということらしい.この点についても,今の5年生はなかなか不利な環境にあることがわかる.僕らの大学を含む多くの大学では,新型コロナウイルスの影響で,多くて数ヶ月間もの実習機会が奪われていたのだから.

 

…ただもっと言ってしまえば,実際に実習をしていた期間についても,少なくとも僕らの大学においては臨床推論をトレーニングする機会が意図して与えられていたかは疑問が残る(皆さんの大学ではどうでしょう).なぜかはわからないが,臨床の先生達はとかく病棟や手術室に学生を置きたがる一方,それらと比べると外来診察の実習にはあまり重きを置いていないように感じることがあった.振り返ってみても,今回のPost-CC OSCEのような形で臨床推論の過程を経験させてもらったことはあまり記憶にない.先生方のせいにする訳ではないが,今後はよりPost-CC OSCEを意識したトレーニングが実施されるなど,臨床実習のあり方も見直されていくことが望ましいのではないかと思う.

 

そう考えてみると,(少なくともこれまでの実習では)既に確定診断がなされている病棟の患者さん達と向き合うことが多かった僕らにとって,「初診の患者さんに診断をつける」ことを問われる今回の試験には打つ手なし…という状態でも仕方がないのでは?なんて思ってしまう.でも,何とかしなきゃいけないんですけど.とにかく,このままじゃやばいということはわかった.

 

②身体診察×臨床推論 (制限時間:5分程度)

 

ロールプレイの最中では,医療面接での質問内容や臨床推論のことで既にいっぱいいっぱいとなってしまい,そうなると身体診察の手技がおろそかになることがわかった.しかし指導医からは,「評価者からみて“適切に身体診察を行なっていない”と判断された場合,異常所見があったとしても教えてもらえない可能性がある」ということを指摘されてしまう.言われてみれば当然のことだ.Pre-CC OSCEの時にたたき込んだ手技をもう一度復習することはもちろん,ここでも鑑別に有効な身体診察を自ら考え,限られた時間内で優先順位の高い手技から進めていくことが求められている.

 

③上級医への報告(制限時間:4)

 

「上級医に報告しなかった情報は,最初から診なかったのと同じことだ」とは,指導医の言葉.先の医療面接と身体診察で得た情報を過不足なく伝えることが出来なくては,せっかく得られた所見が無駄になってしまう.さらに僕は実際のロールプレイを通じて,この4分という制限時間は場合によってすぐに足りなくなる可能性があるということがわかった.それは,繰り返し述べてきたように臨床推論を放棄した際に起こる.つまり,「ひとまず医療面接と身体診察で情報を取れるだけ取って,報告時間(4分)の最初に鑑別疾患を考えよう」という作戦をとった時だ.報告自体に2〜3分は費やすことになるため,その準備は最初の1分程度でまとめなくてはいけない.患者さんへの医療面接・身体診察と並行しながら逐一鑑別疾患を挙げていく作業に慣れておかないと,最も肝心な「鑑別すべき病態・疾患」を報告する前にタイムオーバー…という最悪の事態が発生してしまうことにもつながる.

 

 

おわりに

 

こうして整理してみると,あらためてPost-CC OSCEとは臨床現場ですぐに使えるレベルの総合力が求められている試験だと感じる.同じ“OSCE”の名がつくPre-CC OSCEが色々な意味で御作法的な試験であったのに対して,まったく対照的だ.

 

そして僕がもっとも恐れ慄(おのの)いているのは,カバーすべき症候が35も存在しているということ.それぞれの症候に対して,医療面接や身体診察を進めながら適切な鑑別疾患を挙げて…という対応が出来るようにならなくてはいけない.

 

僕の感覚では,「国試に加えて,医師になるための高いハードルがもうひとつ増えてしまった!」くらいに感じているのだけど…これは果たして杞憂なのだろうか(そうであってほしい).

 

今後のスケジュールとしては,ひとまず年内の時間を使って「学年としてどうやってPost-CC OSCEの準備を進めるか」について考えて,年明けの臨床実習再開とともに準備をスタート出来たらと考えています.その具体的な対策案について,次回のコラムでは書いていきたい.

 

ここまでお読み頂き,ありがとうございました.

 

 

参考文献:

共用試験医学系診療参加型臨床実習後OSCE(機構課題)受験の注意事項(外部リンク)

「臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目」(外部リンク)

・各大学医学部のPost-CC OSCEに関する広報資料ほか

 

 

■筆者プロフィール

大山一慶:関東にある大学の医学部5年生.慶應義塾大学法学部卒業.株式会社リクルートへ入社後,脱サラしバンドマンに.その後いくつかのキャリアを経て,現在の大学へ入学.第252回日本循環器学会関東甲信越支部Student Award最優秀賞.心電図検定3級.ディープラーニングG検定2020#1.ご連絡はmailもしくはtwitterまでどうぞ.

 

–いいんちょーの僕です。目次–

 

第11回 “Post-CC OSCE”という,事件.[後編]

第10回 “Post-CC OSCE”という,事件.[前編]

第9回 あったらいいな!QBオンラインの新機能♪

第8回 “他人(ひと)の不幸でメシを食う”

第7回 病院見学の帰路にて

第6回 朱に交わらず,いられるか?

第5回 実習再開のいま,大切にしたいこと

第4回 すぐに役立つQB実践術!

第3回 過去問を制する者は,国試を制す.

第2回 国試の準備,どうやって進める?