コラム

【いいんちょーの僕です。】第11回 “Post-CC OSCE”という,事件.[後編]

前回にひきつづき,今回もPost-CC OSCEに関する記事を綴っていきたい.

前編となる先月のコラムでは,来年が実質的な意味での初回となるだろうPost-CC OSCEのとりわけ機構課題について,どのような部分に気をつけるべきかを書いてみた.今回の後編においては,それらの留意点を踏まえた上で「具体的にどのような準備を進めていけばいいのか?」について考えていく.前回と同様,以下の内容はあくまで“Post-CC OSCEに臨む一人の学生”の私見として,未熟な点もあることを御了承の上お読みください.

3つの段階をすべて乗り越えられるか

機構課題の流れや,それぞれの内容については前回のコラムにて紹介した.同課題について,僕はこのようなイメージで捉えている.

Post-CCOSCE

ここでお伝えしたいことというのは,機構課題を乗り越えるには3つすべての段階,つまり医療面接,身体診察,上級医への報告の各段階について,確実に一段ずつ乗り越える必要があるということだ.いずれかの段階で失敗してしまうと,ゴールにたどり着くことは出来なくなってしまう.“上級医への報告”を適切に行うためには,その前段階の“医療面接”と“身体診察”から情報を適切に取得し鑑別疾患を挙げられていることが前提となるし,適切な“身体診察”の実施においても,“医療面接”が適切に行われいくつかの疾患が想定されていることが前提になるのである.

このことから,Post-CC OSCEにあたっては3つそれぞれの段階について準備をしっかり進めていくことが大切ではないかと考えている.そこで,ここからは段階別にどのような準備を行えばよいのかについて私見を述べてみたい.

Stage1 医療面接

Post-CCOSCE

医療面接を乗り越えるために必要な方法は,主に3つ挙げられる.

①症候と疾患に関するインプット

僕は今回のコラムを書くにあたって,診断学に関する複数の書籍や論文に当たった.そこで出会ったとても印象的な言葉が,「知らなければ,診れない」というものだ.言われてみれば当然のことだけれど,まず大前提として「発熱」や「腹痛」といった症候を聞いた際,下記2つのことが頭の中に入っていなければ臨床推論を進めることはできない.

a 症候から想起される疾患群

 (=患者さんの症状と徴候からおさえるべき疾患は何か?)

b 想起した疾患を鑑別するために必要な情報

 (=どんな情報があれば特定の疾患を確定or除外できるのか?)

これらは臨床推論に欠かせない素材ともいえる知識なので,国試勉強と同様のやり方で事前に頭に入れておく必要がある.

ただ考えてみると,たとえば「発熱」という症候から挙げられる疾患は数えきれないほどありそうだ.僕らはここで,症候から想起すべき疾患をどこまでカバーすればいいのか?という問題に突き当たる.そしてその答えに対するヒントが,前回も紹介した資料「臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目」(外部リンクへ)に記されている.

臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目

症候「発熱」における鑑別すべき疾患と医療面接・身体診察のポイント(上記資料より抜粋)

同資料に記載されている37症候には,それぞれ上のような表が掲載されており,そしてこれらには以下のような説明文が添えられている.

上の説明文を読む限りでは,この表の横軸にある疾患群は上に述べたa. 症候から想起される疾患群に対応し,縦軸にある項目はb. 想起した疾患を鑑別するために必要な情報に対応しているということが言えるのではないだろうか.…つまり,先ず何はさておきこれらの表を完成させることがPost-CC OSCEにおける準備の王道といっても過言ではないはずだ.その上で,それぞれの表を覚える作業を進めれば対策として万全のはず!

…だがしかし,である.やってみるとすぐにわかるけれど,機構課題の範囲である35症候の表を完成させる作業は,気が遠くなるほどに重い(僕は未だに作成途中で心が折れかけている).理由は単純にボリュームが多いことのほかに,この資料にある表はこのままの順序では非常に使いづらいという欠点があるためだ.

どういうことか?それぞれの症候には,複数の疾患をとりまとめる鑑別のキーとなるような分類項目がある.たとえば,「発熱」であれば「感染性 or 非感染性?」であったり,多くの症候では「発症様式 (突然?急性?慢性?)」などがそれに当てはまる.この点について,上の表にある疾患はそれらの分類が無視されたバラバラの順序で記載されている.そのため,意味のある表を作成するためにはそれらを再度並び替えるという作業が発生してしまうのだ.

臨床研修開始時に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目

例) 症候「発熱」の表を感染性と非感染性に分けた上で完成させた図(イメージ)

さらに加えていうと,この表に記載されている疾患さえ押さえれば100%試験を乗り越えられるかというと,その根拠はどこにもないというのが事実.作業をしながら,「あれ,この疾患はなくてもいいのかな?」と思うこともある.優先順位としてまずはこの表に記載された疾患からおさえるという作戦が最も合理的であるように思うが,もし学習途中で明らかに重要と感じる疾患があれば,表に書き加えていく作業も必要かもしれない.

以上から,ひとりの力でこれらの表を完成させるのは途方もないレベルの労力がいるということをお分かり頂けるかもしれない.そのため,この作業に着手する際には,何名かで手分けをしながら作成していくことが賢明であるように思う.

また,ここに書かれてある表を完成させるという手段のほかにも,幸いなことに臨床推論に必要な重要知識をインプットできる優れた教材や書籍が用意されている.特に,メディックメディア社の「鑑別!1st impression」や,富山大学総合診療部の先生方が開発された「診断力を鍛える!症候足し算」(外部リンクへ)などは,実際に手に取ってみて自学自習や友人間の口頭試問にうってつけの教材だと感じた.ぜひ参考にしてみてください.

②学生間でのロールプレイ

臨床推論に必要な知識がある程度備わっている状態であれば,実践形式で医療面接をしていくことが能力の上達にもつながるし,経験値による自信にもつながるのではないか.

その際,実際の患者さんにお願いをさせて頂くことが理想的だと思うが,ただそのような機会にどれほど恵まれている環境であったとしても,機構課題の範囲である35症候について網羅することは難しいと思われる.そこで,実際の患者さんを想定した学生間でのロールプレイを繰り返し行うことが大切になってくる.

有意義なロールプレイを行う上で重要となるのは,リアルな患者さんのシナリオである.年齢や性別に始まり,症候の詳細や一般情報などもリアルなものであるほど,本番に近い臨床推論を経験できる.僕らの大学では,これら患者さんのシナリオをどれだけリアルに作成することができるかについて,ロールプレイの一環として重点を置かれていた.その準備の際には各医学書のほか,これまでの臨床実習で作成した症例レポートなどが非常に参考になったし,国試の問題文などから引っ張ってくるのもいいかもしれない.

③臨床実習で実際に面接させて頂く

これは実習現場の先生の指導方針や,そもそも患者さんがいらっしゃるかどうか,また学生による医療面接に同意を頂けるかどうかなど外部の要因が大きく影響するため,僕ら学生の意欲や希望だけではどうにもならないことがある.

ただ,もし実際に診断のついていない患者さんとコミュニケーションをとりながら鑑別を進めていく過程を経験できたら,そこでの学びはロールプレイとは比べられないほど大きなものになるに違いないと思う.僕自身はPost-CC OSCEまでの約半年間について,できる限りそのような経験をさせてもらえるよう積極的に希望を伝えていきたいと考えている.

Stage2 身体診察

Pcc-OSCE

身体診察を乗り越えるために必要な方法は,主に3つ挙げられる.

①疾患と身体所見の紐付け

こちらでも,文献を読んでいる際に印象的だった言葉を紹介する.

ここに書かれてあることがすべてとも言えるが,つまり身体所見を適切に得るためには,まず医療面接により鑑別疾患をいくつか想定できていることが前提となっており,身体診察はそれらをより確定あるいは除外診断に近づける目的で進めるものという意識が大切になってくる.

このことから,各症候でおさえるべき疾患群については,鑑別に必要な病歴情報と同様に身体所見上の特徴も紐づけてインプットを行なっておかないと,本番では太刀打ちできないということがわかる.

ただし機構課題のルールでは,身体診察と並行しながら,再び患者さんに医療面接の続きを行うことも可能となっている.身体診察の最中に想定していなかった所見を確認し,それを踏まえて追加で患者さんに質問を行うということが可能だ.ただやはり,5分程度に限られた身体診察の時間内で再び医療面接に戻っていくことは少なからず勇気のいることであるため,このような想定外の事態は最小限に留められるよう準備して臨みたい.

Pre-CC OSCEの総復習

仮に,疾患に関する身体所見の知識を万全にできたとして,次に立ちはだかるのは“その所見を取るための手技を行えるか?”ということになる.これは前回紹介した指導医の言葉で,「評価者からみて“適切に身体診察を行なっていない”と判断された場合,異常所見があったとしても教えてもらえない可能性がある」ということを頭に入れておきたい.

この“適切な手技の実施”という点については,準備段階において知識のインプットなどが優先されてしまい,僕らにとって最も疎かになってしまいがちな部分である気がしている.迷いなく手技に臨めるように,すくなくとも昨年のPre-CC OSCEで学習した項目は友人間で確認し合いながら総復習しておきたい.参考として,最新版「診療参加型臨床実習に参加する学生に必要とされる技能と態度に関する学修・評価項目(第4.0版)」(外部リンクへ)のリンクを貼っておきます.

臨床実習で診察させて頂く

医療面接と同様,実際の患者さんに身体診察をさせて頂く機会に恵まれた場合,そこで得られた所見や気づきは記憶に深く刻まれるものになるはずだ.医療面接からの連続した流れでトライすることが出来れば理想的だが,身体診察のみの実施であっても学習効果は非常に大きいのではないだろうか.初診に限らず,病棟においても身体診察の機会を積極的に活用することが大切と考えられる.

Stage3 上級医への報告

Post-CCOSCE

そして最終段階である,上級医への報告を乗り越えるために必要な方法も,主に3つあると考えられる.

①定型フォーマットの作成

おそらく,このプレゼンテーションのパートは僕を含む多くの学生が苦しむことになると思っている.なぜなら,医療面接と身体診察でどれだけ有用な情報を得ることができたとしても,また適切な鑑別疾患を思い浮かべられたとしても,それらを「限られた時間内に」「抜け漏れなく」「理路整然と」話すことについては,圧倒的に経験が不足しているからだ.ここでも,前回のコラムで紹介した「上級医に報告しなかった情報は,最初から診なかったのと同じことだ」という指導医の言葉を忘れないようにしたい.

それを克服するための第一の方法として挙げたのが,考えなくていい部分については定型化してしまおうという作戦だ.これは小手先かもしれないが,考えなければいけない内容に集中を向けることができるという点でとても有用ではないかと思う.ここでは,とある症例報告を元にして作成した報告内容のサンプルを共有するので,よかったら参考にして下さい.

②プレゼンテーションの練習

定型化できる箇所を頭にたたき込んだのなら,あとはとにかく練習量がものをいうように思う.この練習について,友人間で数多くのロールプレイ(医療面接→身体診察→上級医への報告の流れ)を重ねることができるのならそれが望ましい.けれどそれが叶わない状況であっても,プレゼンテーションの練習をすることは可能だ.むしろ僕の指導医は,プレゼンテーションだけを切り離して念入りに練習することを推奨していた.

例えば,他の学生達によるロールプレイを見学している状況でも,そこで得られた医療面接や身体診察の情報を元に,報告内容だけは自分で作成してみるというトレーニングも出来る.僕の指導医はこれを応用して,“他の学生間のロールプレイを録画しておき,医療面接および身体診察までの映像を見た上でプレゼンテーションを自分で作成する”という練習方法も提案してくれた.

あるいは,過去に自身が作成した症例レポートを元に,報告内容を作成してみることも出来るかもしれない.とにかく,インプットした情報をアウトプットするという練習を意識して繰り返すことで,定型化された文章も体に馴染み,本番でも慌てずにアウトプットが行えるようになるのではないだろうか.

③臨床実習での実践

もし,臨床実習において患者さんの医療面接,身体診察を任せてもらうことができ,さらにそれらの報告までトライさせてくれる環境に恵まれているならば,その機会を活用しない手はないと思う.また,初診ではなく病棟の患者さんを担当する場合においても,カンファレンスなどで症例報告をする際にはPost-CC OSCEを意識しながら準備に臨むことで,経験値を大きく伸ばすことにつながる.そしてその結果として,機構課題本番にも落ち着いて対応することが可能になるのではないだろうか.

そして,最後に一点.Post-CC OSCEでは,医療面接や身体診察で得ていない情報を上級医に報告してしまった場合,極めて大きな減点がなされるということを聞いた(例: 喫煙歴について確認していないのに「喫煙習慣なし」と伝えたり,聴診していない呼吸音の所見を述べたりすること).これは紛れもない虚偽の報告になるので,絶対にやっていはいけないことであることは明白だ.ただ,試験本番で極度に緊張してしまっている場合,うっかり口を滑らせてしまう可能性もゼロとは言い切れないと,個人的には感じている.この評価基準のことを聞いてなおさら,プレゼンテーションの実践は“臨床実習”というなるべく本番に近い環境で励むのが吉だと思った.

おわりに

Post-CC OSCEの実施は来年の夏頃に予定されているので,それまでには半年以上の期間がある.まだ焦る必要はないと感じる一方,臨床実習や国試勉強が本格化する中で準備すべきことは決して少なくないなと気が引き締まる思いでいる.医師国家試験の合格に向けて足元をすくわれないように,今から少しずつやれることを進めていきたいと思う.これを読んでくださった方にとって,少しでもPost-CC OSCEの準備の役に立てたら嬉しい.

ここまで読んでくださり,ありがとうございました.

***

なお,今年2月から始まったこの連載記事もあっという間に11回目を迎え,今回が2020年最後の回となりました.ここまでお付き合い下さった読者の皆さん,本当にありがとうございました.

ひきつづき,これからもよろしくお願いします.

メリー・クリスマス!そして,よいお年をお迎えください.

■筆者プロフィール

I.O.:関東の医学生.1回目の大学で法学部を卒業後、会社員や音楽活動などを経て医学部へ入学.日本循環器学会関東甲信越支部Student Award最優秀賞.心電図検定3級.ディープラーニングG検定2020#1.

–いいんちょーの僕です。目次–

第17回 国試の結果とご挨拶 (付録:Post-CC OSCE対策のコツ)

第16回 国試、直前。

第15回 「きく」ということについて

第14回 “AYAがん”を経験するということ vol.3

第13回 “AYAがん”を経験するということ vol.2

第12回 “AYAがん”を経験するということ vol.1

第11回 “Post-CC OSCE”という,事件.[後編]

第10回 “Post-CC OSCE”という,事件.[前編]

第9回 あったらいいな!QBオンラインの新機能♪

第8回 “他人(ひと)の不幸でメシを食う”

第7回 病院見学の帰路にて

第6回 朱に交わらず,いられるか?

第5回 実習再開のいま,大切にしたいこと

第4回 すぐに役立つQB実践術!

第3回 過去問を制する者は,国試を制す.

第2回 国試の準備,どうやって進める?

第1回 国試の準備,いつから始める?

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