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【いいんちょーの僕です。】第7回 病院見学の帰路にて

 

プロローグ

 

フロントウィンドウ越しに夕暮れの空を仰ぎながら,僕は高速道路を走っている.

 

これまで,数時間ものあいだ音楽の鳴らない車を走らせたことは記憶にない.最後の病院を出発してまもなく,僕はスピーカーの音量をオフにした.

 

大学卒業後の研修先を探すため,夏休みを利用して病院を渡り歩いた数日間.

その帰り道,僕は静かな空間で今後について頭を巡らせたいと感じていた.

 

人生には,予想しなかったようなことがまま起こる.最も関心の高かった病院の印象が決して良いものではなく,「念のために…」という感覚で伺った先が信じられない程に好印象であったとか,たとえばそんな具合にだ.

 

僕はハンドルを握りながら,ここ数日に起きた出来事をひとつひとつ紐解き,大学卒業後の進路について自分なりに正しい方向を見定めようとしていた.

 

 

ダイアローグ

 

これを読んでいる人の多くが社会の一歩手前にいる学生であることを想定して,以下の問いかけをさせてください.言葉を直接交わせないことは残念だけれど,きっと色々な答えがあるのではないだろうか.

 

 

この質問に対して迷いなく後者を選ぶ人は,自分が幸せになれる方法を知っている人なのかもしれないと僕は思う.ここでポイントにしたいのは,「自分で感じたこと」を選択の基準にしているかどうか.だから「自分がいいと感じた」のであれば,仮にその働き先が有名であっても一流であっても問題にはならない.

 

僕が問題だと感じるのは,「自分の感覚よりも社会的な評判を優先する」「他者や世間の尺度で人生を選択する」ことにある.「周りがいいと言っているのだから,自分にとってもいいはずだ」というフィルターをかけて物事を判断することは,もしかすると幸せを損なうリスクを伴うかもしれない.

 

なぜこのようなことを思うのか?それは僕自身が上のような価値観に縛られていた人間で,それ故の苦しみをこれまでに経験してきたからだった.

 

 

モノローグ

 

過去を振り返ると,幼少時代から自信を持つことに苦労した僕はそれを克服するための活動にいつも精力的,もとい必死だった.周囲から認められるためのわかりやすい結果を積み上げていくことで,いつか自分に自信がつくものと思っていたし,何よりそれが自分の幸せにつながるはずと信じて疑わなかった.

 

中でも所属する組織や団体については,自身の能力や価値を世間に向けて示すことのできる最も効果的な権威のひとつだと信じていたように思う.そのため,何か選考試験の類がある際にはいつでも,ヒエラルキーのようなものを意識してはできる限りその上層へ食い込まなければと必死だった.

 

まさに「自分が望んでいるかどうか」よりも先に,「他者に認められるかどうか」という基準で進む先を選んでいたのだ.

 

過去へのこのような解釈は,まとまった時間が経過したからこそ得た最近のものだ.当時はひとつひとつの選択について,様々な理由を作り出してはそのすべてが自身の心からの望みだと信じていた.人の脳みそはよく出来ていて,つくり出したフィクションをあたかも真実のように思い込むことができる.かつての僕は,「自分にはやりたいことがあり,肩書きを得ることはそのための手段だ」と本気で思っていた.実際はそこにやりたいことなどなく,肩書きを得ることにただ精一杯だったのだけれど.

 

果たして,上記のようなスタンスで世間に示す「肩書き」を積み増すことは出来ても,組織や団体による権威を得ることはできても,そこから僕自身に自信が生まれることはなかった.そして,それらが僕に幸せを与えてくれたことも決してなかったと言っていい.実際に与えられたものといえば,選考の類を潜り抜けた瞬間に生まれる束の間の達成感と安堵,そして常にうっすらと消えることのない,言いようのない不安と焦燥だった.それこそが,「他者に認められる」ことを優先し「自分の感覚」を蔑ろにしてきた結果,副作用のように生じた苦しみだったのではないかと考えている.

 

「自分は本当は何を望んでいるのか?」

 

このことを無視したまま,幸せを感じることは出来ない.それが自身なりの苦悩を重ねた上でたどり着いた,現時点での僕の結論だ.

 

ただ日々を過ごす中で,これまでに染み付いた価値観や考え方とはそう簡単に決別できるものではないと感じさせられることも多い.良し悪しはさておき,これらは当時の自分なりに事情があり,止むを得ず必死で身につけた処世術なのだ.簡単に手放せないのもしかたがないと,その事実を受け入れることにしている.

 

その上でなお,自身から湧き出す欲求に耳を傾け続けること.そして,拾い上げた欲求を自分のために実践してあげること.かなり面倒な作業ではあるけれど,そこには新鮮な,何とも表せない気づきや喜びがあったりするものです.

 

 

…車を走らせていると,景色につられ様々な思考が浮かんでは消えていく.

 

 

エピローグ

 

次第に夕闇が色濃くなる中,僕は病院ごとの規模や特色についてパズルのように整理を進めながら,それと並行して自身が求めていることを辛抱強く引き出す作業をつづけていた.

 

“規模も大きいし,知名度もあるしやっぱり…”

“ほらほらまたそんなこと考えて.それより自分が感じたことはさ…”

 

車内には,高速道路を滑るタイヤの音だけが止むことなく響いている.

 

 

 

■筆者プロフィール

大山一慶:関東にある大学の医学部5年生.慶應義塾大学法学部卒業.株式会社リクルートへ入社後,脱サラしバンドマンに.その後いくつかのキャリアを経て,現在の大学へ入学.第252回日本循環器学会関東甲信越支部Student Award最優秀賞.心電図検定3級.ディープラーニングG検定2020#1.ご連絡はmailもしくはtwitterまでどうぞ.