【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(17)システマティックレビュー
こんにちは,編集部Fです.連載でお送りしている,
「平成30年版医師国家試験出題基準」(適用は112回国試から)の新ワード紹介.
公衆衛生の第5弾は疫学分野に追加された,「システマティックレビュー」です.
目次
システマティックレビュー・メタアナリシスとは?
システマティックレビューとは,特定の研究テーマに関する研究(エビデンス)を
体系的・網羅的に収集し,評価・統合するものです.
信頼性の高いエビデンスを選択し,重みをつけて統合することで,
バイアスや偶然の影響を排除し,より信頼性の高い結果を導き出すことができます.
システマティックレビューの流れ
(1)研究テーマの設定
(2)エビデンスをもれなく収集
(3)各エビデンスの妥当性評価
(4)メタアナリシスによる統計学的解析(定量的な結果表現)
(5)結果の解釈
(6)編集と更新
メタアナリシスは,互いに独立で類似している過去の複数の研究結果を,
オッズ比などを用いて定量的に統合し,一つの結果にまとめあげる統計手法です.
109回での出題を見てみましょう.
109C9
研究を行う本人が患者や対象者の集団に働きかけて直接データを収集しないのはどれか.
a コホート研究
b 症例対照研究
c ランダム化比較試験
d ケースシリーズ研究
e メタ分析〈メタアナリシス〉
メタアナリシスは過去に実施された研究結果を利用するので,
正解はeとなります.
システマティックレビュー・メタアナリシスの意義
ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー・メタアナリシスは,
最もエビデンスレベルが高い研究デザインとされています.
しかし,RCTはその性質上,大規模な試験を行うことが困難であり,
十分な標本サイズ(sample size)の確保が容易ではないのが欠点です.
よって,以下のような問題が生まれてきます.
・信頼区間が広くなるため,複数ある研究結果が一定しない
・検出力が低いため有意差が認められず,明確な結論が出せない
そこで,メタアナリシスにより複数のRCTの結果を統合します.
標本サイズを大きくし,信頼区間を狭めることにより,
個々の研究結果からは統計的に有意な結論を出せなくても,
全体として明確な結論を導くことが可能となります.
107回での出題で確認してみましょう.
107C12
ある研究結果の表を示す.
この研究方法はどれか.
a 横断研究
b コホート研究
c 症例対照研究
d ランダム化比較試験〈RCT〉
e メタ分析〈メタアナリシス〉
この問題の表は,メタアナリシスにおける各研究の結果と統合した結果を
視覚的に表したもので,フォレストプロット(forest plot)と呼ばれています.
正解はeです.
もう少し詳しく解説しますと,
■は各研究のオッズ比で,■の大きさは各研究の重み,
■の左右の線は信頼区間を示します.
一番下の◆が,4つの研究の結果を統合したものです.
この問題の例の場合,単独の研究では,
信頼区間がオッズ比=1の線を跨いでいるものもあり,
治療Aと治療Bの間に有意差が認められる,とは言い切れません.
(オッズ比=1なら「治療Aと治療Bの効果に差がない」ことになります)
しかし,複数の研究結果を統合したメタアナリシスでは,
治療Aが有意に優れているという結果が導かれています.
なお,111回必修での出題(111F5)も,ほぼ同様の考え方で正解を導くことができます.
112〜116回での出題は?
115回で「ランダム化比較試験」はメタアナリシスの一種かどうかが問われました.
両者は混同しやすいですが,異なるものです!
◇◇◇◇◇◇◇◇
EBMに関する問題は近年毎年のように出題されており,
今日紹介したメタアナリシスの他,
「診療ガイドライン」「研究デザインとエビデンスの強さ」が頻出です.
知っていれば解ける問題が多いため,
過去問での対策はしっかりやっておいてください!
(編集部F)
■第1回:適用はいつから?
■第2回:何が変わったのか~問題数100問減の影響は?~
■新ワード紹介(1)非閉塞性腸管虚血症(NOMI)
■新ワード紹介(2)胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)
■新ワード紹介(3)腫瘍性低リン血症性骨軟化症(TIO)
■新ワード紹介(4)nephrogenic systemic fibrosis(NSF)
■老年医学にかかわる新ワード4つ
■新ワード紹介(5)サルコペニア
■新ワード紹介(6)運動器不安定症
■新ワード紹介(7)運動器症候群(ロコモティブシンドローム)
■新ワード紹介(8)フレイル
■新ワード紹介(9)家族性低尿酸血症
■新ワード紹介(10)タンデムマス・スクリーニング
■新ワード紹介(11)ジカウイルス感染症
■新ワード紹介(12)持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)
■新ワード紹介(13)アシネトバクター感染症
■新ワード紹介(14)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
■新ワード紹介(15)難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)
■新ワード紹介(16)ジュネーブ宣言
■新ワード紹介(17)システマティックレビュー
■新ワード紹介(18)産科医療補償制度
■新ワード紹介(19)医療事故調査制度
■新ワード紹介(20)地域医療構想/地域包括ケアシステム
■新ワード紹介(21)好酸球性食道炎(EoE)
■新ワード紹介(22)ACTH非依存性両側副腎皮質大結節性過形成(AIMAH)
■新ワード紹介(23)被包化膵臓壊死(WON)
■新ワード紹介(24)高IgM症候群
■新ワード紹介(25)重症先天性好中球減少症(SCN)
■新ワード紹介(26)家族性地中海熱(自己炎症性疾患)
■新ワード紹介(27)進行性多巣性白質脳症(PML)
■新ワード紹介(28)ダメージコントロール(DCS)
■新ワード紹介(29)ロービジョンケア