【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(18)産科医療補償制度
こんにちは,編集部Fです.連載でお送りしている,「平成30年版医師国家試験出題基準」の新ワード紹介.公衆衛生の第6弾は「産科医療補償制度」です.
制度自体は2009年に開始し7年以上経過していますが,出題基準には今回の改定により,“必修の基本的事項”として新たに追加されました.過去に出題はありませんが,目的や仕組みなどの要点はおさえておきましょう!
参考:公益財団法人 日本医療機能評価機構による産科医療補償制度のウェブサイト
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/index.html
目次
創設の背景と目的
医療訴訟では,“医師に過失があったかどうか”が主な争点となります.しかし,分娩時の脳性麻痺は過失の有無を立証するのが困難なケースが多く,裁判が長期化するなど,医師・患者双方に大きな負担となっていました.
さらに,訴訟を恐れ医師が産科を敬遠→産科医が不足することによる産科医療の崩壊が懸念されたこともあり,産科医療の環境を整備する一環として,無過失補償制度の創設に向けた検討が進められました.
そして2009年1月,分娩時の事故などにより重度の脳性麻痺を発症した児に対し,医師の過失の有無に関わらず補償金を支払う,産科医療補償制度が始まりました.
本制度は,脳性麻痺児・家族の経済的負担を速やかに補償するとともに,原因分析を行い,再発防止に資する情報を提供することによる紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を目的としています.
制度の仕組み
制度の運営主体である日本医療機能評価機構が,制度に加入している分娩機関から掛金を集め,損害保険会社に保険料を支払い,保険契約を結びます(被保険者は分娩機関).
補償対象となるのは,以下の3つの条件をすべて満たした児です.
- [2022年1月1日以降に出生した場合]出生体重1,400g以上かつ,在胎週数32週以上(または在胎週数28週以上で所定の要件を満たす)
[2015年1月1日から2021年12月31日までに出生した場合]在胎週数28週以上- 先天性や新生児期の要因によらない脳性麻痺
- 身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺
補償対象に該当する場合,妊産婦は分娩機関を通して,日本医療機能評価機構に申請書を提出します.補償対象であると認定されると,以下の金額が保険金より支払われます.
準備一時金(600万円)+補償分割金(年120万円×20回)=3,000万円
成果と課題
紛争の防止・早期解決という観点から,現在の成果を見てみましょう.最高裁判所が公表している「医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数」をみると,全診療科目合計でも近年,訴訟件数は減少傾向にありますが,産婦人科は特に目立って減少しています.
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/file1/1905204shinryokamoku.pdf
産科医療の質の向上,という観点からはどうでしょうか.日本医療機能評価機構は原因分析の結果から毎年,再発防止に関する報告書をまとめ,公表しています.
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/prevention/index.html
これまでの原因分析で原因が明らかになったものは約6.5割で,原因不明のものが約3.5割となっています.脳性麻痺の原因特定は依然として難しいですが,原因をこうしてまとめることができるようになったのは,大きな成果です.今後,脳性麻痺の原因・発症予防についてさらなる研究が進み,産科医療の質が向上することが期待されます.
112〜116回国試での出題状況は?
112〜116回での出題はありませんでしたが116回国試では誤答選択肢として出題されました.
今回の出題基準改定で,医療安全分野では「医療事故調査制度」も同じく“必修の基本的事項”として追加されました.次回はそちらを紹介したいと思います!
(編集部F)
■第1回:適用はいつから?
■第2回:何が変わったのか~問題数100問減の影響は?~
■新ワード紹介(1)非閉塞性腸管虚血症(NOMI)
■新ワード紹介(2)胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)
■新ワード紹介(3)腫瘍性低リン血症性骨軟化症(TIO)
■新ワード紹介(4)nephrogenic systemic fibrosis(NSF)
■老年医学にかかわる新ワード4つ
■新ワード紹介(5)サルコペニア
■新ワード紹介(6)運動器不安定症
■新ワード紹介(7)運動器症候群(ロコモティブシンドローム)
■新ワード紹介(8)フレイル
■新ワード紹介(9)家族性低尿酸血症
■新ワード紹介(10)タンデムマス・スクリーニング
■新ワード紹介(11)ジカウイルス感染症
■新ワード紹介(12)持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)
■新ワード紹介(13)アシネトバクター感染症
■新ワード紹介(14)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
■新ワード紹介(15)難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)
■新ワード紹介(16)ジュネーブ宣言
■新ワード紹介(17)システマティックレビュー
■新ワード紹介(18)産科医療補償制度
■新ワード紹介(19)医療事故調査制度
■新ワード紹介(20)地域医療構想/地域包括ケアシステム
■新ワード紹介(21)好酸球性食道炎(EoE)
■新ワード紹介(22)ACTH非依存性両側副腎皮質大結節性過形成(AIMAH)
■新ワード紹介(23)被包化膵臓壊死(WON)
■新ワード紹介(24)高IgM症候群
■新ワード紹介(25)重症先天性好中球減少症(SCN)
■新ワード紹介(26)家族性地中海熱(自己炎症性疾患)
■新ワード紹介(27)進行性多巣性白質脳症(PML)
■新ワード紹介(28)ダメージコントロール(DCS)
■新ワード紹介(29)ロービジョンケア