【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(6)運動器不安定症
編集Aです.
今日は,医学総論Ⅳ「生殖,発生,成長,発達,加齢」の8-E「高齢者の疾患の特徴と頻度の変化」から,4「日常生活障害」の備考として記載された,運動器不安定症を取り上げます.
目次
運動器不安定症
日本整形外科学会,日本運動器リハビリテーション学会,日本臨床整形外科学会によって,2006年4月に正式に提唱された疾患です.英語では「MADS(musculoskeletal ambulation disorder symptom complex)」とよばれます.
【定義(2016年3月修正)】
高齢化にともなって運動機能低下をきたす運動器疾患によりバランス能力および移動歩行能力の低下が生じ,閉じこもり,転倒リスクが高まった状態
【診断基準(2016年3月修正)】
高齢化にともなって運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態の既往があるか,または罹患している者で,日常生活自立度ならびに運動機能が機能評価基準に該当する者(詳細は後述)
…要は,(先日の導入編でも述べたのでしつこいですが)
ふらつく,転倒しやすい,関節痛があって歩きづらい,容易に骨折しやすい(=バランス能力および移動歩行能力の低下)などといった,加齢に伴う症状(病態)をきちんと「疾患」としてとらえ,運動療法(リハビリ)などの積極的な治療を行い重症化を予防しよう,ということです.
診断基準を見てわかるとおり,運動器不安定症と診断するには,
背景に運動器機能の低下をきたす疾患(またはその既往)が存在すること,
運動機能の評価(日常生活自立度の判定,運動機能テストによる機能評価)
が必要です.
歩行が困難な,いわゆる寝たきり(日常生活自立度のランクB・Cに相当)に該当する方は含まれません.
では,診断基準の詳細をみてみましょう.
「運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態」と「機能評価基準」の内容は下記のとおりです.
■高齢化にともなって運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態■
1)脊椎圧迫骨折および各種脊柱変型(亀背,高度腰椎後弯・側弯など)
2)下肢の骨折(大腿骨頸部骨折など)
3)骨粗鬆症
4)変形性関節症(股関節,膝関節など)
5)腰部脊柱管狭窄症
6)脊髄障害 (頸部脊髄症, 脊髄損傷など)
7)神経・筋疾患
8)関節リウマチおよび各種関節炎
9)下肢切断後
10)長期臥床後の運動器廃用
11)高頻度転倒者
■機能評価基準■
1.日常生活自立度判定基準ランクJまたはAに相当
2.運動機能:1)または2)
1)開眼片脚起立時:15秒未満
2)3m timed up-and-go(TUG)テスト:11秒以上
注:日常生活自立度ランク
J:生活自立 独力で外出できる
A:準寝たきり 介助なしには外出できない
(以上,日本運動器科学会サイトより引用)
評価基準内に出てくる開眼片脚起立時(間)とTUGテストは,いずれも高齢者の身体機能評価方法として使用されています.
「開眼片脚起立時間」は,両手を腰に当て,片脚を床から5cmくらいあげた状態で立っていられる時間のこと.身体が揺れて倒れそうになるか,足が床に付いてしまうまでの時間を測定します.
TUG(タイムアップアンドゴー)テストは,椅子に深く座り,背筋を伸ばした状態(肘かけがある椅子では肘かけに手をおく/肘かけがない椅子では手を膝の上におく)からスタートし,無理のない早さで歩き,3メートル先の目印で折り返し,また最初の姿勢に戻るまでの時間を測る方法です.
(いずれも,詳細は日本整形外科学会のサイトをご覧ください.)
112〜116回医師国家試験での出題状況は?
112〜116回国試での出題はありませんでした.
運動器不安定症の疾患概念,予防の重要性はもちろん,加齢現象を医学的に“測定”する方法として,これら身体機能の検査・評価方法をおさえておきましょう.
(編集部A)
■第1回:適用はいつから?
■第2回:何が変わったのか~問題数100問減の影響は?~
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■新ワード紹介(4)nephrogenic systemic fibrosis(NSF)
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