【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(8)フレイル
編集M.Dです.今日は,老年医学特集の最終回.
医学総論VII「診察」→2B7「介護の必要度」の備考欄に追加された「フレイル(の評価)」です.
目次
フレイル(frailty)
日本老年医学会が2014年5月に提唱した名称です.これまで「虚弱」とよばれてきた概念ですが,最近は「虚弱」の意味・概念そのものがより深く議論されるようにもなりました.
そのため,改めて日本老年医学会が「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す“frailty”の日本語訳として「フレイル」を提唱しました.
その後,
「要介護状態に至る前段階として位置づけられるが,身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく,自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態」
と定義されています.
また,フレイルが提唱された際に,医療・介護従事者に対して
・フレイルの概念を正しく理解すること
・予防に積極的に取り組むこと
をよびかけています.
人は誰もが,加齢とともに身体能力が低下していきます.日常生活に必要なことが自力でできなくなると「要介護」ですが,その手前,つまり日常生活は自身の身体能力で送れているものの,健康を崩しやすくなったり,精神的に落ち込みやすくなったり…
このような状態が「フレイル」にあてはまります.
上記の文章ではわかりづらいですが,身体的な側面(筋力低下・歩行困難など)だけでなく,認知機能や精神的・心理的側面,さらに社会的な要素(一人暮らし・貧困など)も含んでいることがポイントです.
“可逆性”であり,適切な対策や予防を行えば,フレイルから脱することができると考えられています.
なぜフレイルが重視されているのか.それは,フレイルが病態の予後,外科手術の適応,死亡の予測因子になることが明らかになってきたからです.ストレスへの反応性も高いため,薬物療法のレジメンなどを慎重に検討しなければいけないこともあります.
そのため,フレイルかどうかを早期かつ適切に見極める必要があるのです.
現在,フレイルの診断方法には統一された基準がありませんが,Friedらの概念(表現型モデル)に基づくCardiovascular Health Study基準(CHS基準)と,Rookwoodらの概念(欠損累積モデル)に基づくFrailty Indexが主要な方法です.
CHS基準は、身体的フレイルの代表的な診断法と位置づけられていて、修正した改訂日本版CHS基準(J-CHS)が提唱されています.
①体重減少
②筋力低下
③疲労感
④歩行速度の低下
⑤身体活動の低下
の5項目中3項目以上に該当するものをフレイルとみなし,1または2項目に該当すればプレフレイルと判断します.
参考:国立長寿医療研究センター
しかし,この基準で拾いきれない症例も多く,さらに踏み込んだ診断基準の作成が待たれています.各疾患との関連も議論されており,例えば,糖尿病ではフレイルになりやすい,という報告が増えています.
フレイルの予防のために必要なのは適度な運動と適切な食事です.病態の進行を止めて,要介護状態に陥るのを防ぐことが目的です.いろいろと議論がなされていますので,いくつか資料をご紹介します.理解を深めたい方は,ぜひ読んでみてください.
https://www.arterial-stiffness.com/pdf/no21/046-047.pdf
https://medicalnote.jp/contents/160309-003-VD
112〜116回での出題
112,113回,116回国試で「フレイル」が出題されました.また,115B1では選択肢にフレイルが登場しました.今後も出題が予想されます.問題を確認しておきましょう.
※mediLinkIDを持っている方はQBオンラインで問題を見ることができます.
(編集部M.D)
■第1回:適用はいつから?
■第2回:何が変わったのか~問題数100問減の影響は?~
■新ワード紹介(1)非閉塞性腸管虚血症(NOMI)
■新ワード紹介(2)胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)
■新ワード紹介(3)腫瘍性低リン血症性骨軟化症(TIO)
■新ワード紹介(4)nephrogenic systemic fibrosis(NSF)
■老年医学にかかわる新ワード4つ
■新ワード紹介(5)サルコペニア
■新ワード紹介(6)運動器不安定症
■新ワード紹介(7)運動器症候群(ロコモティブシンドローム)
■新ワード紹介(8)フレイル
■新ワード紹介(9)家族性低尿酸血症
■新ワード紹介(10)タンデムマス・スクリーニング
■新ワード紹介(11)ジカウイルス感染症
■新ワード紹介(12)持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)
■新ワード紹介(13)アシネトバクター感染症
■新ワード紹介(14)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
■新ワード紹介(15)難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)
■新ワード紹介(16)ジュネーブ宣言
■新ワード紹介(17)システマティックレビュー
■新ワード紹介(18)産科医療補償制度
■新ワード紹介(19)医療事故調査制度
■新ワード紹介(20)地域医療構想/地域包括ケアシステム
■新ワード紹介(21)好酸球性食道炎(EoE)
■新ワード紹介(22)ACTH非依存性両側副腎皮質大結節性過形成(AIMAH)
■新ワード紹介(23)被包化膵臓壊死(WON)
■新ワード紹介(24)高IgM症候群
■新ワード紹介(25)重症先天性好中球減少症(SCN)
■新ワード紹介(26)家族性地中海熱(自己炎症性疾患)
■新ワード紹介(27)進行性多巣性白質脳症(PML)
■新ワード紹介(28)ダメージコントロール(DCS)
■新ワード紹介(29)ロービジョンケア