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【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(27)進行性多巣性白質脳症(PML)
編集Kです.
「平成30年版医師国家試験出題基準」(適用は112回国試から)に
新たに加わった用語をピックアップしてご紹介しています.
今日は,神経・運動器疾患の領域からのピックアップです.
医学各論IX 3-A「(神経・運動器の)ウイルス感染症」の1つとして追加された「進行性多巣性白質脳症」です.
新しい概念というわけではなく,
「イヤーノート」や「病気がみえる」でも随分前から掲載している疾患ですが,
これまで医師国試出題基準には入っていなかったんですね.
たしかに国試では,まだ正答として出題されたことはありません.
しかし今後はいつ出題されてもおかしくないので,特徴を広く学んでおきましょう.
目次
進行性多巣性白質脳症
(PML:progressive multifocal leukoencephalopathy)
PMLは,無症候性に感染しているJCウイルスが
宿主の免疫能低下によって病原性の高いウイルスに変異し,
脳細胞に感染して脱髄を引き起こす疾患です.
原因となるJCウイルスは,大半の健常成人の腎臓に潜伏感染しているのですが,
免疫能が低下すると,再活性化を起こすことがあります.
PMLは,この「JCウイルスの再活性化」が原因で発症する疾患です.
免疫能低下といえば,
●HIV感染症,悪性腫瘍,自己免疫疾患への罹患
●ステロイドや免疫抑制薬などの薬剤投与
などが思い浮かぶでしょうか.
近年は,日本でもHIV感染症(AIDS)の発症例増加が問題になっており,
PMLも,AIDSに合併する例が一番多いとされているのですが,
それよりも近年,最も注目されているのが
「生物学的製剤の投与」によるものです.
近年の生物学的製剤の普及とともに急増し,問題になっているのです.
特に注目されているのが,多発性硬化症の治療薬である
抗モノクローナル抗体「ナタリズマブ」によるもの.
「抗モノクローナル抗体関連PML」(monoclonal antibody associated-PML)と名付けられるほどです.
多発性硬化症の治療薬,特に“再発予防薬”は,近年研究開発がめざましく,
ナタリズマブも大いに期待されて登場した新薬なのですが,
残念ながらその副作用が問題になっており,その関連でPMLもしばしば話題にあがるようになりました.
十分な注意喚起が促されてはいますが,
今後も薬剤性のPML発症例は増加すると予想されています.
PMLには有効な治療法がなく,
数ヵ月のうちに無動性無言に至り,多くは10ヵ月以内に死に至るとされています.
最近は早期からの診断・治療により,進行を遅らせることもできるようになっていますが,
依然として,予後不良の疾患です.
主な病変部位は大脳・小脳・脳幹で,
脱髄巣によって,認知機能障害,構音障害,片麻痺,小脳症状,失語,精神症状など,
非常に多彩な臨床症状を示します
(視神経や脊髄は障害されません).
MRI画像は病名どおり「多巣性」で,
白質に,大小不同・癒合を呈する,不整形な病巣を多数認めます.
特に拡散強調画像では,時間経過に伴い病変の信号変化が乏しくなるため
病変の拡大に伴ってリング状の高信号病変を呈するようになることが特徴的です.
最近の国試でも,多発性硬化症の画像問題の際に
PMLも間違い選択肢として挙げられていましたので,
今後,ふたたび画像問題で(今後は正答として)登場する可能性も高いと考えられます.
MRI画像は必ず確認しておきましょう.
その他,診断法としておさえておきたいのは,脳脊髄液検査です.
通常のCSF検査では正常ですが,
PCR法による遺伝子増幅で,JCウイルスの遺伝子の同定が容易にできるため,
診断の一助として広く用いられるようになっています.
厚生労働省の調査研究班が,診療ガイドライン(最新版は2020年版)を公表しています.
各項目ごとにクリニカルクエスチョン(CQ)に対する回答としてポイントがまとめられているので
興味のある人はぜひその部分だけでも,読んでみましょう.
MRI画像や病理画像も掲載されています.
112〜116回国試での出題は?
医師国試では,正答にはされていないものの,
これまで何度か,間違い選択肢にPMLが登場しています.
110回と112回でそれぞれ1問,「JCウイルス」という言葉も間違い選択肢にあがっています.
(▲QBオンラインにログインしていれば,直接飛べます!)
出題基準にも入ったことで,いつメインテーマで出題されてもおかしくありません.
多彩な臨床症状に加え,
●頭部MRI画像を読み取れるようにしておくこと
●脳脊髄液のJCウイルス DNA遺伝子検査が有用であること
●確定診断となる病理所見(脱髄,核の腫大,JCウイルスの存在)を理解しておくこと
さらに,他の類似疾患(白質に脳症をきたすもの)
:HIV関連神経認知障害,AIDS関連日和見感染(トキソプラズマ,サイトメガロウイルス感染症など),中枢神経原発悪性リンパ腫,多発性硬化症など
の特徴もあわせて整理し,違いを区別できるようにしておきましょう.
◆AIDSに対するART治療介入後に,
臨床症状や画像所見が増悪することがあります.
免疫力の回復と同時に,残存している病原体に対する免疫反応が生じて
一時的に日和見感染(ニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス網膜炎,結核,クリプトコックス髄膜炎など)をみるもので,
「免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome:IRIS)」とよばれています.
こちらもキーワードとして覚えておきましょう.
◆PMLには今のところ有効な治療法はなく,
認知症や高次脳機能障害に対するケアやリハビリテーションに加えて,
基礎にある免疫能の回復や,その原因疾患に対する治療が主体となります.
HIV関連の場合はART治療.
薬剤関連PMLでは,原因製剤の中止と,血漿交換療法などによる原因抗体の積極的除去が必要です.
重篤なIRISに対しては,ステロイドパルス療法や血漿交換療法が考慮されます.
しかし最近,マラリアの治療に使われている薬剤「メフロキン」が
抗JCウイルス作用をもつのではないかと報告され,
PMLの治療薬として期待されています.
◆PML自体は他者に感染しませんが,
HIV感染症が原因の場合はもちろん,感染予防対策が必要になります.
寝たきりに移行していくため,介護的なケア,さらには家族の心理的ケアも重要になります.
同じ「遅発性ウイルス感染症」であるSSPEとの類似点・相違点も整理しておきましょう.
(編集部K)
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