国試

【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(13)アシネトバクター感染症

こんにちは.編集部Kです.
連載でお送りしている,
「平成30年版医師国家試験出題基準」(適用は112回国試から)の新ワード紹介.
今回は医学各論Ⅻ「感染性疾患」の3-A「細菌(抗酸菌〈マイコバクテリア〉を除く)による感染症」の中から
「アシネトバクター感染症」を紹介します.

目次

アシネトバクター感染症って?

112〜116回での出題状況は?

 

アシネトバクター感染症って?

アシネトバクターとは通常,土壌や河川水などの自然環境中に生息している菌であり,
健康な人の皮膚からも検出されることがありますが,通常無害です.
ではなぜ今回の出題基準の改定で新たに追加されることになったのでしょうか.
キーワードは「薬剤耐性」です.

2010年に都内の大学病院で,多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(MDRAB)による院内アウトブレイクが発生しました.
通常のアシネトバクター感染症に使用するカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬全てに
耐性を示す株を「多剤耐性アシネトバクター」といいます.

アシネトバクターは乾燥した環境でも長期間生存できる菌であり,
医療施設の床などから高率に検出されるため院内感染の原因菌となりやすいですが,
そのほとんどは薬剤耐性をもっておらず通常の抗菌薬が有効です.
日本で検出されるアシネトバクターの多剤耐性率は約0.2%とかなり低いですが,
米国を中心として世界各地で多剤耐性アシネトバクターの院内感染事例が多発しているため,
日本国内においても抗菌薬の適正使用による多剤耐性菌出現の抑制をしていかなければなりません.

一度発生すると医療従事者の手などを通じ,接触感染によって病院内に広がる可能性があるため,
標準予防策〈スタンダード・プレコーション〉を基本とした十分な院内感染対策が求められます.

アシネトバクター感染症は免疫低下状態にある患者に対し,
人工呼吸器関連肺炎、血流感染症、創部感染症など様々な病気を引き起こしますが、
症状は患者によりさまざまです.
また,MRSAなどと同様に保菌状態(菌は検出されるが発症はしていない状態)になることも多いため,
治療開始には慎重な判断が求められます.

また,治療に関しても抗菌薬の選択や投与量について確立したものはなく,
日本では未承認のコリスチンやチゲサイクリンが抗菌活性をもっているとされていますが,
宿主の易感染性と相まって死亡率は高くなる傾向にあります.

日常生活では,アシネトバクターが健康な人に感染することはほとんどなく,
多剤耐性アシネトバクターに感染する可能性はさらに低いと考えられるため,
今回の出題基準への追加は,今後医師として臨床に出て病院内で働くことになる医学生に向けて,
多剤耐性菌に関する理解を深めて欲しいという厚生労働省の思いが反映されたのでしょうか.

今回紹介した「アシネトバクター感染症(多剤耐性アシネトバクター)」は
「抗菌薬の適正使用[antimicrobial stewardship〈AMS〉],薬剤耐性[antimicrobial resistance〈AMR〉]」とも関連しています.
近年,MRSAや多剤耐性緑膿菌をはじめとした多剤耐性菌に関する問題は国試でも頻出事項であり,
これらのトピックスについてしっかりと理解することが国試攻略には重要ですね.

112〜116回での出題状況は?

さて,こうして注目されているアシネトバクター感染症ですが,

112〜116回での出題はありませんでした!

ただ,MRSAや多剤耐性緑膿菌をはじめとした多剤耐性菌に関する問題は国試でも頻出事項であり,

これらのトピックスについてしっかりと理解することが国試攻略には重要ですね.

なお,114回では初めて薬剤耐性<AMR>対策アクションプラン(2016-2020)についての出題があったことから,この内容についても学習しておくことをおすすめします.

(以下,QBオンラインに登録・ログインしていれば直接飛べます!)

114F3

それでは次回もお楽しみに!

(編集部K)

第1回:適用はいつから?
第2回:何が変わったのか~問題数100問減の影響は?~
新ワード紹介(1)非閉塞性腸管虚血症(NOMI)
新ワード紹介(2)胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)
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新ワード紹介(4)nephrogenic systemic fibrosis(NSF)
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新ワード紹介(14)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
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