国試

【平成30年版医師国家試験出題基準】新ワード紹介(10)タンデムマス・スクリーニング

目次

[ゴロもあるよ]新生児マススクリーニング対象疾患の確認
従来の新生児マススクリーニング
タンデムマス法の長所
タンデムマス・スクリーニングの対象疾患
過去問で力試し

[ゴロもあるよ]まずは新生児マススクリーニング対象疾患の確認

突然ですが,みなさん!新生児マススクリーニング対象疾患(6疾患),ちゃんと言えますか?

  • ・クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)
  • ・先天性副腎皮質過形成
  • ・ガラクトース血症
  • ・フェニルケトン尿症
  • ・メープルシロップ尿症
  • ・ホモシスチン尿症

の6つでしたね.覚えてない人はこちらで確認しておきましょう!

医ンプット
(お気に入りのゴロを見つけて暗記しよう!自分の考えた暗記法を投稿することもできますよ!)

さてこちらの新生児マススクリーニングなのですが,実は平成26年4月から対象疾患が6疾患から約20疾患に増えています.その鍵をにぎるのが,今回紹介する「タンデムマス・スクリーニング」なのです.

「え!?6疾患じゃなくてもっと多かったの?そんなの知らないぞ??」という人も,
「タンデムマスってなんとなく聞いたことあるけど,実際のところよくわかんないなー」という人も,
「そもそも新生児マススクリーニングってなんやねん」という人も,
一緒にマススクリーニングについての理解を深めていきましょう.

従来の新生児マススクリーニング

まず,従来の「新生児マススクリーニング」について簡単に説明すると,

・日本では1977年から始まった「障害発生の予防」のための公共事業.

・先天代謝異常など,放置するといずれ重大な障害が生じうる疾患を対象とし,日本で生まれる全ての新生児に対して行われるスクリーニング検査.

・生後数日の新生児のかかとから,ごく少量の血液をろ紙に染み込ませ,専門の検査機関に送る.

・検査で陽性が出れば,専門医の診察を受けて適切な治療や生活指導を受ける.

小児科や産婦人科の実習などで,新生児室にて赤ちゃんのかかとに小さい針で穴を開けて血液を絞りだすのを見たことがある人もいるかと思いますが,このスクリーニング事業のおかげで1万人以上の小児が障害の発生を免れたとも言われております.

タンデムマス法の長所

さて,そんな新生児マススクリーニングですが,1990年に米国にて新しい検査法が開発されました.それが「タンデムマス法」です.世界でも2000年以降次第に普及するようになり,日本においても「タンデムマス法」によるスクリーニングを導入するかどうか,検討が進められてきました.

そして,2014年に正式に導入され,全国の都道府県で「タンデムマス法」を用いたスクリーニングが行われるようになりました.

タンデムマス法では「タンデム型質量分析計」という非常に感度のいい測定機器を用い,これまで使っていた血液ろ紙を使い,一回の分析(約2分間)でより多くの病気をスクリーニングすることができるようになりました.対象疾患が増えたことで,今までより多くの小児が障害発生を予防することができると期待されています.

現在では,従来の対象6疾患のうち,アミノ酸代謝異常であるフェニルケトン尿症,ホモシスチン尿症,メープルシロップ尿症の3つは,タンデムマス法によるスクリーニングが行われています.(クレチン症,先天性副腎皮質過形成,ガラクトース血症は従来の方法で続けられている.)

さらに従来行われていたガスリー法よりも検査精度が良いため,
「再採血」の率も低くおさえられ,家族の精神的負担や精密検査の費用負担の軽減にも一役買っています.

タンデムマス・スクリーニングの対象疾患

良いことずくめの「タンデムマス・スクリーニング」ですが,具体的にはどんな疾患が対象疾患として追加されたのか.みなさん気になりますよね?

国試対策の上では,ひとつひとつの疾患名を覚える必要はないですが,この機会に一挙に羅列してみましょうか.

[タンデムマス法により発見しうる疾患]

〈アミノ酸代謝異常〉

1.フェニルケトン尿症
2.ホモシスチン尿症
3.メープルシロップ尿症
4.シトルリン血症1型
5.アルギニノコハク酸尿症
6.シトリン欠損症
7.高チロシン血症1型
8.高アルギニン血症

〈有機酸代謝異常〉

9.メチルマロン酸血症
10.プロピオン酸血症
11.イソ吉草酸血症
12.メチルクロトニルグリシン尿症
13.ヒドロキシメチルグルタル酸血症
14.複合カルボキシラーゼ欠損症
15.グルタル酸血症1型
16.βケトチオラーゼ欠損症

〈脂肪酸代謝異常〉

17.MCAD欠損症
18.VLCAD欠損症
19.三頭酵素欠損症
20.CPT-1欠損症
21.CPT-2欠損症
22.CACT欠損症
23.全身性カルニチン欠乏症
24.グルタル酸血症2型
25.SCAD欠損症
26.トランスロカーゼ欠損症

※番号に下線はタンデムマス法により発見しうる疾患の中でも見逃しの少ない「1次対象疾患(16疾患)」.

[おまけ:従来法によるスクリーニング対象疾患]

①クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)(ELISA法)
②先天性副腎皮質過形成(ELISA法)
③ガラクトース血症(Beutler法,Paigen法)

いかがでしょうか?
それぞれの疾患名を覚えるよりも,従来のアミノ酸代謝異常に加えて,「有機酸代謝異常疾患」や「脂肪酸代謝異常疾患」もスクリーニングできるようになったと大まかに覚えておきましょう.

「タンデムマス法」によって追加された「先天性代謝異常疾患」の発生頻度は,いずれも数万から数十万分の1という非常に低い確率ではありますが,これらの疾患を合計すると1万分の1以上の確率で遭遇することになります.毎年約100万人の新生児が生まれていますから,「タンデムマス法」の導入によって新たに毎年100人以上の小児を障害発生から予防することができるのです.素晴らしいですね.

(ちなみに,2014年6月の発売以降多くの反響をいただき,国試小児科対策のスタンダードとして多くの受験生の手にとってもらえた「レビューブック 小児科」が2020年7月に待望の第4版の発売しましたが,そちらでも「タンデムマス・スクリーニング」に関するまとめの表を掲載しております!)

過去問で力試し

それでは,最後に110回国試の問題をみてみましょう.

【110B12】
タンデムマス法による新生児マススクリーニングの検査対象となるのはどれか.
a 核酸代謝異常
b 金属代謝異常
c 有機酸代謝異常
d ムコ多糖体代謝異常
e ミトコンドリアDNA異常

「タンデムマス法」では,従来のアミノ酸代謝異常に加えて,「有機酸代謝異常疾患」や「脂肪酸代謝異常疾患」もスクリーニング出来るようになったんでしたね.
よって答えはcです.しかし,この問題の正答率は50.8%とかなり低めでした.

「タンデムマス・スクリーニング」はこの問題が国試初登場となったので(そもそも出題基準にはまだ載ってないのに出題されちゃったので),多くの受験生が困惑しながら解いたことでしょう.この問題の正答率が低かったことから,今後リベンジ問題として再登場する可能性は大いにあります.きっと.

それでは,次回もお楽しみに!

(編集部W)

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