コラム

【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

 

みんなの心電図

〜非専門医のための読み方〜

 

第27回 頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

 

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お化け屋敷に入ったりすると健常人だってドキドキはします.
これは交感神経刺激に賦活化された洞結節が頻回に興奮するためで,病的とは言えません.

 

一方で,このような正常反応ではなく病的に洞結節または心房を起点に
上室性頻脈が発作的に起こるものが上室性不整脈です.
これには大きく6種類のものがあり,
これらは機序という点から3つのグループに分けることができます.

1.心房のワンポイントで興奮が亢進することで生じる頻拍

 

①洞頻脈
洞頻脈とは,病的な原因によって洞結節の自動能が亢進し,
洞結節から刺激がたくさん出ることによって生じる頻脈のことです.
甲状腺機能亢進症や貧血などによって生じることがあります.

 

②心房頻拍(AT)〔異所性心房調律〕
心房頻拍(AT)(異所性心房調律と呼ぶこともある)とは,
洞結節以外の細胞のペースメーカー機能が亢進し,
洞結節以外の1点の細胞が興奮したものです.

 

2.心房内で回旋する電気回路が発生し,房室結節に頻回刺激が入るタイプの頻拍

 

①心房細動(AF)
とらえきれないほど小さなリエントリーが心房内に
さざ波のようにいたる所でアットランダムに生じるものを
心房筋が細かく震える様から心房細動(AF)と呼びます.

 

②心房粗動(AFL)
一方で三尖弁輪周囲を中心として心房には
大きく心房内をリエントリーが回旋しやすい解剖学的位置が存在し,
そうした電気の旋回により生じる規則正しい頻拍を細動と対照的に
心房粗動(AFL)と呼びます.

 

3.心房を起点に房室結節-心室を含むリエントリー回路ができることにより生じる頻拍

 

①房室回帰性頻拍(AVRT)
心房筋起点の電気刺激が副伝導路を介して
心房→心室→心房と順に旋回するものを
房室回帰性頻拍(AVRT)と呼びます.

 

②房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)
リエントリー回路の大きさがもっと小さく房室結節内にとどまるものもあります.
これはnarrow QRSとなることから上室性にしばしば分類されます.
これを房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)と呼びます.

 

AVRTやAVNRTはともにリエントリー旋回が発作的に生じて,
自然停止すること,また旋回回路に房室結節を含み
同部位の遮断薬(ATP)によって薬物療法で
停止可能であることにおいて似た特徴を持ちます.
このためこの両者をまとめて発作性上室頻拍(PSVT)と呼ぶこともあります.

 

以上が上室性頻脈性不整脈の鑑別,すなわち,
洞頻脈,心房頻拍(AT),
心房細動(AF),心房粗動(AFL),
房室回帰性頻拍(AVRT),房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)です.
たくさんありましたが,覚えられたでしょうか?
それでは次回からは電気生理学に立ち戻って順番にそのメカニズムを見ていきましょう.

 

 

今回のまとめ
●上室性頻脈には大きく6種類のものがある.
●これらは機序の点から次の3グループに分けられる.
心房のワンポイントで興奮の亢進をみとめるもの:洞頻脈,心房頻拍(AT)
心房内にリエントリー回路が限局してできるもの:心房細動(AF),心房粗動(AFL)
心房を起点に房室結節-心室を含むリエントリー回路ができるもの:房室回帰性頻拍(AVRT),房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)

 

 

 

著者:Dr. ヤッシー
内科医.心電図読影へのあくなき探求心をもち,
循環器非専門医でありながら心電図検定1級を取得.
これまでに得た知識・スキルを臨床現場で役立てることはもちろん,
教育・指導にも熱心.若手医師だけでなく,
多職種から勉強会開催の要望を受けるなど,頼られる存在.

 

 

 

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–「みんなの心電図」目次–

【第1回】連載のコンセプトと自己紹介
【第2回】初学者はなぜ,心電図を苦手と感じているのか?
【第3回】心電図でわかること,わからないこと
【第4回】近づく電気,離れる電気
【第5回】電極のつけ方と基本波形
【第6回】P波はⅡ誘導とV1誘導を見よ (刺激伝導系その1  心房の伝導)
【第7回】心房から心室へは1本道(刺激伝導系その2 房室結節の伝導)
【第8回】心室壁の高速道路と一般道 (刺激伝導系その3 ヒス-プルキンエ線維の伝導)
【第9回】心室壁はつっかえないように縮んで,伸びる(QRST波形理解の下準備その1)
【第10回】パッチクランプ法でみる細胞1粒の活動電位(QRST波形理解の下準備 その2)
【第11回】QRST波形の成り立ち(刺激伝導系その4 心室の興奮と弛緩)
【第12回】QRS波の胸部誘導でのグラデーションを感じよう
【第13回】心電図を確認する眼の動き
【第14回】冠症候群の診断は合わせ技1本
【第15回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (1)T波増高
【第16回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (2)ST上昇
【第17回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (3)異常Q波
【第18回】心筋梗塞の心電図の成り立ち (4)冠性T波
【第19回】心筋梗塞の心電図は出る順番が大切
【第20回】心内膜下虚血の心電図 ST低下
【第21回】ST変化の鏡面像(Mirror image)
【第22回】冠血流域と誘導の対応関係
【第23回】速読式 心拍推定
【第24回】速読式 QT延長推定と基礎疾患
【第25回】頻脈の読影が心電図では最も難しい
【第26回】頻脈性不整脈の分類 (1)上室性と心室性
【第27回】頻脈性不整脈の分類 (2)上室性頻脈の種類

 

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